日本に導入される「タルガ4S・7段PDK」に試乗タイプ991の新型タルガは、先代の997タルガがそうだったようにすべて4WDだから、その機構部分にはカレラ4のメカニズムを使っている。さらにいえば、タルガボディのベースとなっているのはカブリオレボディだから、カレラ4カブリオレが新型911タルガの直接のベースであるといって間違いはないだろう。 そのモデルレンジは、3.4リッターエンジンの「タルガ4」と、3.8リッターエンジンの「タルガ4S」の2車種があるが、昔の集落の遺跡を連想させるファザーノの石造りのホテルで僕らを待っていた試乗車は、すべてタルガ4Sだった。上級モデルだけ揃えてあるというのは、ポルシェのニューモデルの国際試乗会にはよくあるパターンである。 そこで、僕ら日本のジャーナリストグループが試乗したのは、タルガ4SのPDK仕様だった。タルガ4、4Sともにトランスミッションは7段MTと7段PDKが用意されていて、第一報には日本仕様はどちらも選択可能とされているが、正しくは日本にはPDKしか導入されない。そのため現地で僕らが乗ったのも、すべてPDK仕様だった。 ボディ剛性と風に対する反応をチェックタルガというキャビンのトップに特殊な形状および機構を持ったクルマに試乗する場合、チェックするべきはどこなのか。それは、ボディ剛性と、風に対する反応である。そこでまずは、トップを閉じた状態におけるボディの剛性感をチェックしてみた。 なぜなら、空冷時代の同形式のタルガの最終モデルである964タルガにその現役時代に乗ったとき、不整路面では僕が想像していた以上にボディが捻れているらしく、ピラー類とビニール製のトップが擦れる音が耳に入ってきたからだ。というわけで、果たして最新のタルガはその点どうなのか、大いに興味があったのである。 そこで、991ボディの捩じり剛性の数字をチェックすると、クーペが30,000Nm/deg、カブリオレが11,800Nm/degであるのに対して、タルガは13,400Nm/degになるという。つまり、ベースになったカブリオレと比べると、例のBピラーの追加が効果を発揮して12%ほど上回っているが、クーペと比べると半分弱の捩じり剛性ということになる。 では実際に走ってみてどうだったかというと、南イタリアの道には荒れた部分もけっこうあったが、964で気になったトップ周辺の擦れ音などが耳につくことはなく、ボディが緩いという印象を明確に感じることはなかった。タルガ4Sが不整路でも20インチのピレリPゼロを履く脚のバタつきを感じさせなかったことでも、それは立証できるといえる。 キャップが飛びそうになる心配は皆無だが…では、風との相性はどうだったか。まずトップを閉じた状態での話だが、これはかなり具合がよかった。ウソのように空いたアウトストラーダで、瞬間的にドイツのアウトバーン並みのスピードを出してみたが、それでもトップの風切音が気になるレベルに達することはなかったから、日本で経験できるスピードではほとんど問題ないと推測できる。 続いてトップを開いてみた。そうしたら、サイドウインドーを上げてあっても予想以上にコクピットに風が入ってくる感じで、特に高速道路のペースまでスピードを上げるとその印象が強い。とはいえ、フルオープンのカブリオレと比べれば風の侵入はマイルドだといえるから、被っていたキャップが飛びそうになるような心配は皆無だった。 それよりもむしろオープン状態で気になったのは、Bピラーの左右の角のあたりから発せられる風切音の方だった。風をコントロールするために、フロントのウインドーフレームの上にディフレクターが備わっていて、その高さを手動で調整することができるのだが、それをいじっても風切音を完全に排除することはできなかった。 いずれにせよ、カブリオレほどオープンではないけれど、単なるスライディングルーフよりはずっと開放感のある、建物でいえばパティオのような半戸外的空間をエンジョイできるのが、タルガに乗る大きな愉しみのひとつだといえるのではないかと思う。 リアが重くなった影響は?ところで911タルガ、前記のようにカレラ4カブリオレのボディをベースにして成り立っているが、例のBピラーに加えて二重の合わせガラスを使ったリアウインドーや電動の開閉機構など、タルガ化のために加わった重量は決して少なくはない。結果、4Sの車重は1575kgと、カブリオレの40kg増し、クーペと比べると110kg増しになる。 その影響で、例えばPDK仕様タルガ4Sの0-100km/h加速は標準モードで4.6秒と、クーペより0.3秒、カブリオレより0.1秒遅くなっている。とはいえ、スロットルを深く踏み込んだ時の加速は実に胸のすくものだし、294km/hという最高速に不満を感じることもあり得ないだろう。というわけで、パフォーマンスはまったく充分、という印象を得た。 一方、110kgの重量増が主に後輪の周辺で発生し、しかもそれが比較的高いところにあるから、コーナリングには何らかの影響があると考えられる。ところが今回、試乗ルートにはこれといったワインディングが見当たらず、本気でコーナリングを攻めるチャンスがなかった。したがって、限界的な領域での話をすることはできないが、少なくとも路上を普通のペースで走る限り、リアが重くなった影響をコーナリングに感じることはなかった。 ところで、ここまでスタイリングについて触れてこなかったが、特に斜め後方から見た新型タルガのボディはスタイリッシュで、実に魅力的だといっていい。そこで、このデザインを担当したデザイナーのグラント・ラーソン氏と話をしてみたら、彼は356や912を所有するディープなエンスージアストなのだった。その彼の手になる、通常のクーペとは一味違うデザインと、半戸外的オープン空間。そのふたつが生み出す、並みの911とは違う独特の洒落っ気とプレミアム感が、新型タルガの大きな魅力なのは間違いない。 |
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