画像より大きく見えるボディ。EVとしての加速は控えめSUBARU「ソルテラ」プロトタイプの試乗会が群馬県の群馬サイクルスポーツセンターのクローズドコースで行われた。コース上には雪が積もっており、一部凍結部分を含む圧雪路でソルテラ初体験となった。その2日前にサーキットで試乗したトヨタ「bZ4X」プロトタイプの印象と合わせてご報告。 それまで画像のみで見ていたソルテラは、実際に見ると大きく感じた。サイズは全長4690mm、全幅1860mm、全高1650mm、ホイールベース2850mm。bZ4Xは全高のみ異なり、ソルテラよりも50mm低い1600mm。例えばトヨタ「RAV4」と比較すると、95mm長く、20mm幅広く、ソルテラだと高さはほぼ同じ。 外観上の一番の特徴は、前後フェンダーアーチの樹脂むき出しの部分だろう。フロントはヘッドライトの外側にまで回り込んでいるのがユニークだ。ボディカラーは白などの明るい色だとダルメシアンのようにも見える。ボディサイド下部と合わせ、この樹脂によるツートーン化は、天地に厚く見えるボディを薄く見せる、SUVがよくやる手法だ。 なにはともあれ乗り込んで運転席に腰を落ち着ける。シートはソフトで、平坦な形状に見えてまずまずフィット感が高い。メーターは高く奥まった位置にあり、ステアリングホイールの円の中からではなく上から見るタイプだ。光が当たっても見えにくくなりにくい高輝度液晶を用い、バイザーをなくした。ステアリングの角度によってはメーター下部が見えにくいが、あらかじめそれを想定して重要な情報はだいたいメーター上部3分の2の範囲に映し出されるので大した問題ではない。 ATシフターはPが独立したボタンのダイヤルタイプ。基本のニュートラルポジションから、Rは左に、Dは右にそれぞれ外周部分を押しながら回して選ぶ。この2日前にbZ4Xで初体験した時にはまどろっこしく感じたが、2回目のソルテラ試乗でやや慣れた。センターパネル上部のディスプレイは使い勝手を考慮しつつ限界まで高さを下げたそうだ。ワイドで12.3インチと大きいので左のほうは若干身体を倒さないと手が届かないが、問題というわけではない。 コースは除雪により確保されてはいたものの、道幅は本来よりもずいぶん狭められ、クルマ一台分プラスαしかない。それに沿ってミニ四駆のように走行した。Dレンジを選んでスタート。他の多くのEV同様、静々とスムーズに発進する。ソルテラにはFWDと4WDがあり、試乗したのは4WD。フロント、リアともに最高出力80kW(109ps)のモーターを積み、システム最高出力は160kW(218ps)。最大トルクは337Nm。FWDは前車軸に最高出力150kW(204ps)のモーターを積む。 パワートレーンを共有するbZ4Xを全開走行させて感じたのは、おとなしいというか大人っぽいというか、EVとしては控えめな加速力だということ。2トン前後の車重に150-160kW(200ps前後)のパワーなので、そりゃそうかという感じ。全乗用車の平均からすればパワフルだが、刺激的なEVが多いなか、ソルテラ、bZ4Xは速さにフォーカスしていない。最初から全部出さないということかもしれない。 低ミュー路でややラフに発進させても四輪で路面を掴んでダッシュしてくれるのは4WDならではで、頼もしい。もっとラフに踏むとトラクション・コントロールが発動する。次にそれをオフにして踏み込むと四輪が路面を引っ掻き、車体を揺らしながら勇ましく加速する。広い雪上コースでは楽しそうだ。 満充電時のワンペダル操作は要注意だが気持ちの良いハンドリングアクセルオフによってモーター駆動ならではの強い減速度を得られるSペダルドライブが備わる。ATシフター脇のボタンを押してアクセルペダルを戻す。減速しない。あれ? ブレーキペダルを踏んで停止し、確認するとオンになっていなかった。確かにボタンを押したのに。理由は単純だった。朝イチの試乗枠ということでバッテリー残量がほぼ100%あったため、回生の余地がなく、オンにならなかったのだ。自宅で充電すれば、朝100%の残量でスタートすることもある。朝が最も滑りやすい路面状況も珍しくないわけで、ここは満充電にしてもSペダルドライブ用に回生の余地を残すなど、なんとかしてほしい。 走行を続け、残量が目視で90%程度になると作動するようになった。そこからはいわゆるワンペダルドライブが可能となる。アクセルペダルの操作のみでの加減速は実にコントローラブルで便利かつ快適。感覚的にはアクセルを戻すと同時に減速が立ち上がるが、実際には一瞬のタイムラグを設けることでドライバーにとって違和感のない減速を実現しているとのこと。本当に戻すと同時に減速させると操作しにくいそうだ。前後にモーターがあり、四輪で回生できる4WDのほうが低ミュー路での減速はコントロールしやすいはずだ。 残念ながら停止寸前でクリープに切り替わるため完全停止まではしない。スバル、トヨタのエンジニアともに「最後はドライバーがブレーキぺダルを確実に踏んで停止させるべき」とその理由を語る。交通の流れを乱さない範囲で、先を見据えてアクセルペダルから足を離し、ちょうど停止させたい位置で停止させるのは便利かつ効率的な動きだと思うが、操作に不安があるドライバーに合わせてクルマを設定することには不満が残る。オン/オフの設定もできるし。もし今80歳だったらこれでよしと思っただろうか。 ただバッテリー残量が減って作動させられるようになっても、下り坂による回生で残量が90%以上に復活するとまた一時的に使えなくなる。90%付近で使えたり使えなかったりのゾーンがあるのは、決定的ではないが不満といえば不満だ。 ソルテラにはステアリングにパドルが備わり、減速の強さを4段階から選べる。つまり走行中に左パドルを引く度に、エンジン駆動車のダウンシフト同様に減速が強まり、減速をコントロールすることができる。パドル操作で得られる最大の減速よりもSペダルドライブのほうが強い減速が得られる。bZ4Xにはパドルがない。 もう一点、bZ4Xと違ってソルテラはドライブモード選択が可能だ。パワー、ノーマル、エコの3モードがある。名前から想像する通りの挙動をする。パワーモードだから最高出力が上がるというわけではなく、アクセル操作に対しパワーが素早く立ち上がるのがパワーモードだ。反対にエコはアクセル操作に対し穏やかに反応する。 絶対的車重は重いが、車体中央の低い位置に重量物が集まっているため、曲がりくねったコースを走らせた際に重量バランスのよさを感じることができる。スバル・フォレスターよりも重心高が85mm低い。加減速がレスポンシブで、重量バランスに優れていることはクルマとして絶対的に正義で、どんなコース、どんな速度域でも正確で気持ちよいハンドリングを楽しみながら走らせることができる。 ソルテラ、bZ4Xのバッテリー総電力量(容量)は71.4kWh。最大150kWの出力での急速充電に対応するので、国内に存在するどの急速充電器であっても、その充電器がもつ性能を最大限発揮できる。航続距離性能は公表されていないが、70kWhもあれば多くの人にとってまずまず十分の実用性といえるだろう。容量は多ければ多いほどよいが、確実に高価になるし、重くなればなるほど、増やしただけ距離を伸ばせるわけではなくなる。日産「アリア」やヒョンデ「IONIC5」も同程度の容量ということを考えると、(おそらく)500万円級のEVの現時点での標準的な容量が70kWh前後ということなのだろう。 バッテリーの耐久性も考慮された“普通に”よくできたEVバッテリーは走行、充電性能や耐久性を考慮し温度管理システムが導入されている。バッテリー温度が高ければ冷媒による冷却水で、低ければ水加熱式ヒーターでバッテリー温度を一定範囲内に保つ。世界トップレベルの電気容量維持率を目標として開発したそうで、bZ4Xのバッテリー関連のエンジニアによれば、このバッテリーは普通充電中心の使い方と急速充電中心の使い方で性能維持にほとんど変化がないという試算が出ているという。今すぐ検証するのが難しいのがもどかしいが、これが間違いなければ、自宅で充電できない人がEVを検討するうえで非常にありがたい性能ということになり、個人的には心が踊った。 グリップコントロールという新機能を試すため、鉄骨を組んだ人工的なモーグル区間も用意されていた。グリップコントロールは悪路版低速限定クルーズコントロールで、設定速度を保って加減速してくれるので、ステアリング操作に集中できるというもの。まず右前輪が完全に浮いた状態となるが、一瞬空転した後、すぐに空転輪のみにブレーキがかかり残り3輪の駆動で進んだ。続いて左後輪も浮き、シーソーのギッコンバッタン状態。最後に左後輪のみが浮いた状態となるが、やはり残り3輪にしっかりトラクションがかかり、スムーズに前進を続けることができた。同じ区間をスバル自慢のX-MODEでスノー/ダートモードを選んで走行すると、浮いた車輪の空転がほとんど感知できないほど減り、よりスムーズに走行することができた。EVになってもスバルはスバルだった。bZ4XにもX-MODEは備わる。 その代わりというわけではないだろうが、予防安全装備はアイサイトではなくトヨタ・セーフティー・センスが両車に使われる。いずれにしても性能的には市販乗用車として満額回答であり、得られる安全性は変わらないはずだ。トヨタのアドバンストパークも備わり、縦列駐車、並列駐車ともに自動的に行ってくれるほか、車外からスマホでコントロールしながら駐車することもできる。 正しい文法ではないが、よく伝わりそうなのであえてこの表現を使うが、ソルテラ、bZ4Xは“普通に”よくできたEVだった。でも普通。他のEVに抜きん出て素晴らしいと感じる部分も劣っていると感じる部分もない。思うに、今年年央とされる発売のタイミングは、トヨタ、スバルが本当に発売したいタイミングだったとは思えない。たとえばbZ4Xはサブスクリプションの「KINTO」のみで扱われる。これは数年後のバッテリー性能のばらつきによる下取り価格の決め方などにはっきりとした基準ができていないことや、一気に普及を目指して戦略的価格でドカーンと販売するには、国内の充電器の数が足りないと考えていることが理由と思われる。 またbZ4Xの報道用資料には、ステアリングと操舵システムが機械的につながっておらず、操作を電気信号に変えて操舵システムに伝えるステアバイワイアシステムが紹介されているが、日本仕様へは採用されない。これは中国市場向けの装備で、その他の市場への導入タイミングは未定という。同システムとセットで、F1マシンのように9時15分の位置しかつかめない、持ち替えを前提としないステアリングを導入する予定もある。なるほどこれなら前述したメーターとステアリングホイールの被りもなくなる。 販売面、機能面ともにこうしたすべての体制を整えた、本来の発売予定時期があったのではないかと勘ぐってしまうのだ。それが大手メディア、海外メディアにBEVへの取り組みの消極性を指摘され続けたトヨタが、昨年末に突如15台のコンセプトカー披露を伴う例の「EV350万台計画」をキレ気味に発表した流れを受け、ソルテラ、bZ4Xの発売も前倒しせざるを得なかったように見える。もちろん日産アリア発売にぶつける必要もあったとは思うが。現時点でも価格次第で十分に主役をなり得るEVだとは思うものの、本来はさらなる完成度といろいろなサプライズを伴ってもう少しあとから登場させる予定だったのではないだろうか。 スペック例【 ソルテラ 4WD(日本仕様プロトタイプ) 】 全長×全幅×全高=4690×1860×1650mm |
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