これ以上目立つモデルはない!ド派手なクルマ、スーパーカーとして人目を引くクルマ、今まで様々なクルマに触れてきたが、中でもこのモデルは歴代No1を競うほど目立つしカッコ良い。持続可能なクルマ社会を目指してBMWが立ち上げた次世代車ブランド「i」のフラッグシップモデル「BMW i8」のことだ。 御忍びでクルマを使いたい人や、行動がバレたくない(?)人は間違っても選んではいけない。映画の為につくられたスペシャルモデルのような独創的なデザインは、生で見ても1297mmの極低の全高に1942mmの極広なプロポーションが異様で、“我ここにあり”と強く自己主張しているからだ。 試乗したのはカリフォルニアの、日本で言えば湘南や鎌倉に相当するサンタモニカやマリブだ。高級ブティックなどが軒を連ねるビバリーヒルズのロデオドライブなど、時間が許す限り様々な場所を走ったが、人目がウザい、と思うほど見られる。走行中は並走して写真を撮る人もいるし、駐車していると勝手にクルマの前でポーズを決めて撮影する人がいる。日本人の気質では、そこまで大胆な行動を取る人は少ないだろうが、何にせよ目立つのは覚悟しておいた方がいい。 ではなぜBMWの中で、このモデルはここまで強い個性を持って商品化できたのか? コンセプトモデルのカッコよさを優先i8が開発された背景は、09年のフランクフルトモーターショーまでさかのぼる。その当時、BMWの全モデルに強く掲げられた、効率よくダイナミックな性能を得る「エフィシエント・ダイナミクス」思想の象徴となるコンセプトモデルとして「ビジョン・エフィシエント・ダイナミクス」が発表された。その好評ぶりから、i8の市販化が決定して開発がスタートしたわけだ。 コンセプトモデルを忠実に再現して量産するべく、開発にはおよそ38ヶ月が費やされた。詳しい人なら察しがつくと思うが、コンセプトモデルを忠実に再現したからこそ、カッコ良さや存在感が手に入り、逆に言えば実用性は犠牲になっている。 例えば、i8の斜め上方に開くドアは、閉じる際に手が届きにくいし、狭い駐車場では乗り降りにも苦しむ。「なぜ上方にドアが開くようにしたのか?」との質問に、キョトンとした顔で「コンセプトモデルがそうだったから…」との答えが返ってきたのが印象的だ。 ドアが開いても、今度はサイドシルと呼ばれる骨格が極太で、さらにシートがサイドシルよりも低く設置されているため、男性でも乗り降りにコツが必要で、スカートの女性となると適切な言葉も出てこない。また、後席はオマケの様なもので、荷物置き程度には使えるが、人が乗るなら身長150cmが限界といった広さだし、トランクはトートバックがやっとの狭さで、エンジン熱で暖められてしまうオマケ付きだ。 しかし改めて強く言おう。i8はクルマを移動する為の便利な道具という価値観での商品力は極めて低いが、ライフスタイルを楽しく優雅に気持ちよくという価値観では抜群の商品力を持っている。 最先端の空力デザインとカーボン技術見た目にばかり目が行きがちだが、中身にこそi8の本質がある。独創的なデザインも、効率とダイナミクスの両立を求めた結果として出来上がったものだからだ。 例えば空力。高速道路を100km/hで走るということは、100km/hは秒速約28mだから、風速28mの暴風に逆らうようなもの。i8はボディの上面と下面は当然として、ボディそのものをしずく状にして、前後左右の空気の流れを整えて後方で綺麗に集める事にこだわった。また、リアガラスのサイド部の複雑怪奇な形状は、ボディの左右から空気の力で挟むサイドウイング形状になっていると考えれば理解しやすい。こうしたコンセプトで空気抵抗を減らしつつ、空気の力でクルマを安定させることに成功。実際に高速道路では、車体の低さも関係するがドシッと安定したドライブが可能だ。 複雑な形状のカーボンパーツの量産を実現した製造技術も凄い。カーボンファイバーはゴルフのシャフトを始め、一般の製品にも使われているが、価格や成形時間の問題から大量生産に向かないことが難点だ。しかし、BMWはこのカーボン素材で短時間成形と大量生産を可能にした。年間300トン、将来的には9000トンのカーボンを生産して成形する体制を組み、量産効果でコストを抑え、しかも成形時間が少ない事でもコスト削減に成功。カーボンならではの軽くて複雑な形状を、コスト高騰を最大限に抑えつつ実現することで、i8は機能と技術の美をまとうことができたのだ。 ちなみに外板パネルでは、衝突した際の歩行者保護でボンネット、開け閉めへの耐久性対応でサイドドアにだけ、カーボンではなくアルミ素材を使っている。 まるで横に移動するようなコーナーリングここまで軽さにこだわるのは、効率とダイナミクス性能の双方を追求するためだ。i8はBMWグループ初のプラグイン・ハイブリッドモデル。外部からの充電が可能で、フル充電で35kmのモーター走行ができる。 約200kgのPHVユニットの重量増へ対処するために、乗員スペースを軽量なカーボンでつくり、車両重量を1485kgに抑えることに成功。しかも、バッテリーなどの重量物をクルマの低い部分に配置して、低重心化と走りのバランスを向上させる前後重量バランスの最適化も実現している。数値を見てもi8はBMWのラインナップで最も“腰を落とした”重心高460mm以下となっているのだ。 このi8で開発された技術は、後にBMWの他のモデルへ展開されるだろう。スポーツ性能を突き詰めたMモデルの技術によって通常のBMWモデルの走りが磨かれるように、効率向上技術の追求として、iは今後、BMWの車両開発の重要な役割を担うことになる。 そのルックスからも地面にベタッと張り付くイメージがあるが、i8の実際の動きはそれ以上だ。重心の低さにより、カーブではクルマが傾く感覚がとても少なく、路面に吸い付くような感覚と共に、横にクルマが移動している錯覚を生むほどの旋回力を生む。しかも前後バランスが良いためか、クルマ自らが乱れたバランスさえも収めてしまうのだ。 興味深いことに、タイヤは特に太くはない。むしろ、軽量化と低重心と重量バランスの良さにより、タイヤを太くした様な安心感とドッシリ感が生み出され、i8が紛れも無いスポーツカーであることを実感させられるのだ。 もちろん、このスポーティな走りを100%味わうべく、i8のシート形状は適度なタイト感があり、センターコンソールはドライバー側に12度傾けられて“コクピット感”が演出されている。さらに言えば、前方見切り性能が良いわりに、特別なクルマを運転している感覚を絶えず感じられるのも魅力だ。 イメージを覆す3気筒エンジンのフィーリングPHVのチューニングによる走りの気持ち良さも特筆モノだ。i8のPHEVシステムでは、フロントタイヤはフロントに搭載された131ps/250Nmを発生する電気モーターのみで、リアタイヤはリアに搭載された231ps/320Nmを発生する1.5L直列3気筒の直噴ターボエンジンで駆動する。つまり、エンジンが始動しない限り前輪駆動のクルマなのだ。 しかし、試乗ではモーターだけを使ったEV走行でも、前輪駆動という感覚はない。剛性の高さなのか、シャシーとキャビンが別々に構成されるiシリーズ特有の構造によるものなのか、FR的とまでは言わないまでも、4輪駆動のような自在感を抱く。 ちなみにフロントモーターだけで120km/hまで走れるうえに、200km/hオーバーでもモーターはアシストとして働く。専用の2速トランスミッションを高回転が苦手なモーターに組み合わせ、高速領域でも積極的に使えるようにしてある。エンジンとモーターを組み合わせたシステム最大出力は362ps/560Nm。0-100km/h加速わずか4.4秒の力強さと、モーターならではのリニアなレスポンスにより、走行ステージを問わず意のままに速度コントロールできる感覚が気持ちいい。また、ハードなスポーティドライブでは、カーブ出口でのアクセルの踏み込みに対して、グィッとモーター駆動のフロントタイヤがクルマを引っ張ってくれる。 直列3気筒エンジンのサウンドも大きな魅力だ。不思議なことに、V8エンジンのようなビートの効いた排気音を響かせ、しかも回転振動が少なく吹け上がりが良い。BMWによれば、コストを優先したコンパクトカーの3気筒エンジンと違い、最新技術で性能を追求した3気筒エンジンは官能的なのだと言う。このエンジンに触れると、直列3気筒エンジンに対するイメージが激変して積極的に選びたくなる。実際、スポーツモードにすると常にエンジンが掛かるのだが、試乗後半はずっとスポーツモードで走っていた。 実は、エンジン始動や12V車載バッテリーを充電するためのジェネレーターモーターも、最大約20psでエンジンのアシストを行う。このアシストはターボラグを解消してアクセル操作に対する加速感をドライバーのイメージに近づけるもので、速さではなく心地よさや気持ち良さの為に煮詰められている。この辺りが、次世代車でも走る歓びを大事にするBMWらしさだ。 乗り出しで2000万円を超えるスーパーカーだが、すでに3年分のバックオーダーを抱えているという現状もうなずけるし、そうした人々を納得させる完成度に仕上がっていた。 |
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