ずんぐりしていても素直な走りのフィットツインリンクもてぎ 南コースで、次期型「フィット RS」の登場を占う!? とも言える興味深い試乗会が行われた。 これはモータージャーナリストである石井昌道氏、橋本洋平氏、まるも亜希子氏の3名が主催するレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」と、ホンダ技研 栃木研究所の精鋭が開発を行うレーシング・フィットの試乗会で、マシンは昨年11月に2時間の耐久レースとして開催された「ミニJOY耐」でデビューしている。 合わせて当日は、同じくモータージャーナリストである清水和夫氏の呼びかけで、トヨタからも「ヤリスのハイブリッド」や「TGR Rally Challenge仕様」が参加するなど、メーカーの垣根を越えたイベントとなった。 さてさっそくレース仕様のフィットに試乗! と行きたいところだが、その前にまず市販車である「フィット e:HEV」と、ヤリス ハイブリッドを乗り比べることができたので、その違いについてもインプレッションしてみよう。 まずこの両者、同じBセグコンパクトに属しながらも、そのキャラクターが大きく違うと筆者は考えている。 フィットは初代から続く、ワンモーションフォルムが最大の特徴で、これを発売以来キープコンセプトしている。リアエンドをシャトル形状にエクステンションしたボディと、センタータンクレイアウトの組み合わせによって、可能な限り広くとった室内空間。それをホンダならではのシャシーセッティングで、気持ち良く走らせることがフィットのアイデンティティだ。 対するヤリスは、大胆な変化を遂げたチャレンジャーだ。 なぜなら小型車用の新規プラットフォームを基盤に、エンジンの搭載位置やドライバーの着座位置を見直しただけでなく、軽量化と共にコンパクト化をも実現したからである。 通常フルモデルチェンジを行えば、多くのモデルが市場の声を受けて、そのボディサイズを拡大させる。そしてこれを見た走り派はブーイング、というのがよくあるパターンだ。しかしヤリスはこのセオリーを打ち破り、小型車なのに小さくなったのである。これって、ものすごい英断だと筆者は思う。 もちろんその分室内空間は犠牲となっており、ヤリスは流行りの高いアイポイントや、広い後席の居住空間を得るには至っていない。しかしながら限られたスペースの中で最大限の視界確保に努め、また広さの需要に対してはヤリスクロスを用意するという離れ業で対処した。そうしてまで得たかったのは、物理の法則に則ったコンパクトカーとしての走りの良さ。つまりホンダとは、正反対のコンセプトなのだ。 こうしたキャラクターの違いは、今回のようなコースを走らせるとさらに鮮明になる。 フィット e:HEVの走りには、どっしりとした安定感がある。そこにはヤリスに比べ僅かに広いトレッドと、前述したシャシーセッティングがもたらす接地性の高さ、そしてちょっと重たい車重が関係している。 しっとりとした乗り心地と、極めて穏やかな操舵応答性からは想像が付かないほど身のこなしが自然だ。高速コーナーではロールを適度に抑え、曲がり込んだヘアピンコーナーでは最後まで操舵感を途切れさせない。 ずんぐりしたボディを、よくもこう素直に走らせるものだと、思わず感心してしまう。 身のこなしにキレのあるヤリス対するヤリスは、フィットと同じくモーター&バッテリーを搭載しながらも、身のこなしにキレ味があった。操舵応答性はフィットよりも反応が素早く、一歩早いタイミングで旋回姿勢に入れる。ターン後のリアタイヤも接地性をそつなく確保しており、コーナリング中も安定している。だからコーナーに向けて、気持ち良くハンドルを切って行くことができるのである。 今回はタイムを計測したわけではないが、ハイブリッドユニットの加速力においては、ヤリスに分があると感じた。それは主に、両者の車重差が大きく影響しているからだろう。 また今回のJOY耐仕様を開発した石井氏によれば、これには市販車であるフィットの特性も少なからず関係しているのだという。具体的にはブレーキングからのアクセルオフで燃費性能を高めるためにエンジンがコースト(停止)し、立ち上がりからアクセルを全開にしてもエンジンが再始動するまでに、僅かなタイムラグがあるというのだ。 フィットのe:HEVはシリーズハイブリッドが基本となっているため、駆動はモーターが行う。このときバッテリーに残された電力でも駆動は多少補われるものの、主となる電力はエンジンの発電によって得られるから、加速が一瞬遅れる場合があるというのである。 もちろん一般的な使用状況で、こうした場面はほとんどない。日常のほとんどはアクセル開度の低い領域で走るだろうし、加速においてもパーシャルスロットルからじわりとアクセルを踏み足して行くだろう。そしてこうした状況であればフィットは、モーターのトルクを活かした出足の良さを見せる。 とはいえスポーティな走りをしたときにも、このe:HEVで期待に応える走りを提供したい。そうした意味を込めて、今回のJOY耐仕様は作られた。レースの現場で鍛えることによって、今後ホンダの中核をなすe:HEVの可能性を広げて行こうとしているのだという。 というわけでここからは、JOY耐仕様の本質に迫ってみよう。 フィットのモータースポーツ開発車は新型「RS」グレード開発車?モータージャーナリストが主催する「TOKYO NEXT SPEED」と、ホンダ開発陣がタッグを組んだJOY耐仕様フィットの試乗会。さてここからは、真打ちの登場だ。コースに待ち構えていたのは、青いボディカラーが鮮やかな、車高の低いレーシング仕様のフィットである。 その概要を見て行くと、まずベースとなるのはe:HEVの「BASIC」グレード。カーペットやアンダーコート、レースには必要のない装備がストリップダウンされた代わりに、広い室内にはドライバーの命を守るロールケージが張り巡らされている。 面白いのはエアコンが取り除かれていないことで、これにはふたつの大役がある。ひとつはバッテリーの温度上昇を防ぐべく、ダクトでリアまで冷風を導いている。そしてもうひとつはドライバーの冷却用。クルマの性能を維持するか、ドライバーの性能を維持するかの判断は、ドライバーに委ねられているのだという(笑)。 レーシング・フィットのアーキテクチャーは、足まわりを除いて基本的に市販車と同じだ。エンジンは1.5リッターの直列4気筒DOHC。これに2モーター式のe:HEVを組み合わせている。 ハードは量産パワートレインをそのままに。しかしその制御データを変更することで、レース用のパワーマネージメントが得られている。 まずジェネレーター出力は70kW(90PS)から78.8kW(107PS)へ、駆動用モーターは80kW(109PS)から96kW(131PS)へと出力を向上。 さらに昇圧機(VCU)も制御をレース用に変更することで、そのシステム電圧が570Vから600Vへと高められている。またバッテリーは市販車用の耐久性マージンを削り、その使用領域を拡大している。 こうした変更によって得られる効果は、中間トルクの向上。そして最大トルク継続時間の拡大だという。 またサスペンションを強化したことで車体のピッチングが抑えられ、アクセルレスポンスを高めることができた。逆にウエット走行時はそのレスポンスを緩め、接地性を確保することが可能だという。 いかついバケットシートに潜り込み、レーシングハーネスを締め込んでコースイン。 一体どんな加速をするのだろう? と身構えながら、思い切りアクセルを踏み込んでみた。………!? 一瞬グッと前に出たものの、まったく加速しない!?焦って車内を見回してみると、シフトが「B」モードに入っていた。普段回生ブレーキに使うこのモードを、レースではピットレーンリミッターに使っているのだ。 気を取り直してDモードに。すると今度は、間髪入れずに加速した。 ちなみにその最大トルクは253Nmと、市販モデルと変わらない。 しかし前述の通りアクセルレスポンスは引き上げられており、加速体制に入るタイミングがとても早い。エンジンはアクセルオフでも発電を続けるため、ターンを終えてすぐにコーナーを立ち上がって行ける。この“間”のなさがとてもレーシーで、走らせているとかなりワクワクする。 モーター出力96kW(131PS)のスピード感は手に余るほどではないが、フィットと考えれば十分以上に速い。それがむしろ、コンパクトスポーツの楽しさにはちょどいいと思えた。そしてこれを新型フィットのスポーティモデル「RS」として仮想したとき、そこには“覗いてみたい未来”が見えた気がした。 ちなみに今回の試乗コースだと、距離の短さやブレーキングによる回生の多さから、このフィットが“電欠”することはない。しかしこれが4.8kmのロードコースになると、現状その電力は4コーナーで底を突いてしまう。よって予選では電気を貯めながらアタックのタイミングを伺い、レースではその電力を回生しながら配分して使うのだという。 問題は、簡単に言えばモーター出力(131PS)が発電機(即ちエンジンで107PS)の出力を上回ってしまっていること。街中であればこうした組み合わせでも電欠することはまずないが、常に全開走行を強いられるサーキットだと話は別で、バッテリーが底を突き、パワーダウンしてしまうのである。 これを補う一番シンプルな方法は、エンジンパワーを上げることだ。とはいえその排気量を増やすことは、環境性能車として本意ではないだろう。 となると残るは「HGU-H」か? これはエンジンの排気ガスを電気エネルギーへと変換するシステムで、まさに現代のF1が活用する技術。 「タービンを付けるのか!? そう簡単に言ってくれるなよ!」なんてホンダに言われてしまいそうだが、だからこその開発車両だろう! と言っておこう。 なぜならこのチームのには、HRD Sakura(モータースポーツ技術開発研究所)でF1に携わっていたエンジニアもいるのだ。というよりもホンダの市販車造りは、常にモータースポーツの現場とつながっているのである。 たしかに今はまだ、JOY耐仕様のフィットe:HEVはよちよち歩きだ。 しかし筆者はそこに、明るい未来を夢見たい。これぞパワー・オブ・ドリームだろう。 ホンダはこのe:HEVを、V-TECに変わる中核ユニットと位置付けている。であればやっぱりそこには、V-TECが持っていた走りの気持ちよさを実現して欲しい。 筆者はEG6やEK9といった、小さくて速いシビックで育った。高級スポーツカーが買えなくても、俺達にはシビックやハチロクがある! という世代である。 そして思うのだ。あの頃に味わった楽しさや気持ちよさ、そしてカッコよさを、今の若者たちが知らないままでいるのはどうなのか? と。 トヨタ ヤリス ラリー仕様車はシンプルなモータースポーツ車両今回トヨタが持ち込んだモータースポーツ用車両は、フィットe:HEVとは対称的な、究極的にシンプルな一台だった。 ベースとなるのは1.5直列3気筒エンジン(91PS/120Nm)を搭載する6MTのヤリス「X」(166万1800円)で、これにラリー用のパーツを装着。「TGRラリーチャレンジ」への参戦を、最もシンプルな装備で提案するものだった。 そしてこれが、驚くほどに面白いのである! 装着されるcusco製のサスペンションキット(なんとそのお値段11万8800円!!)は、減衰力調整や車高調整機能もない純正形状タイプ。バンプラバーやダストブーツは純正を使う実にシンプルなキットなのだが、これが実にいい。グラベルとターマックの両方をカバーする足まわりはストローク量がたっぷり取られており、動きこそ大きいが、荷重の移動がとてもわかりやすい。 思い切りブレーキを踏んでもその制動Gをサスペンションがじわりと受け止め、コーナーでは安全に姿勢変化を楽しませてくれる。だから6MTを駆使して、1.5リッターエンジンを目一杯回しながら走らせると、抜群に楽しい。それはFF版ロードスターといえるプリミティブさなのだ。 ちなみにその足下には「ADVAN A036」というラリータイヤを履かせていたが(サイズは185/60R15)、これも特別なスペックではない。ターマックとグラベルの両方を走れる、コストコンシャスで懐の深いタイヤであり、ズリズリと滑らせても楽しく、かつ懐が深い。ちなみにそのグリップは、Sタイヤ未満だという。 つまりである。極端なことを言えば、6MTのヤリスにcuscoの足まわりを履かせるだけで、誰でもこの楽しさが得られるのだ。 実にやばい。こんなに安くて楽しいクルマがあったなんて! そしてこれこそが、トヨタがヤリスを小型化してまで求めた走りである。 こんなにシンプルで楽しいクルマに出会えたのは久しぶり。思わず“ヤリス1.5RALLY”と命名したくなる一台であった。 【 ホンダフィットハイブリッドのその他の情報 】 【 トヨタヤリスハイブリッドのその他の情報 】 >>次のページ スペック例 スペック例【 ホンダ フィット e:HEV LUXE 】 【 ヤリス ハイブリッド G 】 |
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