話題の巨大グリルは実車でみると悪くはないBMW「M4」は4ドアセダンの3シリーズの2ドアクーペ版である4シリーズをベースに、サーキット走行をも考慮して開発されたハイパフォーマンスモデルだ。M4追加によって日本仕様の4シリーズにはノーマルモデルの420i、ハイパフォーマンス版のM440i、そしてさらにハイパフォーマンスなM4が出揃った。 ベースとなった4シリーズ同様、顔面に巨大キドニーグリルをいただく。同時に登場した4ドアのM3も同じ顔つきをしている。ベースの3シリーズは登場のタイミングの関係でおとなしい横長のグリルのままだが、次の変更でM3のように巨大化するのだろうか。 4シリーズ登場時、「グリルにクルマが付いている」と揶揄されたこのグリルだが、時間の経過とともに見慣れた。正確に言うと、実車を生で見ると最初からあっさりすんなり受け入れることができたばかりか、見た目でハイパフォーマンスを予想できて悪くないと思った。映像や画像で見ると衝撃的に見えるものの、実車を目にすると気に入られる、少なくとも受け入れられる、計算し尽くされたデザインなのだろう。 ただBMWのデザイナーはさまざまなキドニーグリルをやり尽くし、だんだん追い詰められているのではないか。縦長も横長も巨大化ももう使った。いつの日か禁断の左右非対称に手を染める日がくるかもしれない。さすがにないか。 試乗車はボディカラーがサンパウロ・イエロー、シートカラーがヤス・マリナ・ブルーというド派手な組み合わせ。ブラジルとUAEの街の名前を組み合わせるとは、BMWジャパン、今年設立40周年ということもあって、社員全員ハイなのかもしれない。 色はともかくMモデルだけあって、スポーツ走行を考慮したシート形状が採用されている。座面の高さ、角度、背もたれの角度を調整すると、身体にピッタリとフィットし、ペダル位置に合わせてスライドさせ、最後にステアリングホイールの前後と高さを調整すると、フィッティングしたかのような運転席になる。ステアリング裏のパドルのサイズと位置も適切で、運転に集中できる環境が手に入る。昨日今日ハイパフォーマンスモデルを手掛けるようになったブランドと違って基本ができている。 ひとり「D1グランプリ」が可能、らしいエンジンは、おなじみ直6ガソリンターボで、最高出力480PS/6250rpm、最大トルク550Nm/2650-6130rpmと立派なスペックを誇る。試乗車はM4コンペティションというさらなるハイチューンが施された仕様で、同510PS/6250rpm、同650Nm/2750-5500rpmを発揮する。 速さ、特に加速力の指針であるパワー・トゥ・ウェイトレシオは3.39。空いた道路で実力のほんの一端を垣間見ようとアクセルを深く踏み込んでみると、言わずもがなの速さではあるものの、後輪は暴れることなくしっかりと路面をとらえ、タイヤのグリップ力の範囲で鋭く加速していくため、期待した猛々しさ、荒々しさを感じない。現代のハイパフォーマンスカーらしいといえばらしいのだが。 しかしこれならM440iと大差ない。あれだって387ps、500Nmもあって、そのうえ4WDだから発進加速は強烈だ。そう思ってオプション装備されたMドライブ・プロフェッショナルをいろいろいじってトラックモードを選び、さらに横滑り防止装置もタイヤの空転をある程度許容するDTCモードを選んでから同じことをしてみた。今度は猛々しさ、荒々しさしかなかった。サーキットでそのままアクセルペダルを踏み続ければ、直線が続く限り、どこまでもスピードが上がっていくのだろう。試乗車にはMドライバーズ・パッケージというオプションが備わっていて、通常250km/hのスピードリミッターが290km/hに引き上げられている。いるこれ?www まあ夢を見せてくれる。 最新のM4はこの種の電子制御ギミックが満載。Mドライブ・プロフェッショナルに含まれれるMドリフト・アナライザーを使えば、自分が行ったドリフト走行の時間、走行ライン、車両の角度などが記録され、さらに10段階で採点してくれる。ひとりでD-1グランプリが開催できるわけだ。これも290km/hの最高速と同じで、必要か不要かで論じるべきではない。面白いと感じる人だけが装着できるようにオプション装備なのだから。それにしても速さで行き着くところまで行き着いたハイパフォーマンスモデルがいろいろ模索しているのが見てとれる。 シートの作りでも述べたが、感心するのは速さそのものよりも、速さを受け止めるクルマ作りだ。まずボディ剛性が箱じゃなくて塊なんじゃないかと思えるほどしっかりしている。この絶大なる安心感があってこそ、しかるべき場面で活きる510PSだ。ボディ同様、ステアリングポスト、パドル、ペダルなど、操作系の剛性感も半端なく高い。公道を走るうえでは完全にオーバースペックのクルマだ。そのクルマで曲がる40km/hのコーナリングには、フルスペックのPCでテキストメールを返信するような、奇妙なぜいたくさがあるが、決して悪くない。もちろん山道を常識の範囲で活発に走らせる際には、加減速も旋回も最高に心地よい。 M4には6ポッドのMコンパウンド・ブレーキが標準で装備される。試乗車には耐摩耗性能、耐熱性能をより高めた、オプション価格107万5000円のMカーボン・セラミック・ブレーキが装備されていた。限界性能は想像するしかないが、レーシングスペックのブレーキだからといって赤信号で停車する際にキーキー鳴るわけでもなければピーキーな食いつき方をするわけでもなく、日常域でもスムーズに停車することができた。 ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能を含む最先端の先進安全装備が標準で備わる。「OK、BMW」と話しかけて機能を呼び出すことができるし、キー機能を記憶させたiPhoneがあればキーを持たずとも施錠、解錠、エンジン始動ができる。そしてあまり必要性を感じたことはないが、車両が直前に前進したルート(最大50m)を記憶し、 同じルートをバックで正確に戻ることが可能なBMW自慢のリバース・アシスト機能も備わる。すなわちサーキット走行を“も”考慮したM4は、家族のドライブや恋人とのデートにもなんの我慢もなく使えるいつものBMWでもあった。 ちなみにコンペティションではないM4ならば6速MTを選ぶこともできる。非日常性を求めてM4を選ぶならこちらもありだろう。さらにオススメはしないが、自慢の先進安全機能を省くことで約25kg軽量化したトラック・パッケージ(1460万円) を選ぶこともできる。コンペティションより112万円高いが、先述のMカーボン・セラミック・ブレーキ(107万5000円)やMカーボン・バケット・シート(52万1000円)他、走りに特化したオプションを標準装備している。 ライバルに負けない凄さを見せつける役割もある昨秋、別の媒体にM440i xDriveの試乗記を書き、「BMWが長年使い続けて熟成極まった直6エンジンを純粋に楽しむことができるいっぽうで、動力性能のみならず安全性、快適性にもあらん限りのハイテクを投入した万能スポーツクーペだ。近い将来、M4の登場を控えているが、それを待つ必要性が見当たらない」と結んだ。それほどM440iの万能性に感心した。ただ一方で、将来M4に乗ってその結論がまったく見当違いなものだったらどうしようと心配もしていた。 今回M4を試し、半年前の見立てはおおむね正しかったのではないかと思う。M440iの段階ですでに非日常性(刺激的な速さ)と日常性(快適性、安全性、先進性)という二兎をしっかり得ている。M4はというと、非日常性と日常性の幅がさらに広い。その非日常性はほとんどの人には引き出しきれないレベルに達している。サーキットで限界性能を引き出し、運転でこれ以上ないほどの刺激を得たいという人のわがままに応えている。 またオーナーのためのみならず、BMWファンのために、同カテゴリーのライバルに劣らぬパフォーマンスを見せるという役割も期待されている。それでいて快適性、つまり乗り心地の面でM440iよりやや粗いものの、安全性や先進性は同レベルという日常性も失っていない。ノーマルモデルとM4しかないのならやりすぎだが、ノーマル、M440i、M4とあるのなら、文句のつけようがない。 スペック【 BMW M4 クーペ コンペティション】 ※試乗車両には下記オプションを装着 |
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