若者向けというにはかなり大人っぽいデザイン!?11代目となる新型シビック 5ドアのプロトタイプを、ホンダの開発拠点である栃木プルービンググラウンドで先行試乗することができた。シビックといえば先代モデルが、世界デビューの2年遅れにして、しかも一世代ぶりに日本市場へ復活を果たしたことが記憶に新しい。そしてホンダは今回その火を消すまいと、日本市場では5ドアハッチモデルのみのラインナップに絞って、これを継続する。 そんなシビックがターゲットとするのは、1990年代半ばから2000年代に生まれたいわゆる「Z世代」。免許を取る頃には既にスマートフォンを持つことが当たり前だった、デジタルネイティブたちだという。もちろん私のようなX世代(65~80年生まれ)!? が購入しても問題はないのだろうが、ともかくその設定はかなり若い。 そしてホンダはこうした世代の価値観を探るべく、既存のディーラー訪問やユーザー調査、デザイン調査に加えて、自宅訪問まで行ったのだという。それはインターネット等から得られる情報が、役には立つが表層的だとわかっているからだ。ちょっとやり過ぎな感じもするが、そうした愚直さはホンダらしい。 さてこうしてできあがった新型シビックと初対面したわけだが、そのデザインは、若者向けというにはかなり大人っぽくなっていた。直線基調だった先代とは打って変わって面構成が美しく、必要最小限のキャラクターラインがその印象を引き締める。 フロントマスクにはヴェゼルにも通じるグリル感。ロービームを両側配置(中央はハイビーム/アダプティブドライビングビーム)とすることで黒目がちにさせて、そこに表情を与える手法はフィットから始まったものだろう。なおかつヘッドライトをかつてのソリッドウイングフェイスを彷彿とさせる細長いV型配置とすることで、全体としては精悍な印象に仕上げた。 またリアビューはハッチバックというより、4ドアクーペといえる佇まいだ。ちょっとアウディに寄せすぎな気もするが、流線型にすぼめられたショートオーバーハングな後ろ姿には、人の目を引きつける力がある。 ちなみに筆者は、あのアメリカンコミックから飛び出してきたような先代シビックのデザインが嫌いじゃない。タイプRのように巨大なウイングを付けると普段乗りにはちょっと気恥ずかしいが、ウイングレスな5ドアハッチバックには適度なアグレッシヴさがあって良かった。それがこうも変わったのだから、今のZ世代は精神的にもかなり大人なのだろうか? その軸足を北米に置いていることもあるのだろう、シビックはCセグメントとしてはかなりルーミーな一台だったが、新型ではそのサイズがさらに大きくなっている。 スリーサイズは全長4530(+30)×全幅1800×全高1415(+5)mm。ホイールベースは2735(+35)mm。全幅値に変更はないけれど、リアトレッドは1575(+12)mmに拡大され、走行安定性がさらに向上したという。 トランク容量は452L(上級仕様は445L)と現行同等で、25インチのスーツケースだと3個、9.5インチのゴルフバッグは横置きでやはり3個積載可能だ。 >>>内外装チェック動画 先代より進化した静粛性とボディ剛性走りの検証は、高速周回路とワインディングコースで行われた。グレードは上級仕様となる「EX」をCVTで、ベーシック仕様である「LX」を6MTで試し、これを先代モデルと比較した。 搭載されるパワーユニットは今回1.5直列4気筒ターボ(182PS/240Nm)のみだったが、それはe:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)がタイプRと共に来年登場予定となっているからだろう。 本来ならハイブリッド/ガソリンエンジン両方が同時に発表されるべきだと思うが、ホンダ的には現行シビックユーザーの乗り換えを考えて、まずはガソリンモデルから発売するのだという。 なんだ、e:HEVないのか……。肩透かしを食らったかのような気持ちで高速周回路に出ると、まずその静粛性に軽く驚かされた。アクセルの踏み始めから1800rpmに掛けてを特に注目して欲しいと言われたが、まさしくこの走り出し領域で新型シビックは、先代モデルに対してNV(ノイズ/バイブレーション)がきれいに取れている。 エンジンは今回クランクシャフトとオイルパンの剛性を上げることによって、その振動がかなり押さえ込まれたのだという。さらにマウントステーの剛性を上げて、エンジントルクロッドまで用意してその振動を減衰している。またロードノイズロードに対してはフロントアンダーボディパネルを補強し、リアトレーリングアーム取り付け剛性を上げることで振動伝達特性を改良。さらに各ピラーにはスプレー式発泡ウレタンを8カ所充填し、ホイール内部には空間共鳴音を消音するノイズリデューシング機能までも装着している。 それはちょっと、やり過ぎな感じがしなくもないほどの改良だった。先代モデルはエンジンの存在感がそれなりにあって、骨太な感じで悪くない。だがホンダが静粛性に固執するのは、この新型がe:HEVをはじめとしたモーター駆動車たちに混じっても陳腐化しないためだと思われる。5年以上は確実にあるモデルサイクルを生き抜くためにも、それは必用なことだったのだろう。 フロントフードの左右後端を25mm、Aピラーも50mm後方に下げて得られた視界は広々している。室内では開放感をイメージせるためにエアコンのアウトレットが横長に配置され、メッシュ構造となっているのが特徴的だ。 ちなみに新型シビックはそのショルダーライン後端を従来より35mm下げてから最後にキックアップさせており、後部座席の側方視界を広げている。なおかつこのデザインでリアタイヤとの幅を狭めることで、クーペスタイルを強調している。 またリアゲートを樹脂化して成形の自由度を高め、ヒンジレイアウトを工夫することでルーフ後端を50mm下げながらも、従来同等のヘッドクリアランスを得た。 そのハンドリングは、ワインディングコースを待たずして違いが感じられた。 先代はフロントでがっちりと路面をつかむ感じが強く、対して新型は操舵感が滑らかになっているのだ。その要となるのはボディ構造の進化だ。プラットフォームは先代を踏襲しているが、前後のバルクヘッドは環状構造となり、フロアには格子状フレームを配置。そしてトンネル部分も構造を改めた。 安全基準への対応としては前席はダッシュボードクロスメンバーが補強され、トンネルスティフナーを追加。リアドア開口部にもホイールアーチスティフナーを追加して側突への対処をしながら、ねじり剛性を従来比で18%向上している。 ダブルレーンチェンジでの落ち着いた挙動には、リアトレッドの拡大が効いていると感じた。電動パワーステアリングの制御も新型は一段滑らかである。 そして走りの違いは、特にレーンキープ機能をアクティブにした高速レーンチェンジでの所作ではっきり現れる。先代はレーンチェンジに対して結構強く一気に転舵。これに対して新型は、少しずつ滑らかに切って行くから走りが上質なのだ。 ここには車体剛性の違いと併せて、フロントカメラの広角化も大きく影響している。より遠くまで見えるから、ステアリングを徐々に切って行けるのである。逆を言えば先代モデルは短い時間で正確な対処が必要になるため、自然とフロントの剛性が高くなって行ったのではないだろうか。比較すると先代シビックは、クルマ側が身構えているような印象を受ける。人もクルマも、視野を広く持つことが大切である。 >>>内外装チェック動画 6速MTはもっとサイドサポートのあるシートがほしくなるお待ちかねのダイナミック性能は、ワインディングコースでじっくり確認することができた。 まず6速MTモデルの走りだが、結論から言えば断然新型がいい。旧型は高荷重領域で一定舵角から旋回中に切り増して行くと、バンプインして急激に曲がり込むポイントがあった。 対して新型はアライメント変化が感じられず、基本的には弱アンダーステアを保ったまま最後まで舵を追従させる。またブレーキを残しながら旋回するような状況でもリアの踏ん張りが効いており、挙動が安定している。 肝心な6速MTは、シフト位置がドライバー側に5度傾いた影響なのか、シフト操作が自然。これがタイプRになれば、違いはさらに大きく現れると感じた。 エンジンもツキが良く感じられ、高回転まできれいに回る。ブーストのかかり方が上質で、まるで自然吸気ユニットのようにトルクが盛り上がって行く。シャシーの動きの滑らかさに対して、トーン&マナーが揃っていると言えるだろう。 ひとつ注文を付けるとすれば、シートのサイドサポートが弱いことだ。シビックで6速MTモデルを選ぶ割合は約3割と多く、こうしたユーザーはそこにスポーティな走りを求めているはずである。別にレカロのようながっしりとしたシートが必用だとは言わない。しかしこれだけレベルの高い旋回性能を与えるのであれば、6速MTモデルだけはじんわりと体を包み込むようなシートが欲しい。 面白かったのは、この6MT以上にCVTの走りが上質だったことだ。CVTは約30kg重たくなったトランスミッション重量がフロントタイヤの接地性を高めており、切り込んだときの動きが落ち着いている。特に強いブレーキングを必用としないコーナーでは、それが顕著である。 CVTはその構造上、チェーンを痛めるため高トルク領域では変速フィールに切れ味を出せないが、それでも通常領域ではメリハリのある有段フィール化がされており、パドルでこれを気持ちよく操ることができた。日常での総合的な使い方を考えると、CVTモデルはかなり評価が高い。だがそれをおしても6MT! とこだわるのは当然アリだ。 総じて新型シビックは、先代モデルから確実な正常進化を果たしていたと言える。ただ筆者が気になるのは、やはりそのデザインが一気に大人びたこと。果たしてZ世代は、このルックスが受け入れられるほど成熟しているのだろうか? むしろ我々世代にマッチするような気がする。 先代シビックは、少ないマスだからこそあのエッジーなデザインと走りがウケていた。タイプRはトゥーマッチだが、5ドアハッチはちょうどいいよね! 的な人気だったのではないかと思うのだ。 逆にこの走りとこのデザインがベースとなってできるタイプRは、きっと素晴らしい一台になるだろうと、ワクワクしたのも事実だ。ベースが大人びているからこそちょうど良い派手さになるだろうし、何より素晴らしく運転しやすいタイプRになるだろうと予想できる。 シビックの販売台数はきっと多くはならないだろう。しかしホンダがそれでも日本市場にこれを残したのは、シビックこそが彼らのスピリッツを伝えるクルマだと自覚しているからだと思う。だからこそ新型シビックは、ホンダを愛するファンにこそ乗って欲しい。 【 カタログ情報 】 【 買取情報 】 >>>内外装チェック動画 スペック例【 シビック LX 】 >>>内外装チェック動画 |
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