仕向地ごとに異なるパワートレーンで発売する戦略昨秋の東京モーターショーで登場したマツダMX-30。マツダ初の量産EVということで話題を集めたが、この度発売されたMX-30はEVではなく、マイルドハイブリッドシステムを組み合わせた2リッター自然吸気エンジンを搭載して登場した。 発売と同時に21年にEV版が、22年にレンジエクステンダー版(発電用エンジン付きEV)がそれぞれ追加されることもアナウンスされた。てっきりEVで登場すると思っていたので、数カ月前に新聞で「日本向けはまずはマイルドハイブリッドから」と報じられた際に、やや肩透かし感があった。ただEV版もすでにあり、欧州で発売された。国や地域によってCO2排出に対する法規制が異なるため、仕向地ごとに異なるパワートレーンで発売する戦略のようだ。 MX-30は3ドアハッチバックに見えるかもしれないが、マツダが「フリースタイルドア」と呼ぶ、RX-8以来の観音開きドアをもつ5人乗りの5ドアハッチだ。マツダはSUVに分類するが、SUV感は限りなく薄い。 一見して従来のマツダ車とはデザインテイストが異なる。同社のモデルはどれもスタイリッシュだが、同じ系統のカッコよさを見せ続けられ、やや食傷気味だった。MX-30はやはりスタイリッシュだが、従来のハンサム金太郎飴とは別系統。彫りの深い彫刻的デザインとは打って変わってシンプルだ。ただしシリンダー形状のヘッドランプデザインなど、ひと目でマツダ車とわかるモチーフも散りばめられている。 耐久性難ありのコルクはコーティングを開発して採用内装はいろいろと実験的だ。水平基調のインパネにフローティングタイプのセンターコンソールが組み合わせられる。前席左右を隔てるセンタートンネル部分は立体的。インテリアの随所にコルク素材が用いられているのが大きな特徴だ。 風合いはよいのにこれまでありそうでなかったコルク素材のクルマへの採用。コルクは高温にも低温にも弱く、温度変化で形状が変わってしまう。だからこそワインの栓として有効なのだが、クルマの内装に用いるには耐久性の面で難ありだったというのが、なかった理由のようだ。 マツダは耐久性を高めるコーティングを開発して採用にこぎつけた。同社は1920年設立の「東洋コルク工業株式会社」がルーツ。MX-30に用いるコルク素材はワイン栓の端材という。 シートには前後とも素材の異なる2種類のグレーのファブリック素材が用いられ、車内を明るく見せる。シート形状は何の変哲もないが、適切なドライビングポジションに一家言あり(どこもあるだろうが、特に主張が強い)のマツダだけに、座り心地は悪くない。 ドア内張りやセンターコンソールといった腕が触れる部分にパッドがあるのだが、中のスポンジ量が多いのか、ふかふかで気持ち良い。へたれることなく長期間この状態が続いたら最高だ。ステアリング、ペダルとの位置関係も問題なし。調整代も十分。 ATシフターは操作系が独特で、Pのポジションから左に倒したところにR、N、Dポジションがある。特段使い勝手が良いとも悪いとも思わなかった。さまざまな機能が割り当てられたロータリースイッチの周囲にもスイッチがあって、どれも大きい。スペース的にもったいないと感じたが、運転中でも押し間違えることなく操作できるのがこのサイズというのがマツダの言い分だ。 後席中央のヘッドレストが常時張り出していて、ルームミラー越しにリアビューを確認する際にやや邪魔だが、その点を除けば視界も良好だ。 立体的と紹介したセンタートンネルまわりを中心に、小物入れが配置されるのだが、平面が少なく、例えばスマホをどこに置いても安定しないなど、使い勝手よりもデザインが優先されている。 モノを置く部分にもコルクが使われていて、視覚的なアクセントとしてうまく機能しているが、もう少し滑りにくい表面だったらなおよかった。センタースタック裏の小物入れは、スペースはそこそこ広いが、のぞき込まないと置いたモノが見えず、意外に使いづらい。自分のボルボで経験済み。 運転を楽しむというよりは心地よく移動するためのクルマ観音開きはロールスロイスのようにBピラーが固定されているわけではなく、ピラーがリアドアに組み込まれて一緒に動くため、リアのみ開閉することはできない。前席に人がいない状態で後席の乗員が車外へ出るのはひと苦労だ。 後席はプラス2というには広く、フル4シーターというには狭い。試していないが大人3人掛けは辛いはず。標準的背丈の小学生ふたりなら長時間過ごせるだろう。リアドアのウインドウははめ殺し。ラゲッジスペースはクーペルックから想像する通りの容量にとどまるが、凹凸が少ないので使いやすいと思われる。 試乗したのはFWDモデル。2リッター自然吸気エンジン(最高出力156ps、最大トルク199Nm)に、24ボルトの電源システムで作動するモーターが組み合わせられ、従来からある6速ATが備わる。過給器付きエンジンやモーター駆動のクルマに慣れた身に、4気筒自然吸気エンジンは物足りないだろうと想像していたが、思ったほどスカスカではなかった。 発進時には強く速くアクセルペダルを踏み込んでもマイルドなダッシュにとどまる。ただある程度速度が上がると、ペダル操作に対する反応が良くなり、気持ちの良い加速を見せる。速いとか力強いという印象のものではないが、スーッと伸びやかに加速するのが心地よい。 エンジニアいわく、発進時の躍度をあえて抑え気味にしているそうだ。いろいろと丁寧に説明を受けたその理由を自分なりに解釈すると、MX-30は従来のマツダ車ほど運転という行為そのものを楽しむタイプのクルマではなく、パワートレーンなどの存在を意識することなく心地よく移動するためのクルマだから、ということになる。標準的な踏み方をした際の躍度の出方を、追って発売されるEVやRE付きEVでもそろえてあるとか。 サウンドチューニングもうまくいっていて、自然吸気エンジンのよさを再確認した。ターボに乗れば力強さが気持ち良いといい、NAに乗ればスムーズに回るのが気持ち良いという。我ながら一貫性がないと思うが、嘘をついているわけではなくて、別のよさがある。言い換えれば、過給器付きにも自然吸気にもよいエンジンとダメなエンジンがあるということだろう。 EV版を試さないと本当の評価ができないがこれはこれでよいハンドリングと乗り心地はいつものマツダという印象。一般的なドライバーが操作して期待する通りの挙動があらわれる。ステアリングを切り込んだ際にクルマが気持ちよく、ドライバーに不安を感じさせずに倒れ込んでいくのが心地よい。 これがマツダの魅力の大部分を占めるといったら過言だが、小さくない部分を占めている。50km/h前後で不整路面を通過する際にほんのわずかにバタつく(重箱の角をつつくレベル)のを除けば快適性も確保されている。 マツダの現在の商品ラインアップにあって、MX-30は車名、デザイン、UI、コンセプトなど、どれをとってもユニークな存在だ。実験的な要素の強いクルマであることは明確。評判がよければこの方向性が多くの車種に取り入れられ、そうでなければかつてのエチュードやベリーサのようにモデルチェンジすることなく消えていくだろう。 EV版やRE付きEV版こそがこのクルマの存在意義なので、なにはともあれ、それらを試さないことには評価できない。とはいえこのマイルドハイブリッドモデルを気に入ったならば止める要素はどこにもない。 スペック例【MX-30 2WD(FF)】 |
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