レヴォーグのオーナーになって感じた疑問ご承知のとおり、「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー」はスバル「レヴォーグ」が受賞した。日本カー・オブ・ザ・イヤーの意義や価値についての考え方は人それぞれだろうが、まあ何はともあれ新型レヴォーグが「2020年の国産車を代表する一台になった」と表現することはできるはずだ。 で、言ってみれば昨年度の「日本代表」である新型レヴォーグは海外の強豪と比べて、特に、自動車作りにおいては日本以上の歴史を誇る「欧州の強豪たち」と比較してどうなのか? 気になるところである。 一部のジャーナリストは新型レヴォーグについて「まさに欧州車の水準に近づいた」的なことをおっしゃるが、「近づいた」ということは、「相手を上とみなしている」ということでもある。 本当に、いまだ欧州車のほうが国産車より「上」なのだろうか? すでに一部の国産車は、類似クラスの欧州車の出来を軽く上回っている――ということはないのか? この問題についてウンウンと考え続けた筆者だが、机上で考えていても意味がないことに気づき、自身がこのたび購入した新型レヴォーグと、微妙に違うのだがまぁ類似のクラスだとは言える欧州の超強豪と「比較」を行うことにした。 こちらは、今言ったとおり自前の新型レヴォーグ。グレードはSTIスポーツEXだ。 相手方は、Dセグメント・ステーションワゴンにおいては「世界最強軍団の一角」と評して間違いないBMW「3シリーズ ツーリング」。グレードは318iである。 まずは「試合」のレギュレーションを定めておこう。 比較する項目は下記の5項目とする。 (1)内外装デザインや雰囲気の優劣を問う「オーラ対決」 責任審判はこの私、自動車ライターの伊達である。大変申し訳ないが客観的な何かではなく、私の勝手な主観とセンスに基づいて各項の採点をさせていただく。すみません。 その主観を駆使する責任審判の私がそもそもどんな人間かということを知っていただくため、私の車歴の一部を開示しておこう。 【審判伊達がこれまで乗ってきた車(抜粋)】 大したことはない車歴だが、「車に関するそれなりのセンスと審美眼」は持ち合わせている人間だと思っていただけたならありがたい。 ではさっそくまいろう。第1ラウンドは内外装の「オーラ対決」である。 オーラは欧州の歴史に完敗だが普段使いはどうか……いきなり結論であるが、このラウンドは318i ツーリングの圧勝だった。 レヴォーグのデザインと質感もカタログ写真で見る限りではいい感じであり(特に内装)、実際に生で見ても、なかなかよろしいものではある。スバルにしては、というか国産ミドルクラスとしては「素晴らしい!」と評せるものだ。 だが「敵」は、やはり一枚も二枚も上手だった。 樹脂や革の質感と、そのあしらい方。ボディ全体の好ましい塊感や、細部の作り込みというかセンス。……これらはもう「意外と善戦するのでは?」と想定していたレヴォーグの出る幕などなく、「欧州の歴史がもたらすエレガンスとセンス」に完敗するほかなかった。例えて言うなら318i ツーリングが「ハリウッド女優」で、レヴォーグは「朝ドラのヒロイン」といった感じか。 ただもちろん、「ハリウッド女優なんかより、俺は朝ドラヒロインのほうが好きだ!」という考え方や感じ方もあるだろう。そして責任審判の私も、個人的にはそっちの口である。 ---------------------------- 続いては第2ラウンド、市街地や国道などを走ってみての「普段使い対決」である。 責任審判が普段使っているレヴォーグ STIスポーツEXは、タウンスピードにおいても快適そのものであり、それと同時に、運転マニアの琴線に触れまくる「いいモノ感」もある。いいモノ感とは、具体的には「ボディ全体を含むそこかしこの剛性感が高く、ドライバーの操作とイメージにきわめて忠実に車が動いてくれること」とでも言おうか。 なんてことのないカーブを曲がる際の「ひらりと曲がるのだけど、同時に戦車のような重厚感も感じる」というレヴォーグ独特のフィールは、ちょっと気持ち悪いほどに気持ちの良いものだ。 唯一、微妙な点はCVTか。 全面的に刷新されたというCVT(リニアトロニック)は、筆者が直近まで乗っていた現行型前期スバル XVのそれと比べると、いわゆる「CVTっぽさ」はほとんど感じられない。それゆえ筆者個人は、レヴォーグのCVTについての不満はまったくない。 だが「CVTっぽさはほとんど感じられない」ということは、別の言い方をすると「少しは感じる」ということでもある。何らかの事情で急加速気味にアクセルペダルを踏む際には(一瞬だが)エンジン回転だけが先に上がり、「あぁ、CVTですね」と感じるのだ。 前述のとおり筆者はそこを特に不満には思っておらず、多くのユーザーもほぼ同様に感じるのではないかと推測する。だがMTを唯一神とし、その下座に多段ステップATを置いている一部の各位は、ここがどうしても我慢ならない可能性はあるだろう。 いっぽうの318i ツーリング。これの市街地および国道における「いいモノ感」も相当である。いいモノ感の中でも「重厚感」については間違いなくレヴォーグより上で、最新世代の快速戦車の車長にでもなったような気分は、ドイツ物ならではの感慨と言えよう。 また318iの搭載エンジンは、同じ直4ガソリンターボでも320iより若干デチューンされた最高出力156ps/4500rpm、最大トルク25.5kgm/1300~4300rpmで、新型レヴォーグの177ps/5200~5600rpmおよび30.6kgm/1600~3600rpmより数値はやや劣っている。 だが体感としての市街地&国道におけるパワーおよびトルクは「ほぼ互角」といったところで、なんなら318iのほうが若干力強く感じる(気のせいかもしれないが)。またさすがに最新世代のステップ式8速ATだけあって、変速フィールと力の伝わり方フィールも、若干だが318iが上と見た。 しかし318i ツーリングは「重い」。 いや実際の車両重量はレヴォーグ STIスポーツEXが1580kgで318i ツーリングが1610kgなので、さほどの違いはない。だが318i ツーリングは真っすぐ走らせてもカーブなどを曲がらせても、とにかく「なんだか知らないけどかなりの重量物が動いているなぁ」という感触を、ドライバーは常に感じることになる。それが良いことなのか悪いことなのかの判断はおくとして、とにかくそうなのだ。 いっぽうのレヴォーグ STIスポーツEXは、先に述べたとおりの「戦車っぽいが、同時にひらりひらり系でもある」というフィールなので、責任審判としては「市街地&国道走行フィールは、微妙な判定だがレヴォーグが上」としたい。 なお、運転に関しては素人である今回の責任審判ではなく、スバルの社内テストにおいてもレヴォーグの「操舵にレスポンス良く曲がる(車が向きを変えたと感じる時間の早さ)」は、BMW 3シリーズ(318iではなく330iだが)のそれを大幅に上回り、アウディ「A4 アバント」やメルセデス・ベンツ「C200」も上回っている。 ---------------------------- どちらもハンズオフ走行が可能な優秀なADASを持つお次は第3ラウンド、高速道路をADAS(先進運転支援システム)無しの手動で走ってみてのフィーリング対決である。 結論から申し上げると「80~110km/hぐらいだとほぼ互角。ただし120km/h以上になるとさすがにドイツ車が有利」というのが責任審判の判断だ。 新東名などで120km/h前後の速度になると、318i ツーリングは「……電車か?」と思うぐらいの鉄壁のオン・ザ・レール感を炸裂させる。その速度域におけるレヴォーグ STIスポーツEXのオン・ザ・レール感も相当なものだが、点数をつけるとすると「レヴォーグくん130点、ビーエムくんは140点!」みたいなことになるのだ(100点満点で)。 まぁパワー&トルクの出方の気持ちよさはレヴォーグがやや上と審判個人は感じたが、こと高速オン・ザ・レール感については、やはり200km/h超での使用も念頭に置いている318i ツーリングが有利なのだろう。 ちなみにスバルの社内テストにおいては、これまた318iではなく330iでのテストだが、「高速でのフワ付き(上下方向)」は新型レヴォーグのほうがBMWより大いに優秀であるものの、「高速でのフワ付き(左右方向)」は、BMW 330iのほうが若干優秀との結果になったようだ。 ---------------------------- 試合はいよいよ大詰め、最終ラウンド「ADAS(先進運転支援システム)対決」である。 レヴォーグの「新世代アイサイト」と「アイサイトX」については、各メディアですでに繰り返し報道されているため、おおむね割愛させていただく。まあ直近までアイサイトver.3のスバル XVに乗っていて、なおかつ今、自前のレヴォーグに乗っている身として少々付け加えさせていただくと、「本当にいいですよ!」ということになろうか。 車線をとらえ、そして車線の中央をとらえる能力はver.3とは段違いで、加減速のスムーズさにもより一層の磨きがかかっている。そして高速道路上で発動されるアイサイトXも素晴らしく、渋滞が――もちろん歓迎はしないが――さほど嫌なものではなくなった。ただ、責任審判は「運転中に気を失う」「横丁から暴走自転車が飛び出してくる」などの事態にはまだ幸いにして遭遇していないため、そのあたりの真価は正直わからない。 いっぽうの318i ツーリングのADAS関係も非常に優秀で、高速道路をごく普通にACC任せで走っている分には、レヴォーグとの優劣は(責任審判には)よくわからなかった。また高速道路渋滞時のハンズ・オフ・アシストも、アイサイトX同様に安心して任せられるものであった。 ただし、 ・超低速域での車の動きはBMWのほうがややシブい。 ということで、両者とも非常に優秀なシステムではあるものの、軍配はアイサイトX搭載のレヴォーグに上げるほかないだろう。 ---------------------------- レヴォーグ善戦。デザイン関係は今後の課題以上、激しい戦いは終わった。最後の「総合評価」へと移ろう。 計4ラウンドの採点を単純に集計するのであれば「38対36」で、僅差ながら318i ツーリングの勝ちということになる。 だが、この点数にも勝敗自体にも「あまり意味はないな」というのが、自分でやっておきながらアレだが、責任審判の正直な印象だ。 レヴォーグ STIスポーツEXと318i ツーリングという2台の車は、「どちらも素晴らしいステーションワゴンである」という部分においてはほぼ同質であり、サイズも似ているが、それと同時に「まったく違うジャンルの車」でもあった。 いわば空手家と柔道家が異種格闘技戦を行ったようなもので、その勝敗にほとんど意味などないのだ(異種格闘技戦の結果なんてルール次第でいかようにも変わる)。 レヴォーグと318i ツーリングのどちらが空手家でどちらが柔道家はどうでもいいとして、レヴォーグは、高い高いと言われるが、なんだかんだで欧州列強よりはずいぶん安い価格での、そして日本の道路環境下での「最善」を目指し、そしておそらくはそれを達成した、素晴らしい内燃機関自動車である。 そして318i ツーリングは、主にはドイツでの「200km/h超の巡航もしばしば」という使用環境を念頭に作られ、そして「まずまずのお金持ち」に購入されることを前提とした、これまた素晴らしいステーションワゴンである。 両者の出来が――方向性の違いはあれど――おおむね同等だとするならば、残るのは「では自分はどちらが好きか?」という問題だけだ。 「カッコよくて高級っぽくて、そしてずっしりした重厚感がある車が好き!」という人はBMWを選べばいいし、そこに重きを置かない人には、レヴォーグが断然お買い得となるだろう。 そして議題は最後に一周して、最初の疑問へと戻る。 本当に、いまだ欧州車のほうが国産車より「上」なのだろうか? これについて、もちろん私見ではあるが、責任審判は以下のように結論づけたい。 「もちろんモデル次第ではありますが、一部の国産車であれば、欧州車を過剰に“上”と思う必要はぜんぜんないですよ。ただしデザイン関係は、まだまだ欧州車に学ぶべき部分が多いと思います」 以上である。 スペック【 スバル レヴォーグ STI Sport EX 】 【 BMW 318i ツーリング 】 |
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