見た目も中身も大きく変わった昨秋の東京モーターショーで披露された新型ホンダ「フィット」にようやく試乗することができた。当初は東京モーターショーで発表、発売の予定だったが、直前に電子パーキングブレーキの不具合が見つかり、パーツを変更し、設計を修正したため、年をまたいでこの2月に発売となった。だから「ようやく」なのだ。発表前、テストコースで最終プロトタイプに乗る機会があり、よい出来であることはわかっていた。それをやっとユーザーやファンとも共有できるという意味でも「ようやく」である。 まずもって見た目が大きく変わった。ボディサイドに稲妻のようなキャラクターラインを入れるなど、明らかに二の線を目指した3代目とは打って変わって、新型はヘッドランプに”表情”を感じるファニー系のフロントマスクに細いAピラー、丸っこいシルエットと脱力系。シャープなラインが見当たらない。膨らんだハコフグにも見える。開発陣が共有していたイメージは柴犬だそうだが、いずれにしてもシンプルなデザインだ。 同じような世界がインテリアにも広がっている。細いAピラーと水平なダッシュボードが可能としたワイドでスクエアな視界はフィットの全車に標準装備の大きな価値だ。広くスクエアな視野角のおかげで、眼前に広がる風景がどうあれ、見て気持ち良い。爽快。3割増しの景色になる。安全運転にもつながる。もちろん、Aピラーは衝突安全性を犠牲にした上での細さではなく、サイドウインドウに接する2番目のピラーに強度を持たせてある。例えば前面衝突時の応力はこの太いピラーに伝わるような構造となっている。 良好な視界に貢献する水平ダッシュボード(ドライバーの目線からはステアリングホイールの上端もダッシュボードに飛び出ることなくスクエアな視界を邪魔しない)の下に広がるインパネも、きわめてシンプルなデザインで好ましい。中央(正確にはやや助手席寄り)のモニター、その下のエアコン系3連ダイヤルスイッチ、そのまた下に小物置きとシフトレバー、ステアリングホイールの奥には液晶メーターが備わる。高輝度液晶を用いることで、陽射しを遮るカウルを不要とした。 シフトレバーの手前、左右前席の間にたいてい備わるセンターコンソールボックスがない。あるのは平べったい”置き場”のみ。ここにバッグなりなんなり好きに置いてくれということだ。細々した荷物の多い女性にはうれしいのではないだろうか。私もおじさんにしては細々とした荷物が多いほうなのでありがたかった。助手席の座面にバッグを置くのとでは、取り出したい荷物へのたどり着きやすさが段違い。助手席に置くよりも安定感があるので、減速時にバッグが倒れ、中身をフロアにぶちまけることもないだろう。望めばオプションでボックスを取り付けることもできる。 予算が許すならハイブリッドをおすすめする走りの印象もまた内外装とマッチしていて、優しさを感じさせる。車体骨格自体は3代目から流用(剛性は13%アップしている)したものだが、各部のフリクションを可能な限り減らしたサスペンションを採用することで、路面のザラつきといった小さな入力に対して鷹揚な挙動を見せる。また段差とか路面のうねりといった大きな入力に対し、抑え込むのではなく積極的に上下動することで、乗員はソフトな乗り心地だと感じるはずだ。 さらにシート(前席)の構造も変わった。よくある複数のS字バネを内部に仕込んだシートではなく、面全体で荷重(体重)を支持するシートを採用。長時間座ったわけではないので、現時点ではいわゆる疲れにくいシートかどうかまではわからないが、身体全体を均等に支えてくれるような感覚はある。 当然といえば当然だが、ハンドリングも乗り心地とリンクしていて「キビキビとした」とか「スポーティー」といった印象はなく、素直そのもの。舵角が小さい場合には遅く、大きい場合には速いバリアブルギアレシオを採用しているため、高速走行時の落ち着きのある動きと、駐車時や交差点を曲がる際の”よく切れる”動きを両立している。 動力性能はどうか。ハイブリッドと通常のガソリンエンジンの2種類が設定される点は従来通りだが、ハイブリッドシステムには、アコードとかインサイトといった上位モデルに用いられる高価な2モータータイプが採用された。モーター駆動に必要な電力をバッテリーに蓄えているのではなく、必要に応じてその都度1.5リッターエンジンで発電しているのでエンジン音は発生する。が、走行感覚はEVのようにスーッと進む。高速巡航時にはエンジンが駆動系に直接つながってエンジン駆動となる。なぜならそのほうが効率が高いから。 非ハイブリッドのほうは1.3リッター直列4気筒ガソリンエンジンを採用。CVTとの組み合わせ。こちらは従来通りの走行感覚で新鮮味はないが、不満もない。普通。予算が許すならハイブリッドをおすすめしたい。比較すれば加速力の差は歴然としているし、購入時の差額は短期で売却する場合には、ほぼそのまま下取り価格の差となるだろうし、原価を償却しきるまで長く乗るなら燃費の差で全額とは言わないまでも取り戻せる。いやむしろ長く乗る場合こそ、将来の電動車ではないクルマの残存価値が心配だ。これらを総合的に考えると、頑張って高く買ってホンダがe:HEVと呼ぶ上質なハイブリッドの走行感覚を楽しんだほうがよいと思う。 コンパクトカーながら先進安全装備はホンダ車最高レベルコンパクトカーながら先進安全装備はホンダ車として最新、最高レベルの内容となっている。前後どちらにも有効な誤発進抑制機能に加え、コンビニのガラスなども検知可能な近距離衝突軽減ブレーキが備わった。さらに対向車や右折時に対向してくる直進車の接近を警報と自動ブレーキで知らせ、衝突回避あるいは被害軽減を支援する機能も加わった。 高価なハイブリッドシステムや最新の安全装備を備えつつ、価格はほとんど変わっていないのは魔法でもなんでもなく、従来型に備わっていたものをいくつかを省いた結果だ。開発陣は「資源の再配置」と呼んでいた。例えばリアシートのリクライニングシステムがなくなった。ステアリングにパドルも備わらない。インテリアのメッキパーツも極力減らしたという。ユーザーごとに求めるものは違うだろうから、そのやり方が正しいかどうかは断定できないが、私自身は試乗後に言われるまで、それらの省略には気づかなかった。 ハイブリッドの出来がよくなり、乗り心地と使い勝手が向上して、そして何より愛すべきスタイリングを手に入れた新型フィット。すぐに街中にあふれるような予感がする。 スペック【 フィット e:HEV HOME(FF) 】 【 フィット NESS(FF) 】 |
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