ブランドや働く人々に流れるKTMの精神なにはともあれ「READY TO RACE」なのだ、KTMというメーカーは。マーケティング、コミュニケーション、ブランディング、技術開発、そしてもちろん商品……すべてに「READY TO RACE」というスローガンが痛快なほど明快に貫かれている。 そしてもっとすごいのは、KTMで働いている人がみな「READY TO RACE」を地で行ってること。週末になればサーキットやオフロードコースに繰り出し、趣味であるレースに興じる。彼らに仕事とプライベートの垣根はない。自分が楽しいと感じたことを、より多くの人と共有したい。そんな願いが彼らのビジネスの原点であり、それは1954年に初の2輪車を送り出して以来、いささかも変わっていない。世界選手権モトクロスでの5連覇、ダカールラリーでの12連覇など、モータースポーツでの目覚ましい活躍も「READY TO RACE」を強く印象づける要素だ。 きわめて尖ったブランドでありながら、KTMはいまや世界70カ国で販売され、欧州ではBMWを凌ぐ販売台数を誇る世界有数の2輪車メーカーへと成長した。最大公約数狙いの無難なモノ作りを一貫して否定し続けてきたメーカーが大きな成功を収めているというのは、マーケティングやブランディング関係の仕事をしている人にとってはとても興味深いことだろう。焦点をギュッと絞り、自らの信じる道をブレずに歩み続け、その道を突き詰めれば、必ずやファンは付いてくるのだ。 今回紹介するX-BOW(クロスボウ)は、2輪車、とりわけオフロードバイクの世界で多くのファンをもつオーストリアのKTMが手がける初の4輪車だ。普通の感覚でいけば4輪車のほうが快適性を重視するものだが、そこはKTM。X-BOWにも「READY TO RACE」の精神が徹底されている。 機能パーツをデザインの一部にX-BOWのルックスは、われわれがクルマに対して持っている概念から大きく逸脱している。レーシングコンストラクターであるダラーラ社が手がけたカーボンモノコック製のバスタブ型シャシーにサスペンション、タイヤ、エンジン、トランスミッションを取り付け、空力性能を高めるカーボン製パネルでカバーしたのみ。 コックピットからは路面の凹凸やコーナリング、ブレーキング時に動くプッシュロッド式サスペンションとタイヤの動きまでが観察できる。リアはリアで、奥まった部分にミッドシップしたエンジンこそ見えないものの、ギュッと詰まった剥き出しのパーツがメカ好きのハートをくすぐる。フォーミュラーカーみたいと思う人もいるだろうが、機能パーツをデザインの一部として積極的に利用するという考え方はむしろ2輪車に近いのかもしれない。 とはいえ、X-BOWにはクルマらしいところもある。2008年のデビュー当時はルーフどころかフロントスクリーンも備わっていなかったため、雨が降ったらコックピットはずぶ濡れ。風にもほぼ無防備。高速道路では飛び石から顔面を守るヘルメットが必需品だった。いくら「READY TO RACE」とはいえ、一台のクルマとして眺めると、いくらなんでもスパルタンすぎたのも事実だ。 そんな声に応えて昨年登場したのが、今回試乗したX-BOW "GT"だ。"GT"にはフロントスクリーンとサイドスクリーンが新設され、風の巻き込みを効果的に減らすと同時に、小雨程度なら走行時の空力効果でコックピット内が濡れることもなくなった。加えて、100km/hまで対応する簡易型ソフトトップも開発されたことで、待望の全天候性能を手に入れたのだ。 超軽量ボディと285psが生みだす怒濤の加速サイドスクリーンを跳ね上げ、乗り込む。脱着式ステアリングは気分を盛り上げる演出としてだけでなく、乗降性の向上と、離車時の盗難防止にも役立つアイテムだ。シートはカーボンモノコックにパッドを貼り付けただけの簡易型で、位置調整はできない。ただし可動範囲の大きいペダルとステアリングを動かせば、どんな体型の人でもベストなドライビングポジションをとれる。 イグニッションをオンにすると、メーターパネルに「READY TO RACE」の文字が。果たしてX-BOW "GT"はどんなドライビングフィールをもたらしてくれるのだろうか。 搭載するのは285psを発生するアウディ製2L直4ターボ。アイドリング状態から低音域を強調した迫力あるサウンドが聞こえてくる。エンジンマウントが硬めな分、伝わってくる振動も大きめだが、無論、X-BOW "GT"にとってそういった特性は味にこそなれ弱点にはならない。 手首の返しだけでカチカチと決まるショートストロークのシフトを1速に入れ、リーズナブルな重さのクラッチペダルをリリースすると、847kgという超軽量ボディはスムースに走り出した。最新のエンジンらしく極低回転域からしっかりとトルクが出ていて、クラッチのミート特性も穏やかだから、見た目から受ける印象とはうらはらに、単に動かすだけならプレッシャーはほとんどない。戸惑うとすれば斜め後方の視界がほとんどなく、市街地での車線変更には細心の注意が求められることぐらいだ。 とはいえ、ひとたびアクセルを深く踏み込めば軽自動車並みのボディと285psの組み合わせは怒濤のごとき加速を演じる。急加速をするジェットコースターに乗ったことがある人なら加速のすさまじさに視野が狭くなる現象を経験済みだと思うが、まさにそれと同じことがアクセルのひと踏みで味わえるのだ。 少々使い古された言葉だが…フットワークの仕上がりにも舌を巻いた。ノンアシストのステアリングを切り込むと、間髪入れずにノーズが反応し、どれだけの横Gが発生したかを反力として掌に正確に伝えてくる。このダイレクト感はハンパじゃない! よくできたパワーステアリングをもってしても絶対に味わえないと断言できる。 ステアリング操作に対してきわめて鋭敏な反応を示す一方、ヒラヒラ感があるかと問われれば答えはノーだ。フロントにヨーが発生すると同時にリアがグンッと踏ん張りをきかせるから、ヒラリヒラリと身をかわす軽快感というよりは、ベタッと路面にヘバりついた高い接地感と、それがもたらす安心感がより支配的だ。 進入時のブレーキングをきっかけにするか、あるいは横Gが十分に高まったところでパワーを後輪に送り込めばドリフト状態に持ち込むこともできるが、それもリアがズルリと横に流れるようなへなちょこドリフトではなく、後輪がしっかりと路面を掻きながら斜め前方へと加速しながら進んでいくというタイムの出るドリフトをつくることができる。このあたりのセッティングはかなり本格的。サーキットまで自走してスポーツ走行を楽しむにはベストの選択だろう。 少々使い古された言葉だが「公道走行が可能なレーシングカー」という言葉がいまもっとも似合うのがX-BOW "GT"である。 2輪の「390 DUKE」を愛車に!学生時代にはモトクロスを楽しんでいたけれど、僕の専門はあくまでクルマ。バイクのインプレッションを書くほどのスキルも経験もない。しかし、今回だけは「身銭を切って購入した愛車」ということで、特別にバイクの紹介をさせていただこう。 購入したのは、KTMの「390 DUKE(デューク)」。オフロード車ではなくストリート向けのモデルだが、かすかにオフロード色を残したスタイリッシュなデザインが気に入ったこと、375ccにもかかわらず139kgしかない超軽量設計、ABS付き、リーズナブルな価格などが購入の決め手になった。 ホンダのオフロードバイクを乗り継いできた僕にとっては初めての輸入車。納期の遅れや初期トラブル(オイル漏れ)はあったものの、1000キロ点検後は快調そのもの。距離が進むにつれ鋭さを増してきたエンジンのフィーリング、軽さが生みだす取り回しのよさ、自然にリーンしていける素直なハンドリングにも大いに満足している。 エンジンは375ccの単気筒。単気筒というと低回転域の大トルクでドコドコドコッと走るイメージを持つかもしれないが、390 DUKEは違う。もちろん、マルチシリンダーのようにシューンとどこまでも回っていくような感じではないが、基本的には回せば回すほど力が湧き出る高回転型であり、7000rpmから1万rpmあたりまで引っ張るとそうとうに刺激的だ。 ハートはいつでも「READY TO RACE」とはいえそこは375ccという排気量をもつ単気筒。低中速域でもそれなりに粘ってくれるのが同排気量のマルチシリンダーとの違い。街中では高めのギアを選んでトコトコと快適にラクに走ることもできるし、そこからアクセルを開けていったときの力感も上々。200cc版と比べると高速道路を使ったロングツーリング時の快適性もずいぶん高い。 と書くと、「READY TO RACE」とはちょっと違うのでは? と思うかもしれないが、僕は390 DUKEに乗るたびに“レース”をしている。サーキットに行って限界まで走るのもレースだが、交差点での信号待ちからちょっと勢いよくダッシュしてみるのも、街中のコーナーをいつもより少しだけスピードを出して気持ちよく駆け抜けるのも、僕にとってはレース。そんな非日常的な楽しさを390 DUKEは日常的に味わわせてくれる。 ある意味、日常と非日常のバランスを狙ったモデルだから、買ったらそのままレースに出場してトップを狙える他の本格的モデルや、公道を走れるレーシングカーとも言うべき4輪のX-BOW "GT"とは少々性格を異にする。けれど、390 DUKEには間違いなくKTMの「READY TO RACE」の精神が込められている。いま僕は、こいつに首ったけなのである。 |
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