試乗する前にとあるクルマのことを思い出してしまった近年、自動車メーカー同士の協業がどんどん増えている。立場を忘れて、ただのクルマ好きとして無責任な発言をするなら「どれも似たようなクルマばかりになってしまうんじゃないか」と不安になる。そんな思いがあって、協業によって作られたクルマに乗るときには、一瞬身構えてしまう。 今回試乗したトヨタ「ライズ」に対しても同様だった。2016年にダイハツがトヨタの完全子会社となり、これまで軽自動車で培った技術をトヨタと共有し、ダイハツは主に小型車を両ブランドに向けて開発することとなった。ダイハツ「ロッキー」はそんな風にダイハツ主導で作られたクルマのひとつで、ライズはその兄弟車というわけだ。 ライズに試乗する前に、どうしてもこれまで両ブランドで販売されている「パッソ」と「ブーン」、「ルーミー/タンク」と「トール」のことを思い出してしまった。正直、これらのクルマは運転しても特に何も感じないクルマだった。別に批判したい訳ではなく、そういうものとして作られたクルマなのだろう。 使い勝手などの明確なユーザーベネフィットを最優先にしているから、「運転が楽しい!」と感じるための開発を優先順位の後ろに回しているだけ。確かにそうだ、誰しもがクルマの運転に楽しさを求めているわけではない……。それは分かっているのだが、個人的にはそれを少し残念に思ってしまう。 「楽しい」まで行かなくてもいい、ただクルマの存在をきちんと感じられて、何か大切なものを動かしているという実感がほしい。それが運転している時の安全につながるかもしれないという思いもあるが、それよりも単純に、決して安くはないお金を支払い、決して短くない期間を一緒に過ごすものに対して、心からの愛着を持てないなんて悲しいからだ。外見や使い勝手だけではない、肌と肌が触れた時に感じる人柄(車柄?)は個人的にクルマのとても大切な部分だと思っている。 1.0L 3気筒ターボエンジンがめっちゃくちゃいいそんなことをぐるぐる考えてしまい、腰が引けたままライズに乗り込んだのだが、ライズは走り出しから私をまっすぐ前に向けさせてくれた。とにかく、1.0L 3気筒ターボエンジンがめっちゃくちゃいい。信号で止まって走り出す度、いちいち「はやっ!」と言ってしまうほど、低速から中速まで、どこからどう踏んでも驚くくらいパワーが出る。担当編集さんがつい「3気筒エンジンの中で一番いいかも……」と言ってしまうのも頷けた。 それと、乗り心地も想像以上に良い。というのも、「ダイハツ車は絶対ロールさせないというポリシーでもあるのだろうか?」というくらい、ぎっちりと足を固めていて、乗り心地も硬いクルマが多いのだ。ライズではそれが適度にゆるんでいる。おそらく、トヨタの意向も汲まれているのだろう。 ダイハツに対して「こんなクルマを作っている会社」と明確なイメージを持っている人は多くはないかもしれないが、クルマの真ん中にある柱をとっぱらって乗り降りのしやすさを追求した「タント」や、とにかく縦に長い「ウェイク」などを見て、私にとっては“自由な想像を本当に創造してしまう会社”というイメージが強い。 トヨタほどの大きい会社なら「こうしろ」と一言命令もっと意図するものを作れる気もするのだが、ダイハツとの協業ではそうせずに、ダイハツの発想を尊重しつつユーザーにもっと喜んでもらい、きちんとクルマが利益を出すにはどうすればいいか支えているように思えた。プラットフォームである「TNGA」と「DNGA」の技術共有だけではなく、お互いの思いを汲み合ったことで、ロッキーとライズという個性がありつつ説得力もあるモデルに仕上がったのではないだろうか。 もしかしたらメーカー同士の間では侃々諤々(かんかんがくがく)さまざまあるのかもしれないが、今ユーザーの目の前に良いクルマを届けられているということは、何がどうあれ誰にとっても一番本望なことだろう。この関係性のバランスが崩れないままでいて欲しいし、これから他メーカーも含めて協業が増えるとしても、それぞれのメーカーのブランドの色を消すのではなく、ロッキーとライズのように、それをより鮮やかにするクルマづくりが続けばいいなと感じた。 【 トヨタ ライズのその他の情報 】 伊藤 梓(いとう あずさ):ライター スペック【 ライズ Z 】 <試乗車に装着されているオプション> |
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