ライバルと比べてやや低くやや短いコンパクトSUVのトヨタ「ヤリスクロス」がこの秋に発売される。デビューを前にメディア向けのプロトタイプ試乗会が開かれた。 車名から想像がつく通り、2月に登場した「ヤリス」がベースとなっている。全長4180mm、全幅1765mm、全高1560mm、ホイールベース2560mm。ヤリスよりも240mm長く、70mm幅広く、45~60mm高い。14~16インチタイヤを装着するヤリスに対し、ヤリスクロスは16インチ、もしくは18インチを装着する分、背が高い。 先日発売された日産キックスと比較すると、110mm短く、5mm幅広く、50mm低い。またこのカテゴリーのヒットモデルであるホンダ「ヴェゼル」に対しては115mm短く、5mm幅が狭く、45mm低い。つまりヤリスクロスはガチンコライバルの2モデルよりやや短く、背が低いのが特徴。ベースとなったハッチバックと同じ傾向だ。 車名のみならず、デザイン面でもヤリスとファミリーであることを感じさせる。顕著なのはリア。ヤリス同様、左右をガーニッシュでつなげたリアコンビランプがリアウインドウ下端から少し突き出るように配置される。それはヘッドランプから水平に伸びたショルダーラインと同じ高さにある。「高い位置に水平のラインを引くことでSUVの背の高さ、力強さを演出した」と開発陣は言う。 一方フロントマスクは、ヤリスと違ってグリルを上下に隔てるようにボディ同色のバンパーが配置される。ヤリスはその部分がブラックアウトされ、ひとつの大きな口(グリル)のように見せているが、ヤリスクロスはバンパー両サイドにエアインテーク風のモチーフがデザインされ、中にデイタイム・ランニング・ランプが仕込まれている。 ユニークな形状の前後フェンダーアーチを含め、クセが強いと言われ、好みがはっきり分かれる寸前の、ギリギリだれでも受け入れやすい範疇のデザインだ。 ガソリンも悪くはないがハイブリッドの洗練度を知ると…トヨタがダイナミックフォースエンジンと呼ぶ1.5リッター直3の自然吸気エンジン+CVTの組み合わせと、そのエンジンにおなじみのハイブリッドシステムを組み合わせた2種類のパワートレーンが設定され、それぞれFWDと4WDを選ぶことができる。スペックの詳細は明らかになっていないが、いずれもヤリスに採用されたパワートレーンであり、実際に乗ってみた印象もヤリスで受けた印象に近かった。 ハイブリッドは、ヤリス同様それ以前のシステムよりも電力供給の能力が明らかに向上していて、エンジン自体の効率も高い。静かで振動もよく抑えられており、何よりも力強い。発進を含む実用域でアクセル操作に対しレスポンスがよく、ストレスがない。すぐに望む速度に達する。 電力供給能力が向上し、前の世代のハイブリッドよりもエンジン始動の頻度が減ったように感じられるが、それよりもエンジンがかかった際の振動が減り、洗練度が向上したことのほうがありがたい。ハイブリッドはFWDと4WDを乗り比べた結果、軽快感でFWDのほうが少し上回る気がしたが、必要に応じて4WDを選ぶことを躊躇するほどの差はないと思った。 非ハイブリッド版のほうは、ハイブリッドと同じペースで走らせようとすると高いエンジン回転域を使うことになり、3気筒特有の軽い音質のエンジン音が目立つ。発進時を中心にハイブリッドほどの余裕はないが、コンパクトSUVとして絶対的にパワーが不足しているわけではない。ただし非ハイブリッドを買うと決めているのなら、せっかくなのでハイブリッドにも……などと記念試乗をしないほうがいい。体験すると洗練度の違いに心が揺らぐからだ、すなわち予算が許すならハイブリッドをオススメする。ハイブリッドなら車両を発電機として災害時などに電力を取り出すこともできる。 凝った作りのラゲッジユーティリティクローズドコース試乗は速度に制限がないので、気をつけていても高い負荷をかけた走行が中心になりがち。そういう状況でもヤリスクロスのボディはよじれを感じさせることなく、常に安心感と快適性が維持された。特にステアリングポストの剛性の高さが感じられ、上等なクルマだと感じさせた。 「GA-Bプラットフォームは骨格結合部分の構造の最適化に苦心し、高い剛性を獲得したほか、サスペンションのフリクションを大幅に低減してしなやかな乗り心地を実現した」という説明の通りの印象を得た。乗り心地については、もっと路面のよくない路面を含む一般道での確認が必要だが、素性がよいことは確認できた。 ユーティリティー性向上にも余念がない。通常このカテゴリーのクルマはリアシートが6:4の分割機構になっていることが多いが、このクルマは4:2:4の3分割。真ん中の2の部分のみを前へ倒せば、後席に2人乗っていながらスキー板に代表される長尺物も積載することが可能。分割を複雑にすれば部品が増え、強度確保にもコストがかさむが、ヤリスクロスはやってきた。ラゲッジスペースは容量が390L。 フロアが二重底になっている。高床状態にすれば床面を開口部の高さにそろえ、荷物積み下ろしが簡単になり、低床状態にすれば容量が増える。高さを決めるデッキボードは左右6:4分割タイプを選ぶこともできるので、シートを部分的に倒したり床の高さを左右で変えたりすることで、荷物の量や形状に応じてアレンジできる。 ラゲッジに向かって左側に大きな“えぐれ”があるおかげで、このクラスのクルマとしては珍しく、リアシートを倒さずゴルフバッグを真横に積載することができる。上級グレードのリアハッチは電動式。開閉に時間がかかりイライラさせられる電動ハッチも少なくないが、このクルマはモーター容量を増やし、従来の2倍の開閉スピードを実現した。確かに速かった。 上級グレードのインテリアセンスに閉口一点気になったのが、上級Zグレードの内装だ。前後ともシートのサイド部分が茶色のフェイクレザー、センター部分が洋品店の店内ではなく店頭に吊ってあるブラウスの柄のようなえもいわれぬ柄のファブリックで、ドア内張りにもシートと同じ茶色で障子のような手触りのテキスタイルが貼られている。田舎の公民館の応接間にあるソファに座布団を載せた状態のように見えた。 シートのフェイクレザー部分の張りが弱く質感を落としているのも気になった。Zグレードを選ぶ限り、どのボディカラーにもこの内装が組み合わせられるという。ツートーンにせよモノトーンにせよ、どの世代にも刺さりそうな魅力的なボディカラーが多いと感じたが、どのボディカラーとならこの内装が似合うのか、少なくとも現場にあった4、5色の中からは見つけられなかった。開発陣は幅広い世代を想定してこうしたというが、あまりにも熟しすぎに感じた。Zグレードには別の内装の設定も検討してほしい。 昼夜歩行者検知機能、昼間自転車運転者検知機能が付いた衝突被害低減ブレーキや車線中央維持支援機能をはじめとした、ヤリスで大幅に充実した先進安全装備がヤリスクロスにも備わる。ヤリスでは速度が低下するとキャンセルされるタイプだったため、多くの人をがっかりさせたアダプティブ・クルーズ・コントロールが、全車速対応型に進化したのはグッドニュースだ。ヤリスもどこかのタイミングでそうなるだろう。 ヤリスクロスはコンパクトSUVとして最後発の発売であることを活かし、動力性能、使い勝手、安全装備の内容など、苦手な項目をなくしたクルマになっている。ヤリスは実用燃費のよさで市場を驚かせているが、ヤリスクロスにもそれに準じた性能が備わっているはずだ。価格はまだ発表されていないが、その点でも最後発であることを活かして絶妙な設定になるだろう。 ※7/23 13:15 タイトルを修正しました(編集部) |
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