ジュークではなくキックスを選んだ理由日産として約3年ぶりの新型車となるキックス。シリーズハイブリッドのe-powerと運転支援システムのプロパイロットという同社の二大虎の子テクノロジーを採用したコンパクトSUVは、発売1カ月で1万台超の受注を得る好スタートを切り、(一部を除き)誰も予期せぬタイミングで急遽誕生した新しい経営体制の門出を祝うかたちとなった。 キックスは海外市場向けに開発され、2016年に発売されたモデルだ。今回、日本市場向けに仕立て直され、発売された。国内での位置づけは初代ジュークの事実上の後継モデルとなる。ジュークはモデルチェンジして2代目が存在するが、海外市場専用モデルで、国内には導入されない。初代ジュークはユニークなスタイリングが人気を博した。2代目は端的に言ってよりカッコいい。 にもかかわらず、日産は日本で久々となる新型車としてモデルチェンジしたジュークではなく手直ししたキックス選んだ。なぜ? 両方入れればいいじゃない? キックス(のみの)日本導入が明らかになって以来、日産ファンを中心に喧々囂々(けんけんごうごう)と議論を呼んだ。日産の回答は次の通り。ジュークはスタイリング優先で後席と荷室がやや狭いのに対し、キックスはユーティリティ重視。日本市場で望まれるのは後者と判断した。両方投入できればよいが、選択と集中を掲げる社の方針によってキックスを選んだ。 さてキックスは日本向けにどのあたりが仕立て直されたのか。まずフロントマスクを中心にスタイリングが変更された。組木細工をモチーフとした立体的なフロントグリルをVモーションデザインで挟み、その両脇に切れ長のLEDヘッドランプユニットが配置される。実物は画像で見る海外版よりもずっと精悍で、質感も高い。入ってこない2代目ジュークのほうがさらにカッコいいとは思うが、キックスも悪くない。 そして日本仕様の最大の特徴はe-POWER、つまりエンジンで発電した電力を駆動用バッテリーを介しモーターに伝えるかたちで100%モーター駆動する、「シリーズハイブリッドシステム」を採用することだ。ノートに初めて搭載され、セレナにも追加された。キックスで3車種目。過去2車種が通常のガソリンエンジン搭載モデルに追加されるかたちで設定されるのに対し、キックスはe-powerのみを採用した。後から安価なガソリンモデルが追加される可能性は高そうだが、少なくとも現時点では唯一のe-power専用モデルとなる。 静かになって制御も向上したe-POWER一般道と首都高で試乗した。キックスはe-POWERモデルとして過去最高の洗練度を獲得したと思う。まずエンジンがかかる頻度が低くなった。発進からしばらくは、それ以前にバッテリーに蓄えられた電力でまかないエンジンはかからない。そして全体的にエンジンがかかっている時間が短い。エンジンがかかる機会が少なく、時間が短ければ、静かでスムーズ。EVに近いクルマとなる。 どうやってそれを実現したのか。総電力量(バッテリー容量)は1.5kWhとノートやセレナ用と変わらない。聞けばエネルギーマネージメントを変えたのだという。ノートで初めてe-powerを採用した時点では、長い登り坂などの高負荷時に発電が追いつかず、バッテリーの電力が不十分となってパワー不足を起こすことへの懸念から、なるべく満充電の状態にしておこうと頻繁にエンジンをかけて発電する制御としていた。その後、データが蓄積され、どのくらいの頻度でどのくらいの時間発電すればよいかがわかってきた。それを踏まえ、キックスではある程度バッテリー残量が少なくなるまで発電しない制御とした。 加えて基本のエンジン回転数を2400rpmから2000rpmへと下げたため、その分かかっている間の音と振動が減った。さらに遮音材なども効果的に配置。源流対策と対症療法を同時にやったということ。 ドライバーがアクセルペダルを戻した際に回生ブレーキによる強い減速Gが得られ、そのまま完全停止することもできる、いわゆるワンペダルドライビングも、これまでより自然なフィーリングを得た。ノートやセレナの場合、ペダルを戻した瞬間にグッと強い減速Gが立ち上がり、丁寧に操作したつもりでも乗員が前のめりになることもあった。これまでもドライバーが慣れ、絶妙にペダルを戻せばスムーズな減速を得られるのだが、他のクルマから乗り換えた直後などにやや戸惑うことがあった。それがキックスでは、ペダルを戻した直後の減速の立ち上がりがややマイルドになっていて、スムーズな減速や停止が容易になった。 モーター駆動ならではのワンペダルドライビングは、本当に価値がある。右足の左右の角度を変えてアクセルペダルとブレーキペダルを踏み直す機会が減り、右足をアクセルペダルの上で前後させる動作が中心になると、こんなに楽なものかと感心する。楽なことは横着できるだけでなく疲れにくさに通じ、ひいては安全につながる。キックスにはブレーキホールド機能が備わるため、車両の完全停止後、ブレーキペダルから足を離してもブレーキがホールドされる。運転時間が長くなればなるほど、ありがたみが増す機能だ。 ボディやサスペンションパーツ各部の剛性を高め、ダンパーを大径化し、バンプストップを安価なゴムから高価なウレタンとするなど、競争の激しい日本市場向けにいろいろと手が入れられただけあって、一般道、高速道ともに乗り心地に満足できた。しっかりしたボディによく動くしなやかな足が付いているクルマ特有のいいモノ感あり。価格を考えるとインテリアの質感がギリギリ及第レベルに過ぎないと感じたのだが、それは走りの質感がよかったためにインテリアの質感との間にギャップが生じたからかもしれない。 ガソリンモデルと4WDが追加される可能性は高いキックスのもうひとつのセールスポイント、プロパイロット。16年にセレナに初採用されて以来、段階的に認識精度とアシストの的確さが向上してきた。キックスでは車線中央維持に関してドライバーが意識しないほど自然に、滑らかにステアリングをアシストしてくれる。ドライバーに逆らうようにカクカクとした動きでアシストしていたセレナの初期プロパイロットとは、わずか数年前なのだが隔世の感がある。スカイラインに採用されるハンズオフ機能を備えたプロパイロット2.0は採用されなかった。 ユーティリティー性能を優先してジュークではなくキックスを日本向けに選んだだけあって、キックスは広い。後席は足元、頭上ともに余裕があり、長時間の乗車も苦にならないはずだ。容量423Lのラゲッジルームは広いだけでなく凹凸が少なくデッドスペースが生まれにくい。ペダル踏み間違い衝突防止アシスト、ハイビームアシスト、車線逸脱警報、SOSコールなど、先進安全装備も抜かりなく備わっている。ミラーとカメラ映像を切り替えられるインテリジェントルームミラーは後席中央に人が乗った場合などにありがたい。 不満は現時点で4WDが用意されないことか。なるべく早く発売するためにFWDのみの開発を急いだようだが、どこかの段階で追加される可能性は高いと思う。また安価なガソリンモデルも、ライバルのトヨタ「ヤリスクロス」やホンダ「ヴェゼル」に設定されていることを考えると、タイミングの予想は難しいが、いずれ出るだろう。 【スペック例】【 日産 キックス X 】 |
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