軽オープン2座スポーツという存在軽自動車のオープン2座スポーツというカテゴリーは、近年では「ダイハツ COPEN(=コペン)」の独り舞台だったが、実はその歴史はけっこう奥深い。まずそこに登場したのが「ホンダ S360」で、そのデビューは1962年の東京モーターショーでのことだった。しかしS360はプロトタイプが出現しただけで発売されるには至らず、軽オープンスポーツが実際に市販モデルとして世に出るのは90年代初頭のことになる。 1991年に、ホンダがミドエンジンの「ビート」を、スズキがフロントエンジン後輪駆動の「カプチーノ」を、相次いで発売したのである。しかも1992年には、オープンではなかったけれど、マツダからミドエンジンにガルウイングドアを備える「AZ-1」も出現したから、90年代前半には軽自動車のスポーツカーが花盛りなのだった。しかしそれも、日本市場におけるスポーツカーやスペシャルティカー衰退の煽りを食って徐々に生産中止に追い込まれ、90年代も末に入る頃にはいずれも現役モデルとしては姿を消す運命にあった。 ところが軽オープン2座スポーツの流れは、新たなメーカーの参入によって2000年代に入って復活する。2002年に、ダイハツが「コペン」を発売するのである。それは、他メーカーのライバルがMRやFRといった専用シャシーを備えていたのに対して、ダイハツの軽の実用モデル用プラットフォームをベースにしたFFを採用するクルマだった。それに加えて、トップが電動油圧ポンプの開閉式だったのも、それ以前のライバルとは一線を画していた。 コペンは結局、発売開始から10年以上にわたって生産されるロングセラーとなり、2012年に生産を終了。輸出用の1.3リッターモデルを含むその間の総生産台数は6万6000台を超えた。それは、ビートの3万3000台強、カプチーノの2万6000台強を、圧倒的にリードする数字だった。 「骨格+樹脂外観」というボディ構造しかもダイハツは、コペンを初代だけで終わらせるつもりはなかった。昨年秋の東京モーターショーに、「KOPEN future included」なる、外観のデザイン処理が異なる2種類のコンセプトモデルを展示したのだ。で、それから5カ月と少々が経った3月末、ダイハツはお台場にセットした特設コースでコペンのプロトタイプといえるモデルをジャーナリストに試乗させると同時に、そのコンセプトやメカニズムに関する新技術を発表した。 その新型コペンに用いられた新技術の根幹にあるのは「D-Frame(ディーフレーム)」と名づけられた新しい骨格構造と、「DRESSFORMATION(ドレスフォーメーション)」と呼ばれる内外装脱着構造で、その2つを統合すると「骨格+樹脂外観」というボディ構造に至る。 まず「D-Frame」と呼ばれる骨格部分は、商用車のミラバン用と思われる3ドアモノコックボディのアンダーセクション、つまり下半分をベースにして、スポーツカーに求められる剛性を確保するべく各部を補強したもので、初代コペンに比べて上下曲げ剛性は3倍、ねじれ剛性は1.5倍を達成しているという。結果、必要な剛性はすべてこの骨格でまかなえるため、ボディ外板は剛性を負担する必要がない。したがって、ドアを除く外板はすべてPP=ポリプロピレンをはじめとする樹脂製にすることが可能になり、外観デザインの自由度を上げる目的と、車重を軽くする目的が達成できた、というわけである。 さらに、ホイールベースをミラより短縮するなど、スポーツカーらしい俊敏性を得るための方策も採られているが、骨格+樹脂外板構造といっても、例えば「ロータス エリーゼ」のようにアルミフレームを新造したりしていないところがダイハツらしい。それはコペンを200万円を切るクルマに仕上げるという、明確な目標があるからだ。 軽快な加速と心地よいサウンド試乗は臨時駐車場の一角に多数のタイトベンドを設けたジムカーナ風のコースで行われたが、走り出す前に基本スペックに触れておくと、フロントに3気筒660ccターボエンジンを横置きして前輪を駆動するという動力系の基本は「ムーヴ Xターボ」などと変わらず、トランスミッションは特製の7段マニュアルモード付きCVTと5段MTの2種が用意される。車重は先代より30kgほど重くなって、CVTが870kg、MTが850kgだという。 フロントがストラット、リアがトーションビームというサスペンションも、他のダイハツ製軽と基本は同じコンポーネンツを使うが、取り付け部分の剛性やブッシュ、スプリングやダンパーなどにコペン独自のセッティングが施されているのはいうまでもない。 というところでオープンコクピットに収まると、ダッシュボードにはシボのないツルンとした樹脂が露出しているなど、試乗車はあくまで試作モデルだということが一目瞭然になる。それはともかく、ウエストラインが高いのに加えて、シートも先代より低くセットされているから、ドライビングポジションはスポーツカーらしい落ち着きを感じさせる。 最初に乗ったのはCVT仕様だったが、エンジンが軽くレスポンスすることもあって、走り出しは軽快である。演出に拘ったという排気音は、ボリュームはそう大きくないものの、それなりに心地よいサウンドを奏でる。パワーは47kWというから例の64psで、対する車重は870kgあるから絶対的な加速はさほど強力とはいえないが、タイトコーナーからの脱出で踏み込むと、期待に違わず気持ちいいペースでスピードを上げていく。 コースを半周ほどしたところでマニュアルモードを選択、すると駆動輪に適正なトルクを与えることができるため、コーナリングがぐっとやり易くなる。ただしこのマニュアルモード、現状ではステアリングパドルが備わっていないのが、若干物足りなく感じた。一方、後に短時間だけMT仕様に乗ったが、シフトフィールは良好に思えた。 「峠の下りを得意とするクルマ」だが…ならばシャシーの振る舞いはいかなるものか、とコーナーを攻めてみる。その多くが90度以上の曲がりを与えられたタイトベンドだが、そこでの挙動はナチュラルな感触で、スロットルを閉じつつステアリングを切り込めば165/50R16サイズのBS製ポテンザRE050Aを履くノーズが確実に内側に入るし、踏み込みながら脱出してもアンダーステアは過大なレベルに達することなく、想定したラインを描いて立ち上がっていく。 試乗コースでは、もっとクイックなステアリングが欲しくなったが、公道上にこれほどのタイトコーナーが連続する道はまずないので、実際はこの程度でいいのかもしれない。ステアリングに関していえば、コーナリング中の接地感がもう少し明確な方が、スポーツカーとして好ましいと思った。ブレーキはCVT車とMT車で若干フィールが違ったが、CVT車の感触が標準であるとすれば、制動力、コントロール性とも、充分なレベルにある。 では、肝心のボディ剛性はどうか。これに関しては、どこまで求めるかによって評価は変わってくるが、実は今回のコース、舗装がけっこう荒かった。そこをテンション高く駆け巡ると、路面の荒れた部分ではボディが若干左右に揺れる感触がある。もちろん充分許容範囲内にはあるものの、個人的にはもう一歩タイトな方が望ましいとは思った。と同時に、舗装の荒れた部分では、乗り心地にももう少ししなやかさが欲しいと感じた。 つまり新型コペン、本気でコーナーを攻めていると充分に愉しく、ダイハツの評価ドライバー氏が話していたように、「峠の下りを得意とするクルマ」であろうことは容易に想像できた。そこで僕が望みたいのは、特に飛ばしていない日常的な状況における気持ちよさを、もう少し明確に演出してもらいたい、ということである。もちろん、好天の日にオープンで走るのは爽快に違いない。しかしコペンは、トップを閉じてクーペとして乗る機会も少なくないクルマだと推測できる。そんなときにもワクワクできる何かを与えることができたら、200万円を切るスポーツカーとしては望外の上出来ではないかと思う。 |
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