日本市場における欧州車のEV元年数年前までは、日本の自動車メーカーがハイブリッドカーや電気自動車(EV)など「電動化」に積極的なのに対して欧州勢はやや消極的であり、そのかわりにエンジンを進化させることに注力しているように見えていた。だが、2014年は「BMW i3」や「VW e-ゴルフ/e-up!」が日本へ導入されるなど、さしずめ欧州EV元年(スマートは一昨年に導入)といった様相だ。今回は一足早くe-ゴルフの市販モデルにドイツで試乗できたので、その出来映えとともにVWの電動化にかける本気度についてもお伝えしたい。 日本と欧州で電動化に対する温度差があるように思われていた、もしくは取り組みのスピードが違っていた原因はいくつかあるが、大きいのは燃費/CO2規制のあり方だろう。欧州はメーカー毎に販売した「新車の総平均のCO2排出量」を算定して規制。それに対して日本の燃費規制は「トップランナー方式」。自動車を重量で区分してそのクラスでもっとも燃費のいいクルマを目標として、その他のクルマも一定期間内に追いつくように求めるものだった。 欧州は「全体主義」で、日本は「個別主義」と言えるだろう。だから日本ではたとえ一部であってもハイブリッドという飛び道具で秀逸な燃費を誇るモデルを開発し、欧州ではソコソコいい燃費のモデルが全体に行き渡るようにするという考えが先行したものと思われる。その他、日本は電気モーターやバッテリーの技術に優れていた、欧州にはCO2排出量で有利なディーゼル乗用車がある、なども電動化の温度差の背景としてはあるだろう。 だが、2020年あたりの燃費/CO2規制をにらめば、欧州メーカーは電動化を採り入れる必要がでてきている。逆に日本メーカーはエンジンを高効率化しなければならない。さらにその先まで見越せば、電動化もエンジンの高効率化もどちらも必須であり目指すところは同じ。アプローチの順番が違っただけということだ。 静かで振動がなく、トルクフルで速いVWも電動化に手をこまねいていたわけではなく開発は続けてきていたが、ここにきてラインアップを急拡大することになったのは「MQB」とも無関係ではない。モジュールテクノロジープラットフォームのMQBではポロからパサートのクラスまで、すべて同じパワートレーンを採用できるように設計されている。EVやPHEV(プラグイン・ハイブリッド)のモーターなどもMQBに最適なカタチで開発され、市販化がスタート。今後、様々な車種で展開可能となっているが、その第一弾が、MQB第一弾でもある7代目ゴルフ(アウディA3含む)のEVバージョン「e-ゴルフ」というわけだ。 e-ゴルフは最高出力85kW(115ps)/最大トルク270Nmのモーターを搭載。リチウムイオンバッテリーは24.2kWhの電力容量で航続距離は130~190kmとされている。0回転から最大トルクを発揮できるモーターの特性によって1ギアで済むのがEVの特徴だが、e-ゴルフも例外ではない。最高速度は電気的に140km/hに制限されているという。冬場のヒーター使用時に航続距離がガクンと落ちるのがEVの悩みの種で、最近は日産リーフも高効率なヒートポンプシステムを新採用しているが、e-ゴルフも標準装着は電熱式だがオプションでヒートポンプシステムを用意するという。 今回はベルリンの街中を中心に試乗したが、乗り味は素晴らしかった。静かで振動がなく、トルクフルで速い。バッテリーが床下に敷き詰められているので重心が低くてシャシー性能もいい、などというのはEVでよく言われることで当然といった感じだが、“ゴルフそのものの良質さ”がEVでも堪能できるのが特徴だ。 静粛性の高さはゴルフの美点だが、e-ゴルフではパワープラントのマウントをエンジン車と異なる支持特性を持つ振り子式にして改良。モーターのノイズもハウジングの設計に工夫を加えることで抑え、さらに吸音材もワンランク上のものを使っているという。結果的にEVのなかでも一際静かで快適になった。 ブレーキのタッチも洗練されている乗り心地も素晴らしい。ボディがしっかりとしていてサスペンションがスムーズに動く様子が手に取るようにわかり、細かな凹凸に対してもこの上なく滑らか。どんな高級車にも負けないぐらいに快適性は高いのだ。 EVでもハイブリッドでもブレーキフィールは大きな課題。ブレーキペダルを踏むとある程度までは回生ブレーキのみで制動し、それを越えると一般的な油圧ブレーキが介入してくるというシステムがほとんどだが、回生ブレーキのみの時のペダル反力やミックスされた時の反力変化などに違和感があるからだ。 ところがe-ゴルフはまったくもって普通のガソリン車と変わらぬ自然なブレーキフィールを持っていた。油圧ブレーキ用ブースターとは別に、自然な反力を造り出すポンプを持っているからだという。アクセルオフによる回生は5レベル。通常のDレンジでは回生なし、シフトレバーの+/-操作で「D1」「D2」「D3」「B」と回生が強くなっていき、最大で0.3Gほどを発生。Dレンジで走っているときは、いわゆるコースティング状態でエンジンブレーキ的なものがまったくない。 慣れないと走りづらいのでは? と想像していたが、最近の低燃費性能を追ったエンジン車もタイヤがサーッと転がっていくので、それと比べれば大差なく、ほとんど違和感がなかった。シフトレバーで回生の強さを選べるのは嬉しいが、できればステアリングにパドルを装着して操作できるようになればもっといいし、頻繁に使うようになるだろう。 日本へは夏ごろに導入、価格は…気になる価格はドイツで34,900ユーロ(約500万円)。そのクオリティの高さを考えれば納得もいくが、専用設計でカーボンなども使用するBMW i3が日本で499万円なのを考えると安くはない。日本へは夏ごろに導入される予定で、もちろん急速充電器のチャデモに対応する。 VWもこのe-ゴルフがすぐに大量に販売されるとは思っていない。それよりも現実的なPHEVを今後2年間で12車種展開していくといい(グループ全体)、まずはそちらを普及させていくつもりだ。e-ゴルフやe-up!は、VWが電動化に本気で取り組んでいる象徴のような存在で、アーリーアダプター向けなのだろう。 またEVの普及において、各地域の補助金などに頼りすぎることを良しとしておらず、あくまで市場が自然なカタチで受け入れていくのに合わせて生産規模も考慮していくという。それにはさらなる性能向上、主に航続距離の延長が求められるが、うまくいけば2023年あたりに400km程度まで伸ばすことができると予測しているそうだ。その段階になれば、トータルコストでPHEVに追いつくという。 それが本当だとしたらEVが多くの人にとって“現実的な乗用車”になるまで、あと8~9年。意外と近い実現を、VWの電動化戦略から見てとれるのだった。 |
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