クーペ登場で見えてきたジャガーの本気ジャガー Fタイプ クーペの国際試乗会に参加した。先行して発売されたオープン2シーターのFタイプも人気だが、ようやくアンチ・オープンカー派向けのクーペが揃ったのだ。 フルアルミボディは今ではジャガーのコア・テクノロジーである。ソフトトップを持つオープンボディのFタイプと、ハードトップボディのクーペは並行して開発されたのだ。ちなみにジャガーのチーフエンジニアに聞くと、メルセデスのSLのようなハードトップのオープンカーは英国的ではないと否定する。そういえば、ジャガーXKも、ベントレーもロールス・ロイスも、高級車になるほどソフトトップを好む。ハードトップのオープンカーはデザイン的にも中途半端感が否めない。 何を隠そう私もソフトトップ派で、過去には996カレラ4カブリオレを持っていたし、現在はミニ ジョンクーパーとスマート カブリオを我が家で使っている。清水家はみんなソフトトップ派なのだ。この業界の大御所である徳さん(徳大寺有恒氏)の言葉を借りると「ソフトトップに落ちる雨粒は番傘に落ちる音と似ているね」という。なんとも風情があるじゃないの。英国と日本には王室・皇室があり、「何が高級か」をよく知っている。私も、自分で所有するソフトトップが誇らしくなった。 ところで、スペイン・バルセロナで行われたFタイプ クーペの国際試乗会は、いつもと異なる雰囲気をもっていた。2日間で650kmもワインディングを走り、サーキットもフリー走行状態で10ラップ以上できた。このダイナミックなイベントに、ジャガーの新しい何かを感じずにはいられない。私はこのクーペを、オープンカーの派生モデルと軽く考えていたかもしれない。ラリーとレースのテクニックを駆使して走破したバルセロナから、ホットなインプレッションをお届けしよう。 FタイプRの新エンジンが登場しかし、せっかくスポーツカーに乗るならアドレナリンで胃に穴が空くようなパッションも欲しい。ポルシェとも勝負したいし、BMWやメルセデスに乗る連中に一泡吹かせたいと思う人は少なくないはずだ。ポルシェ・オーナーから見ても、ジャガーのような英国スポーツカーはかなりヤバイ存在だ。ドイツ車では味わえない、ちょっと控えめなキャラクターだが、本物感は十分にある。 Fタイプ クーペに搭載されるエンジンは基本的にはオープンモデルと同じで、「Fタイプ クーペ」には340ps/450Nmを発生する3L V6 スーパーチャージャーが、「Fタイプ S クーペ」にはパワーアップした380ps/460Nmを発生する3L V6 スーパーチャージャーが、最もホットな「Fタイプ R クーペ」には550ps/680Nmを発生する5L V8 スーパーチャージャーが積まれる。V8スーパーチャージャーはFタイプ R専用として設計されており、0-100km/h加速は4.2秒とジャガー・ファミリー中、最強だ。 Fタイプ Rにはオプションのカーボンコンポジットブレーキが用意され、サーキットで試乗した車両もカーボンブレーキ付きだった。このホットなFタイプ R クーペなら、ポルシェ ターボやメルセデス・ベンツ SL63AMGともバトルできそうだ。 スポーツカーの速さの象徴とも言えるニュルブルクリンク北コースのラップタイムはどうか。Fタイプ R クーペは7分40秒前後で走るらしい。断定していないのは、正式なタイムアタックが春を待って行われるからだ。少なくとも997型ポルシェ ターボやGT3に近い速さを持っていることは間違いないだろう。フロントエンジン+トルコンATでこの速さは非常に気になるところだ。ジャガーも密かにタイムを意識しているのだ。 ヤバイぞ、Fタイプ R クーペ!バルセロナから西に200km入った丘陵地帯に新しいサーキットが誕生した。一周5km強のサーキットはアップダウンがあり、Fタイプ Rならストレートで260km/hに達する。助手席にインストラクターが乗り込み、私がステアリングを握る。恒例のコンボイ走行ではなく、助手席のインストラクターが叫ばない限り、スロットルは全開だ。 サスペンションをスポーツモードにしてチャレンジする。ハンドリングは非常にご機嫌で、フロントエンジンとは思えないほどターンインはシャープ。前後重量配分はほぼ50:50なのでトラクションも十分だ。 Fタイプ Rには魔法のLSD(と個人的に思っている)、電子制御のEデフが備わる。さらにDSC(横滑り防止装置)でアンダーステアも見事にコントロールされるが、私はアンダーステアを出さないのでサーキットでは不要だ。スポーツモードは横滑り防止装置のしきい値が下がり多少の横滑りを許容してくれるが、思った以上に安全面に振られていた。 トルコンATであるのを忘れてしまいそうなレスポンス鋭い8速ATは、パドルシフトで小気味良く操作できる。発進でもたつくツインクラッチ(DCT)はよくできたトルコンATに敵わない、という私の持論が証明されたみたいだ。連続のホットラップでも音を上げないカーボン製ディスクは、ブレーキダストも出ないからシティ派にもおススメしたい。バリュー・フォー・マネーで評価すると、Fタイプ Rのカーボンブレーキ付きが最もおススメなグレードかもしれない。 無敵のワインディングの走りと伝統の“ネコアシ”ロードコース1日目はFタイプ S クーペのステアリングを握り、300kmもワインディングを走った。荒れたスペインの道路はときに険しく迫ってくる。「よくもこんなコースを選んだよね」とパートナーと話す。どうも今回から、ランドローバーのエクスペリエンスチームが運営しているようで、完璧にオーガナイズされたイベントが気持ちいい。 安全は十分に確保されているが、ガードレールのないワインディングでスポーツカーを振り回す気分は相当にヤバく、そして楽しい。谷に落っこちたら自己責任というのが英国流だが、今回選ばれた日本人プレスは武闘派だから、心配はないだろう。 初乗りしたのはFタイプ S クーペだ。トルクフルなV6/380psには大満足で、公道で乗るならV6で十分と確信する。おそらく試乗できなかった340psの素のFタイプ クーペでも十分なパフォーマンスを持っているはずだ。それに、Fタイプ S クーペの乗り心地が素晴らしい。ポルシェやメルセデスAMGと違って、サスペンションをしなやかに動かす、いわゆるジャガー伝統の“ネコアシ”が健在なのだ。整地されたサーキットならいざしらず、荒れた路面をいなすことができるサスペンションは唯一無二の存在だろう。このサスペンションに私は惚れ込んでしまった。 ロードコース2日目は550psのFタイプ R クーペで、ブレーキディスクはノーマルのスチール仕様だ。前を走る元気のいいおじさんとチェイス。狭いワインディングでもペースは緩まず、相当な腕の持ち主だ。私もギリギリまでブレーキを遅らせるが、しっかりと制動力を使いターンインはオーバースピードにならないように心がける。一回だけ、右コーナーの曲率を見誤り、フルブレーキングでステアリングを操舵する場面があったが、ABSは信頼感が高く、ESCがリヤ内輪にブレーキ介入してアンダーステアは抑制された。 こうしてしばらく続いたカーチェイスは敵が道を譲ったために無事終わったのだが、Fタイプ R クーペの痛快な走りと、こんな素晴らしいコースを思いきり走らせてくれたジャガー・チームに敬意を表したいと思った。お金を出してでも参加したい国際試乗会だったのだ! |
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