スモールSUVの元祖的存在エコスポーツ。どこかで聞いたことがあるような名前だが、実は日本初登場のモデルなのである。6月の日本発売を前に、ひとあし先にタイで開催された国際試乗会に参加してきた。 フォード・エコスポーツは、フィエスタとプラットフォームを共有するコンパクトSUVで、ボディサイズは全長4195mm×全幅1765mm×全高1655mm。コンパクトSUVの人気は世界的に高まっていて、とくに欧州では2018年までに90%もの成長を果たすとフォードは予測している。 プジョー2008やルノー・キャプチャー、日本からはホンダ・ヴェゼルなど、このセグメントへの新規参入が相次いでいる背景には確固たるマーケット予測があるのだ。大きすぎないボディ、高い経済性、スタイリッシュな外観、優れたユーティリティ、そしてなによりライフスタイルを豊かにしてくれそうな雰囲気……、軽自動車のスズキ・ハスラーが大ヒットしているのも同じ理由からだろう。 実は、エコスポーツはスモールSUVの元祖的存在でもある。今回登場したのは2代目であり、初代は2003年に南米専用モデルとして登場。累計販売台数77万台というスマッシュヒットになった。2代目の開発も当初は南米市場をメインターゲットに据えてスタートしたが、スモールSUV人気の世界的な高まりを受け路線を変更。最終的にはブラジル、中国、タイ、インドの4カ国で生産し、世界100カ国以上で販売されるグローバルカーとなった。そんな生い立ちがエコスポーツにユニークなキャラクターを与えることにつながったのは興味深い部分だ。 懐かしの背面スペアタイヤを採用したワケ高めに位置する台形グリル、切れ長のヘッドライト、躍動的なサイドビューなど、エコスポーツは最新フォードデザインの文脈に則って仕上げられている。しかし、ライバルたちの中にあってもっとも特徴的なのは背面スペアタイヤだろう。 背面スペアタイヤは、かつてのトヨタRAV4や三菱パジェロなど、ひと昔前に流行したクロカン4WDが採用していた方式だが、クロカン4WDの乗用車化が進むにつれ、背面スペアタイヤ方式を採用するモデルは減っていった。ところが、エコスポーツはちょっと懐かしい背面スペアタイヤ方式を採用している。開発担当者に聞いたところ、開発当初から先進国市場を強く意識していたらスペアタイヤは室内に収めただろうとのこと。しかし実用性が重視されるBRICs市場では、背面スペアタイヤがベストな選択だったそうだ。 実際、エコスポーツのユーティリティはちょっとすごい。リアシートを使っている状態で362L、畳めば705Lまで拡大するが、それ以上に大きな荷物を積む際に、開口部の大きさとスクエアな形状が効いている。なにしろドラム式洗濯乾燥機をすっぽりと収めてしまうのだ。スペアタイヤを床下や室内に収めているライバルではちょっとマネのできない芸当である。 その他にも、たっぱのある室内高を活かして合計20カ所(!)もの実用的な小物入れを用意。助手席下にはアンダーボックス、ドアには1.5Lサイズのペットボトルが入る大型ポケット、エアコン吹き出し口を設けたグローブボックスには350ml缶が6本も入る。そしてシートは撥水機能付き。かくの如く、エコスポーツはSUV本来のキャラクターである「気取らずにガシガシと便利に使える」ことを突き詰めたクルマに仕上がっているのだ。 とはいうものの、バックドアの開閉ハンドルをリアコンビランプ部に隠すなど、お洒落さにもちゃんと気を配っているあたりはさすが最新モデルである。 ポテンシャルの高さを感じさせるエンジンは吸排気に連続可変バルブタイミング機構をもつ1.5L直4の自然吸気。フィエスタの1.0L 3気筒のダウンサイジングターボが素晴らしい出来映えだけに、なんでわざわざ違うエンジンを? と思ったが、このあたりもターゲットとする市場への最適化と考えれば合点がいく。コストや耐久性、整備性といった諸々のことを考えれば、コンベンショナルな自然吸気エンジンには依然として大きなメリットがある。トヨタがダウンサイジングターボになかなか手を出さない理由もそのあたりにあるはずだ。 といった小難しい話はともかく、実際にドライブしてみてもエコスポーツと1.5Lエンジンの相性はとてもよかった。とくに力強いわけでも鋭い回転上昇をみせるわけでもないのだが、フラットなトルク特性のおかげでエンジンの存在を意識することなく、ノンビリと走っていられる。加えて上り勾配や急加速が必要なシーンでは6速DCTがいい仕事ぶりをみせ、必要にして十分な走りをもたらす。 ドアまわりのダブルシール構造やアコースティックガラス、その他入念な遮音吸音処理により、クラストップレベルの静粛性を実現しているのもエコスポーツの特徴だ。 駆動方式はFFのみ(ブラジル仕様のみ4WDを設定)。雪国の人にはちょっと不親切だが、最低地上高は200mmを確保しているし、水深も550mmまでならOK。550mmというとちょうどタイヤが隠れるぐらいの深さであり、運悪くゲリラ豪雨に見舞われても慌てずに済みそうだ。 高い評判を得ているフィエスタをベースとしているだけに、フットワークにも抜かりはない。重心の高さやクルマのキャラクターにあわせステアリング特性は穏やかな方向に躾けられているが、ちょっとペースを上げてワインディングロードを走ってみれば、内に秘めたポテンシャルの高さを、安心感の高さと思い通りのライントレース性として実感できるだろう。 エコスポーツは、カジュアルで使い勝手のいいスモールSUVとして非常に魅力的なモデルだ。この原稿を書いている時点で日本での価格はまだ発表されていないが、フィエスタ(235万5428円)とほぼ同価格になれば戦闘力は高い。 |
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