ノンターボの最量販グレードを調査「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第7回目。今回の調査対象は日本でいちばん売れている車、すなわち「まさに国民車!」と言える存在の軽自動車「ホンダ N-BOX」である。 日本でいちばん売れている車というと、「さあ、日本一に乗ろう。」という広告コピーでおなじみの日産ノートを思い浮かべる人もいるかもしれない。だがアレは登録車(軽自動車ではない普通の車)のなかでの販売台数No.1であって、軽自動車も含めた「無差別級日本一」はホンダN-BOXなのだ。 2018年上半期の車名別販売ランキングを見ると、日産ノートの7万3380台に対してホンダN-BOXは12万7548台。さすがにダブルスコアではないが、それに近いレベルでノート以上に売れまくっているホンダ N-BOXという軽トールワゴン。いや、最近は「軽スーパーハイトワゴン」と呼ぶのだろうか? そのあたりの事情は寡聞にして存じ上げないが、いずれにせよN-BOXの何がそんなに実用大衆車として素晴らしいのか、あるいはイマイチなのか? 全日本国民車評議会(通称・国民車会議)としての視点で改めて検証してみたい。 星の数ほどの(?)タイプやグレード、仕様があるN-BOXだが、今回調査対象に選んだのはノンターボの「G・L Honda SENSING」という売れ筋グレード。btyの記事を熱心に読み込んでいるカーマニア諸兄はターボ付きのほうがお好きかもしれないし、筆者も、もしもN-BOXを買うのであればターボ付きにする可能性は高い。 だが今、世の中の大勢のマインドは「そんなに飛ばさないし、ターボなんて高いし」である。であるならば、ここはノンターボを調査してみるのがおそらくは正解で、そのなかでもG・L Honda SENSINGは最量販グレード。これこそが今、ニッポンのど真ん中なのだ。 昭和世代には「遅っ!」だが、今の時代を思えば十分に力強いG・L Honda SENSING(FF)の車両本体価格は149万9040円と、なかなかお安い。だがフロアマットや「ドラレコあんしんPKG」やらのオプション装備を付けていくと、支払総額はおおむね200万円に達する。「高くはないが、かといって安くもない」といったニュアンスの予算感だろうか。 そんな総額200万円級の車であるホンダN-BOX G・L Honda SENSINGの広報車に、ホンダ本社ビルの地下駐車場でご対面すると……デカい。今さらだが、これは本当に軽自動車なのだろうか? 思わず「軽自動車界の違法建築」というフレーズが脳内に浮かぶ。いや違法ではなく合法であり、「長さ3.4m以下で幅1.48m以下、高さは2.0m以下」という軽自動車規格にちゃんと収まってはいるのだが。 運転席に乗り込んで走り出すと、さすがに最初の一瞬は、普通の車(2Lぐらいのエンジンを積む、さほど背が高くない乗用車)に慣れきっている身としては「……遅っ!」「箱型だから上のほうが重い感じがして気持ち悪っ!」と思ってしまう。 だが不思議なもので、5分、いや2分も運転していれば慣れてしまうというか、違和感を感じずに運転できるようになる。 そこに関する詳しいメカニズムや因果関係は、できれば筆者ではなく他の真面目な自動車評論家諸氏に尋ねてほしい。だがいずれにせよこの感触が、「煮詰めに煮詰めた」という2代目N-BOXの本領の一端なのだろう。 「あぁ、こりゃいい車だわ……」などと独りごちながら、おっさん(筆者)は黄色い2トーンカラーの軽自動車に乗って青山から渋谷にかけての国道をズンズン進んだ。 乗り心地は良く(というかすぐに身体になじみ)、エンジンの力強さも十分。や、もちろん昭和的な感覚で言うなら「遅っ!」なのだが、今はそんな時代ではない。周囲の流れと法規にもとづいてスマイリーに運転する限りにおいては、これでぜんぜん十分だ。 そこそこ満足できる「ニトリ的な良さ」がある背は高いが、軽自動車ならではの細身のボディを生かして大混雑した東京都内をスイスイ走り、この車がある程度身体になじんだところで路肩の駐車場枠に停め、外観および内装のデザインをあらためてジロジロ眺めてみる。 ……なかなかイイじゃないか。 あくまでも個人的な嗜好に基づく話でしかないが、やんちゃなデザインを採用しているN-BOXカスタムの外観は、なんだか地方都市のマイルドヤンキー臭が感じられてどうしても好きになれない(すみません)。だがこちらの通常N-BOXは「シンプルで安価だが、よくできている道具」としての美しさが、自然とにじみ出ていると感じられる。 インテリアも同様だ。悪くない。もちろん150万円級の軽自動車なので「高級感」みたいなものとは無縁だが、言ってみれば「ニトリ的な良さ」があるのだ。 ニトリも今や全国に523店舗を展開しているゆえ、ほとんどの人がご存じだろう。お手頃価格の食器や寝具、カーテンなどを製造販売している企業だ。ニトリが作って売っているプロダクツは「お手頃価格」なだけあって、さすがに高級感はない。だが、食器や寝具の熱心なマニア以外は「ま、これはこれでいいんじゃないの?」と思える程度のデザイン性と質感は備えている。 マニアの人たちは「こんなの家に置きたくない!」と言うかもしれないが、筆者はあいにく食器マニアでもカーテンマニアでもないため、自宅ではそこそこの数のニトリ製品を使っている。そして実はそこそこ満足している。 N-BOXのインテリアもちょうどそんな感じだ。 筆者は自動車マニアなので、マニアとしての視点で見てしまうと「ここの質感がどうのこうの」と指摘したくなる部分がゼロなわけではない。しかし世の中の大半を占める非自動車マニアの感覚になってN-BOXのインテリアを眺めてみれば、「あら! このお値段でこのデザインと機能って、ちょっとステキじゃないかしら?」以外の感想を持ちえないのだ。 現時点で最強の国民車候補高速道路を巡航させてみても、ホンダN-BOX G・L Honda SENSINGの「ニトリ的な良さ」は大いに光る。 もしも昭和の車マニアっぽい言い方をするなら「追い越しを企図する際、エンジン回転数の上昇と車速アップのリニアリティに若干欠けるのが惜しい。CVTの悪癖といったところであろうか」みたいになる。 だが普通ぐらいの速度とセンスで高速道路を走るのであれば、そんな細かいことは「ほとんどどうでもいい」と感じられるほど、その走りっぷりは悪くない。 100km/hから追い越しをかけるのはさすがに少々かったるいが(だが不可能ではない)、安全だけに気を配り、あとは特に何も考えずに90~100km/hほどで巡航し、そこから状況に応じて減速したり加速したりするのは快適そのものだ。いや「快適そのもの」はさすがにちょっとホメすぎか。「これはこれでいい感じである」と言い直そう。 ほぼ真四角なカタチゆえ「高速道路では風切り音がデカそう」というイメージがあるかもしれないが、実際はそんなこともない。ロードノイズ等も含めてまあまあ静かな車である。100km/h超になると横風の影響がちょっと怖くなるが、それ以下の速度域ではビシッと安定している。……素晴らしいですよ。 都内および近郊をいろいろと走り回って、車載の機器によれば燃費は17.1km/L。「27.0km/L」というカタログ燃費には届かなかったが、これはこれで悪くない数字であろう。そして検証のためにあえてアクセルをベタ踏みにした時間帯もあっての17.1km/Lなので、本当の実燃費はもう少し良くなるはずだ。 総額おおむね200万円で買えるという価格と、言わずもがなの居住空間の広大さ、そして考え抜かれた機能性。昭和的感覚ではなく平成的感覚で走る限りにおいては十分以上の動力性能と、なかなか快適な乗り心地。そして言うまでもなく軽自動車ならではの維持費の安さ。さらに加えて、内外装のニトリ的なステキさ。 ……これはもう「現時点では最強に近い国民車候補」と言わざるを得まい。ていうか、だからこそ日本国民にバカ売れしているわけだが。 ホンダN-BOX G・L Honda SENSINGは、非自動車マニアな皆さんには大いにお勧めしたいと同時に、マニアな各位にもセカンドカーとして、あるいは「自動車趣味をなんとなく卒業した後の一台」として、強くお勧めしたい車であった。内外装のデザインがさらにハイセンスであったなら満点に近いが、そのあたりはさすがに欧州車のほうが得意分野だろう。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりだ。 【N-BOX G・L Honda SENSING(FF)=149万9040円】 国民車とは?今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル |
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