ピュアとリネージの最大の違いはシート2017年に復活した「アルピーヌ A110」。ファーストエディションに相当する「プルミエールエディション」はアルピーヌ設立年に合わせて1955台つくられ、うち日本に入ってきた50台に1000人以上の購入希望者が殺到して抽選販売が行われたのが今年7月。 そして今回姿を現したのが、カタログモデルのA110。グレードは2つ。走りに関係する基本アイテムは全て一緒だが、スポーティな雰囲気を追求した「ピュア」と、ラグジュアリーな世界も求める「リネージ」。外観上の違いは、選べるボディ色が異なる事に加えて、キャリパーの色(ピュアはブルー、リネージはブラック)とホイールだ。サイズも装着タイヤも同じだが、ピュアは先だって限定発売されたプルミエールと同じFUCHS(フックス)製のシルバー。リネージは切削加工仕上げのブラック基調ホイールとなる。 内装では共にサベルト製のシートが、ピュアはフルバケット、リネージはリクライニング機構が付くスポーツシートになっている。また、オーディオ好きはご存じだろうがフランスのFOCAL(フォーカル)製スピーカーを備え、リネージはサブウーファーも装着する。 A110はミッドシップなので前席後ろにスペースはそれほどないが、シートを少しだけ倒す余裕はある。目的地までの道中など、シートを少しでも倒して仮眠などを考えるなら、リクライニングとハイトアジャスト機能のあるリネージがオススメ。ただ、ピュアのフルバケットは背もたれが倒れず窮屈だが、剛性が高く正確なハンドル操作ができるうえに、クッション性も良いし乗り降りもしやすい形状なので、スポーツカー好きなら身構える必要はないとも言える。 価格はリネージが約30万円高い。 トランスミッションは7速DCTのみドライビングプレジャー。A110に込められたものは、そのひと言に尽きる。来日した開発ドライバーのダビット氏が、最後は数値などではなく楽しいと感じる感覚を大事に仕上げたと言っていたのが印象深い。 順を追って話すと、ドライバーとの一体感と運動性能を求め、パッケージはミッドシップに決まる。コンセプトは、サーキットも楽しめるクルマでありながら、一般道でも楽しく安全であること。そのために「軽量」「ハンドリングの俊敏性」「イナーシャー(慣性)低減」「ドリフトしやすいこと」を大事にしたという。 その結果、車両重量は1110kg(リネージは1130kg)。前後重量配分は44:56というミッドシップの理想的数値に持ってきた。そのうえで高い支持剛性や、タイヤの接地を安定させグリップ力変化を抑える前後ダブルウィッシュボーンを採用。 俊敏性を生み出す適度にコンパクトなボディは全長4205×全幅1800×全高1250mm。1800mmしかないのにフロントにハンドリング向上をもたらすダブルウィッシュボーンを装着できるのも、ミッドシップの隠れた魅力といえる。 トランスミッションはダイレクトな操作感や素早い変速が可能な7速DCT。ちなみにMTの設定は今時点ではない。そこに最高出力252ps、最大トルク320Nmを発揮するする1.8L直噴ターボエンジンを組み合わせる。エンジン紹介が最後になったが、シャーシ性能がより重視されているので仕方ない。 ちなみに重心点はドライバーのお尻の位置。ここが最もクルマの動きを感じやすいということで、闇雲に重心点を下げることより感覚を大事に仕上げたそうだ。 編集部注※10月29日追記 本文の表現を一部修正いたしました。 ハイペースで気になる、グリップが抜けるような感覚まずは一般道での試乗だ。ハッキリ先に言おう。ワインディングをハイペースで飛ばすことに快感や楽しさを見いだしているドライバーは試乗して確かめた方がいい。僕は少し乗りづらさや不安感を得る要素があった。 走行ペース順に述べると、街中では予想以上に走りやすく、そして楽しい。スタートなどはDCT特有のギクシャク感が多少あるのだが、クルマとの一体感や動きのよさ、サウンドなど様々な刺激があふれており、スタートのギクシャクが自然と気にならなくなる。 乗り心地も、ミッドシップで特別なクルマという認識があるためか、逆に快適だと思えてしまう。特に足回りがしなやかなのが効いている。スポーティにドライブした際など大きく足周りがストロークしたときに、さらに減衰力が高まり踏ん張り感を発揮するダブルダンパー式を採用しており、街中などの穏やかな入力では減衰力が抑えられとてもしなやか。ボディの見切りも良く、狭い道も気兼ねなく走れて、しかもフロントの地上高なども十分あるので、この手のクルマにしては気をつかわず走れる。 ワインディングをのんびりと走る分には、これまたとても良い。エンジンもアクセル操作にダイレクトだし、吹け上がりも良く、排気音は後方からダイレクトに入ってくるし、シャーシ性能が高いので不安感無くアクセルを踏みこめるのも気持ちいい。しかも、ダブルウィッシュボーンと重量バランスが影響しているのか、素早いハンドル操作から穏やかな操作までクルマ全体にハンドルがガッチリと繋がっているようなダイレクト感があり、自由自在感も高い。 その気持ちよさに酔いしれるように徐々にペースを上げていくと、ちょっと不安を感じる動きが出てくる。旋回しながら路面のうねりを体で感じられるような、かなり高めの走行ペースだ。軽量がアダになり、クルマ全体が路面のうねりによって跳ね上げられてグリップ感がフッと抜ける感覚がある。実際はまだグリップしているので横滑り防止装置は働かないが、ミッドシップ車の減衰力が低めのしなやかに動く足で路面からあおられた時は感覚として怖い。アクセルを踏んでそのフワッと感を抑えようにも、クルマごと跳ね上げられているので、効果も出ない。 柔らかい足は好きな方だが、流石にこの足でサーキットは大丈夫か? と思った。 デチューンした専用のミシュランを装着するこだわりサーキットを全開走行してハッキリした。このクルマのコンセプトは速さではなく、ドライビングプレジャーなのだ。 今回は富士スピードウェイのショートコースをたった3周しか走れない。スポーツ特性はワインディングで確認済みなので、潔く全開。その1コーナー、自分では4つのタイヤが滑ろうが狙った走行ラインで曲がれると思いきや、クルマ1.5台分ほど外に大きく流れていく。姿勢は安定しており、コントロール性も良く、そこに焦りや不安感がないのは、前後重量配分の良さと、滑りながらも的確にフロントの接地感を出せるフロントダブルウィッシュボーンの効果だろう。しかし、狙ったラインには全く乗らない。 中盤にある右左に連続するカーブ。様々なクルマで何度も周回しているので、アクセルをオフにしてフロントタイヤのグリップ稼ぎながらハンドルを切り込むタイミングも体に染み込んでいるが、またもや狙ったラインに着けない。しかし、ラインを外れながらも姿勢を大きく乱すような事は無くバランスは取れている。要因は一つでグリップレベルが思ったほど高くないのだ。 純正装着タイヤはミシュランの「PS4」(パイロット スポーツ 4)だが、コンパウンドはA110用に専用設計(純正採用マーク付きだけ)しており、一般に売られているPS4よりもグリップレベルを下げているという。狙いはドリフトのしやすさだ。 後にテストドライバーのダビット氏の横に乗って明確になったが、想像よりも低い速度域(サーキットなので非日常レベルで十分に速いが)でタイヤが滑り、それを自在にコントロールする。しかもハンドルの戻し操作へのレスポンスが異常に良い。ハンドルの戻しがラフなドライバーが乗ると、違和感を得るだろうレベルで俊敏だ。この特性のおかげでミッドシップのドリフトを楽しめるし、連続するカーブをひらりひらりと綺麗に走り抜けられるのだろう。 この特性こそ他のミッドシップ、例えば「ポルシェ ケイマン」との違いだろう。ケイマンは高いグリップレベルのタイヤをさらに使いこなすべくボディワークや足周りのセットアップが施され、速さは圧倒的だ。しかしA110のように振り回してドリフトまで楽しめるかというと、クイックな滑りだしなどを含めてコントロールが難しい。 端的に言えば、タイヤの滑りを抑え旋回力を高くして速く走らせよううとするケイマンに対して、A110はドリフトを含めた運転する楽しさをグリップレベルを落としてまで求めていく(それでもミッドシップとして不満の出ない十分な速さだが)と、両者のキャラクターが異なっているのだ。 タイヤ交換時も純正マーク付きのPS4を選びたいちなみにここからは予想。このPS4、綺麗に接地しているのでタイヤ摩耗は遅いだろうが、交換する際はアルピーヌ純正マーク付きを選びたい。おそらくグリップレベルの高い市販のPS4を履くと、旋回スピードは高まるが、ミッドシップ特有の限界が来たら突然放り出されるような、冷や汗をかくバランスになるはず。 どのクルマもグリップレベルを上げるとクイックになるわけではない。先に述べたA110特有の足回りが関係している。例えば富士ショートコースにあるジャンピングスポットでは、やはりクルマごと跳ね上げられるが、速度が高いとストロークした先で、減衰力が高まるダブルダンパーのメリットを使えるのでワインディングのような不安感は皆無だった。それでも、グリップレベルを高めるとおそらくまた減衰力が負け出すだろう。 先日パリモーターショーでGT4モデルも姿を現し、いずれアフターパーツなどで、乗り心地やしなやかさは多少犠牲になるだろうが、グリップ力の高いタイヤを履きこなす強化した足周りを与えられたモデルも登場しそうだが…。 カタログモデルで登場したA110は「感覚を大事に仕上げた!」という言葉が示すとおり、絶妙なバランスで仕上げられたドライビングプレジャーあふれるミッドシップモデルだ。 スペック【 アルピーヌ A110 ピュア】 |
GMT+9, 2025-6-24 00:16 , Processed in 0.087137 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .