ライティングの新たな可能性決して大掛かりな変更ではない。しかし新型アウディA8の外観は確かにこれまでよりもすっきりと洗練された雰囲気を纏っている。変更箇所はお約束の前後バンパーやラジエーターグリル、更にはボンネットなどといった部分だが、特に効果的なのは、LEDを使ったヘッドライトやテールライト。そのクールなハイテク感はまさにアウディのフラッグシップに相応しい。 しかも、それは見た目の変化には留まらない。実現したのは高い安全性である。初採用のマトリクスLEDヘッドライトは、左右それぞれのハイビームを25個のダイオードで構成し、カメラ映像によって捕捉した車両前方の状況に応じて、そのひとつひとつの光度を調整することによって常に最適な照射を実現するテクノロジーだ。 では、コレで一体何が可能になるのか。たとえばハイビーム走行中に対向車の存在を感知すると、マトリクスLEDヘッドライトはその部分だけ光をマスクして相手の幻惑を防ぐ。アダプティブハイビームと違って、こちらの場合はマスクした部分以外は明るく照らし続けることができるのが大きなメリットとなる。 他にもカーナビゲーションの地図データを元に配光を変化させたり、または道路上や脇に歩行者が居るのを感知した時には、点滅させて合図を送ったりといったこともできる。配光パターンは何と10億以上に及ぶという。 R8に続いてダイナミック・ターン・シグナルも採用されている。単に点滅するのではなく、光が流れるような表示を行なうことで、たとえ片側しか視認できないような時でも、進行方向をより明確に示すことができるわけだ。 単なるライトと言うなかれ。LEDテクノロジーにより、自動車のライティングに新たな可能性が生まれたことは間違いない。早くからLEDの搭載に積極的だったアウディは、新型A8でそれを最大限に活用してみせたと言えるのではないだろうか。 走りの質が確実に向上走りの面でも新型A8はスペック以上の進化を味わわせてくれた。とりわけ全車に共通して言えるのが静粛性、特にロードノイズの低減ぶりで、これによって走りの質が確実に向上している。 最初にステアリングを握ったのはエントリーの3.0TFSIクワトロ。V型6気筒3Lスーパーチャージャー付きエンジンの出力数値は変わらないが、燃費は0.2km/L向上している。 実用域から十分な力を発生するだけでなく吹け上がりも軽快なこのエンジンは、走ることに積極的なドライバーにぴったりと言える。但し、ロードノイズが小さくなった一方で耳に届くエンジン音がやや大きめに感じられたのはマイナス。実はこのモデルだけ、BOSEサウンドシステムを活用して逆位相の音で室内騒音を打ち消すアクティブノイズキャンセレーションが備わらないのが影響しているのだろうか。 続いて乗ったのはホイールベースを130mm伸ばしたロングボディのA8 L。最高出力が15ps増の435psとなったV型8気筒4Lツインターボエンジンにはシリンダー・オン・デマンド、いわゆる気筒休止機構付き。こちらもJC08モード燃費を9.9km/Lまで引き上げている。 低中速域ではひと回り上の余裕を感じさせ、それでいていざアクセルを深く踏み込むと爽快なパワーの伸びを実感させてくれるこのエンジンは、そのスマートな速さがA8のキャラクターにとても良く合っている。サウンドもより澄んでいて、こちらではエンジン音が殊更気になることはなかった。 フットワークはいずれも強めのアンダーステアに終始する。ロングボディはともかく標準モデルはもう少し軽快でもいい気はするが、クワトロとの相乗効果で高い安定性、安心感を実現しているのも事実。結局はこのセグメントをどう見ているかというブランドの個性と評するべきかもしれない。 これでもかの最新技術投入安全装備について、もう少し触れておこう。車両挙動が不安定になるとウインドウを閉じてシートベルトを引き込むアウディプレセンスは標準装備。目をひくところでは、自動ステアリング修正機能が付いたアクティブレーンアシストも、ストップ&ゴー機能付きのアダプティブクルーズコントロールなどとセットで、プレセンスプラスと呼ばれるオプションで用意された。 メルセデス・ベンツなどが車線を逸脱しそうになると片輪にブレーキをかけてラインを引き戻すのに対して、アウディはステアリングの自動操舵によってそれを行なっているのが興味深い。ブレーキを使うのにはドライバーに危険を察知させる効果もあるが、ステアリングを自動で操舵してしまうと運転をクルマ任せにしてしまう危険性もある。これには注意喚起としての警告表示などが伴ってもいいのでは? それでもアウディに期待される最新技術のこれでもかの投入は、洗練されたデザインと相まって、間違いなく追い風になるだろう。欲を言えば、アウディプレセンスプラスは標準装備でも良かった。A8に限らず、アウディジャパンは先進安全装備に対する世のニーズに少々疎く見えるのが気になる。 それでも、特に日本から要望が多かったと言われるラゲッジスペース容量の拡大も図られるなど、好調ぶりにブレーキをかける要素は何も無い。あるいは販売面では、アウディ京橋のような都市型小規模店舗の拡充も、特にこの手のモデルにとっては大きな力になるだろう。 日本ではメルセデス・ベンツSクラスとレクサスLSの2モデルが突出しているラージクラスサルーンの市場で、アウディA8は着々と地場を固めつつある。2014年の販売目標である650台という数字は昨年のほぼ2割増。達成できれば7シリーズの尻尾を遂に捕まえることになる。この野心的な目標、実現の可能性は十分あると感じさせるのが、今回の充実のフェイスリフトである。 |
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