高出力化はあくまで結果論マツダ・ロードスターのリトラクタブルハードトップモデルである「RF」が、登場から2年ぶりに手の込んだ改良を受けた。とはいってもスタイルはそのままで、大部分がエンジンの進化というのだから、やっぱりマツダは面白い。 ※編集部注:今回のマイナーチェンジはロードスター(ソフトトップモデル)とロードスター RF(ハードトップモデル)両方に実施されていますが、試乗会では2.0Lエンジンに大幅な変更を受けたロードスター RFのみに試乗しました。 RFに搭載されるエンジンは「SKYACTIV-G 2.0」。今回のマイナーチェンジでこのエンジンは最高出力が158psから184psへ大幅に向上。そして最大トルクは200Nmから205Nmへ。またそのレブリミット(回転限界)は、6800rpmから7500rpmまで引き上げられた。 ここ数年マツダはこうした内燃機関の磨き上げに余念がない。それは周囲が動力機関の電動化に慌ただしさを増して行くなかで、まだまだ内燃機関の効率化が環境性能を問う上でも重要な役割を果たすとわかっているから。ちなみに彼らが電動化に対して後手を取っているかと言えばそうではなく、それは2020年を目標としたプランに盛り込みながら、既存のエンジンの性能を研ぎ澄ましている。 しかしこのRFで面白いのは、その目的があくまでロードスターの「人馬一体」感を高めるための改良だったことだ。自然吸気エンジンで+26ps/+5Nmの出力アップといえば相当なチューニングメニューだが、むしろ高出力化は結果論で、「乗り手の気持ちよさ」や「運転に対するリニアリティ」を高めるためにこれが行われた、という点がいかにもマツダらしい。 徹底的に改良された「SKYACTIV-G 2.0」具体的な変更点は多岐にわたる。吸気系では7500rpmにまで引き上げられたレブリミットに対し、高回転で必要な吸気量を確保すべくスロットルバルブが通路面積を28%も拡大され、これに伴いインテークマニホールドの長さ(短縮)と曲がり角を適正化。エンジン側では吸気ポートをこれまでの独立型から途中まで2気筒が共用するコモンポートへと変更し、バルブスプリングのレートも高められた。 エンジン内部ではピストン形状を改めると同時にブロック壁面と当たるスカート部分をショート化し27g軽量化。これを支えるコンロッドはピストンピン側軸受けを2段R化し、コンロッドボルトは縮小・短縮。これによって41gも重量を削減した。対してクランクシャフトはカウンターウェイトの最適化を行い、むしろ重量は若干増えているというから、今回の目的が単なる性能の追求に留まらず徹底した慣性重量の低減やフリクション低減にあることが想像できる。 ちなみにピストンはそのトップ部分の形状を低め、さらにエッジ部をカットした。こうすると圧縮は下がってしまいそうだが、それは釈迦に説法だろう。むしろ燃焼室に入った混合気(ガソリンと空気が混ざった気体)はその推進力がピストンヘッドで減衰されずに力強く渦を巻き、まんべんなく燃焼室に行き渡ることができるらしい。またこれに合わせてインジェクターは燃料の微粒化と、噴射制御の多段化を行った。 対して排気側はポート径を適正化。バルブ径の拡大に合わせて当然ポート径も広げられているが、その直後は排気流の剥離を抑制するために流路の曲がり角が穏やかになっており、エキマニ付近の出口径が拡大された。さらにエキゾーストマニホールドは出口部分のパイプ径と集合部分のパイプ径が拡大された。さらに排気側カムシャフトも、そのプロフィール(リフト量と開弁角)が大きくなっている。 エンジンの進化が6速ATの性能を若干追い越してしまったこうして徹底した改良が行われた「SKYACTIV-G 2.0」の出来映えはどうだったかというと、私のようなマニアから見れば、素晴らしい改善であり改良だった。とくに6速MTとの組み合わせはベストマッチだ。改良前の2リッターユニットに足りなかったパンチ力、アクセルを踏み込んだときの瞬発的なレスポンスが大幅に向上し、これが確かにトップエンドまで勢いを保ったままきっちりと回って行く。高回転域での高出力化を達成したにも関わらず、低速域での実用トルクが落ち込んでいないところにも感心できる。ここには6速MT用のプロペラシャフトが、密かにねじり剛性を引き上げられていることも効を奏していると感じられた。 これなら1.5リッターの気持ち良いエンジンに後ろ髪を引かれながらも、パワー&トルクで2リッターを選んだマツダ党もニンマリである。荒っぽく言えば北米仕様然としていた大味なトルク型ユニットが、日本人好みの淡麗辛口な切れ味を得たと言える。またロードスターRFで気になっていた、フロントサスペンションの曖昧な操舵フィールが若干改善されていたのも付け加えておきたい。これを技術者に質問すると基本的な構造や部材の変更はないのだが、精度のばらつきがでないように取り付け行程での改善が図られたという。 少し残念だったのはこうしたエンジンの進化が、6速ATの性能を若干追い越してしまったと感じたことだった。もちろんマツダは新型エンジンに対してトランスミッションの適正化も図っており、ターンイン(ブレーキングからコーナーに入る場面)での変速追従性を高めるためにスポーツモードのレスポンスを上げ、ファイナルギアレシオを3.454から3.582へと高めている。これを前期型ATと比べると、ドライバビリティは雲泥の差だ。特にターンアウト(コーナーから脱出する場面)でギアが低いまま固定され、余計な再シフトダウンなしにアクセルを踏み込んで行けるようになったのは大きな進歩である。 日本が誇るミドル級スポーツカーとして着実な進化を遂げたしかし6速MTでの見事な一体感を味わってしまうと、本音を言えばもう少し切れ味のあるレスポンスが欲しい。たとえば8速ATにしてもっとショートギアレシオにする。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が高価かつ重たく、グラム作戦を採るロードスターにとって不向きならば、スズキのようなソリューション(シングルクラッチ+モーター)をもってさらなるレスポンスを得る。どれも急には無理な相談であるし、CVTを使っていない分だけ良しとするべきであることも承知している。つまりそれだけ今回エンジン性能の方が突出してしまい、ひいてはマツダが目指すトータルバランスというテーマには、ATが少し後れを取ってしまった気がするのだ。 ちなみに6速ATのトランスミッションはサイズがやや大きく、構造上の関係からMT車のような床面補強が行えない。よってMT車に比べバネ下でタイヤの動きが大きく、キビキビと走らせた際に動的質感に対して明確に差が出る。そういう意味でも前期型エンジンは大味というか大らかで、結果的に前期型6ATとバランスしていたのかもしれない。だからこの際6速ATと6MTは、キャラをはっきり分けてしまってもよいのではないかとすら思われた。 またRFはオープントップに対して風の巻き込み音が大きく、せっかくサイレンサーを見直したり、デュアルマスフライホイールの投入で「歯打ち音」を抑制したりというサウンドに対する工夫が感じ取りにくかったのも残念。ただクローズド状態ではそこそこ大人びた音質であることも確認できたし、そうした快感・快音はやはり純オープンカーである1.5リッターが担当する分野である、ということなのだろう。 総じてこのロードスターRFは、着実な進化を遂げた。自然吸気エンジンにこれだけ手を入れて高出力化したにも関わらず、燃費性能は若干ながらも向上したというし(旧モデル、JC08モード:15.6km/L、新モデル、WLTCモード:15.8km/L ともにVS 6MT)、6速MTモデルのスポーティさは本当に素晴らしく向上した。これならトヨタ86と共に、日本が誇るミドル級スポーツカーとして、世界で2トップを張れるのではないかと思う。 スペック【 ロードスター RF VS (6AT) 】 |
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