新型ディーゼルエンジンの投入など大幅な改良を実施マツダの大黒柱は現在「CX-5」のようだけれど、ボクはこの「CX-3」こそがマツダを支える一台であって欲しいと常々思っている。 なぜならデミオの小型車用プラットフォームをベースに作られた“プレミアムB”と呼ぶべきボディは適度にルーミーで、我々日本人にとっては絶妙なサイズ。そこにデザインと走りのこだわりをたっぷりと注ぎ込み、なおかつ安全装備である「マツダ・プロアクティブ・セーフティ」を備えても、ガソリンモデルの「20S」では240万を切る価格でこれを手に入れることができる。こんなコンパクトSUVって、他にあるだろうか? マツダのアイデンティティをひもとくと、ボクは「ファミリア」だと思っている。誰もが買える気持ち良い走りの大衆車。その血統を受け継ぐ「デミオ」がCX-5とマツダの両翼を支えているのは嬉しい限りだが、それを現代解釈したCX-3は、もっと人気者になっていいはずだ。 そんな思いはマツダも同様だったのだろう。今回マツダは自らが「大幅な改良」と謳うほど大がかりなテコ入れをして、CX-3に磨きをかけてきた。 最も大きく目を引くのは、エンジンユニットの改良だ。というのもこれまで1.5リッター(105ps/270Nm)だった直噴ディーゼルターボ「SKYACTIV-D」ユニットが、1.8リッター(116ps/270Nm)へとその排気量を拡大したのである。 マツダはかねてからエンジン部門を統括する人見光夫氏が、実用域での燃費性能および環境性能向上には「適切な排気量が必要」であると述べており、今回はこれを実践した形となる。 もちろん変更されたのは排気量だけでない。ターボチャージャーは高効率化を計ることで吸入空気量を増やし、高応答インジェクターが混合気の噴射効率を改善。これにピストンや燃焼室形状の変更を加えることで、実用域における燃費性能を1.5リッター時代よりも向上。実用燃費に近いといわれるWLTCモードで、その平均燃費は20~23.2km/L(FF・6AT/6MT)を実現した。 また自然吸気ユニットである「SKYACTIV-G 2.0」(150ps/195Nm)も着実に進化している。ヘッドユニットに新型ポートおよび燃焼室を採用し、耐ノック性能を向上。インジェクターをより高圧化することでディーゼル同様に混合気の噴射効率を改善し、冷却水制御の高効率化や可変容量オイルポンプによるフリクションロスの低減など、前2リッターエンジンに対して全域にわたって1~1.5%トルクをアップ。これによってアクセラレーションに対する効率化も実現され、約1~1.5%燃費率が改善された。その燃費性能はWLTCの平均モードで16.0km/L(FF・6AT レギュラーガソリン)となっている。 マイナーチェンジなのにタイヤを新開発して乗り味を追求だがマツダとしては今回の改良を、決して「エンジンありき」だとは思っていない。あくまでその中心は、クルマを操るドライバーなのである。 これを実現するために開発陣は、当然ながらCX-3のフットワークを煮詰めた。ここで特筆すべきは単にバネ・ダンパーを変更するのではなく、その足下から“尻もと”まで、コンセプトに対して統一性を持たせたこと。 具体的には路面に直結するタイヤから見直し(※縦バネ剛性を見直したタイヤをTOYOと新開発)、スプリング・ダンパー・フロントスタビライザーといった足回りをこれに合わせて適正化。操作感覚を向上させるために電動パワーステアリング(EPS)と「Gベクタリングコントロール」の制御をキャリブレーションした。そして最後はフロントシートの座面部分に、「CX-8」で採用された高減衰ウレタンを用いたのである。 こうして得られた乗り味は、確かに既存のCX-3を超える上質感があった。これまでCX-3はそのハンドリングに、どちらかといえば若々しいキャラクターを見いだしていた。それと同時に相反するプレミアム性(主に乗り心地)を両立させるべく、ある意味悩んでいたとボクは思う。 具体的にはシャッキリとしたスプリング及びタイヤ剛性を持たせながらも、ダンパー(特にコンプ側)で路面からの入力を減らし、これをバランスさせようとしていた。これは場面場面において狙い通りのハンドリングや乗り心地を示したものの、全体的にはカクカクとした走りの印象だった。固められた足回りに対して明らかにフロントのダンピングが足りず、直進安定性は高いとは言えなかった。また操舵に対する車体の反応は鋭いのだが、ロールスピードの速さをして“意のままのハンドリング”を謳うような違和感があった。 対して新型CX-3は、まずその乗り心地が明らかに違う。路面からの入力をインフォメーションとしては伝えても、不快な振動はフロアやお尻、そしてステアリングに伝わらないのだ。 静粛性に関しても、ドア周りのシーリング、天張りの板厚アップ、ドア外板パネルの板圧アップなどかなりのコストをかけたというが、確かにガソリンモデルの遮音性は見事だった。 ディーゼルの場合、冷間時のアイドリング付近におけるガラガラ音はやっぱりうるさい。ガソリンモデル同様、振動は上手に遮断されているものの、アクセルペダルからだけはこれがブルブルと入ってくる。これは車格の問題もあるが、たとえばエンジン騒音がなくなったEVが、ロードノイズを目立たせてしまうのに似ている。静かになりすぎた故に、カットし切れなかった部分が目立ってしまう形だろう。 ただこれもエンジンを回してしまえば振動が収まり、SKYACTIV-D特有のスカッと爽やかな乗り味が得られている。 ガソリンとディーゼルで分かれたハンドリングの評価ハンドリングに関しては、ガソリンモデルが秀逸だった。ハンドルの切り始めから減衰力がじわりと立ち上がり、ステアリングにはタイヤの接地感が操舵初期から伝わってくる。切り込んで行っても、以前のように急激に車体はグラッと傾かない。どの場面でもダンパーのオイルが心地良い抵抗を作り出し、ノーズは穏やかに狙ったラインをトレースしてくれる。切り返しでも動きが突っ張らない。 対してディーゼルは、もう少しフロントのスタビリティを上げた方がよいと感じた。エンジンは明らかにガソリンモデルよりもキャラ立ちしており、力強いトルクと共にきっちりと6000rpm付近まで回って行く。 この骨太感に対して、もう少しだけ操舵時の剛性感が欲しい。しっかりとした直進安定性があるといい。マツダはシームレス感を謳うあまりにその乗り味がスッキリとし過ぎている傾向が強い。本来これを補うのがボディ剛性なのだが(CX-8がその成功例だ)、それが予算の関係上できないのであれば、少なくともEPSは速度感応式にして欲しい。 今回の改良でCX-3はスプリング及びスタビライザーレートを弱め、代わりにダンパー容量を増やすことでしなやかな操縦性を目指した。その心意気はわかるが、結果的には旧型のしっかり感に、このダンパーコントロールを与えた方がディーゼルはマッチングしたとボクは感じる。微妙なトルク管理でアンダーステアを相殺し、ターン中の姿勢を安定させる「Gベクタリング コントロール」も、その方が活きる。今のままだと、少し曲がりすぎるように思うのだ。 とはいえこうしたハンドリングと乗り心地のあくなき追求姿勢は、大きく評価したいところ。プラットフォームにテコ入れすることなく(つまりは価格を抑え)、巧みにボディバランスを取る努力と工夫があるからこそ、CX-3は我々の手に届くコンパクトSUVになっている。 アームレストの新設などインテリアの変更も本格的ちなみにインテリアも本格的な変更を受けた。サイドブレーキを電動化し、モニターを操作するコマンダースイッチをコンパクト化したことによってカップホルダーが前進。これによって備わったアームレストは一見するとサイズが短めだが、着座してみるときちんと肘を置くことができる。その下にあるマルチボックスへのアクセスも容易だし、よく考え抜かれているのが理解できた。インパネのソフトパッドがスウェード調になったのも国産車らしからぬ質感の高さを表現できていると思う。 いまCX-3のメインユーザーは20代が少しと40代以上で、これをグラフ化すると子育て世代の部分がぽっかりと穴を開けた形になるという。ここで若いユーザーにアピールしたいとなると、ライバルである「トヨタ C-HR」のような奇抜さが求められるように思えるが、ボクは今のままでよいと思う。 なぜなら若者の場合新車購入比率が下がるだけで、CX-3自体に魅力を感じていないわけではないと思うから。また我々中高年世代にとってCX-3の落ち着いた雰囲気は、じつに自然にしっくりと馴染む。 欲を言えばディーゼルモデルにちょっとだけクロスオーバー風味を強めた特別仕様車を出して、その骨太なイメージをリードして欲しい。そんな期待をしたくなるほど、新型CX-3は上手く生まれ変わったとボクは思う。 スペック【 CX-3 20S プロアクティブ(FF) 】 |
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