デザインが明らかに日本の自動車たちの間で浮いている「up! GTI」よ、オマエってこんなにイカしたヤツだったっけ!? スペインで行われた「GTI Performance Day」以来の再会だから、その時間はわずかに1カ月半くらいのもの。なのに日本の路上で再開したGTIの末っ子は、あの時から一段とたくましさを増して、ボクの目の前に現れた気がしたのだ。 ただその直感は、あながち間違いではないのだと思う。GTIといえばホワイトのボディカラーに、細身の赤いラインが定番だ。しかし目の前に現れたup! GTIは、そのキャラクターラインを相殺してもなお有り余る迫力の真っ赤なボディカラーを、照りつける太陽のもとで輝かせていた。 up!特有のフォグランプを内蔵する“ドヤ顔バンパー”は、ボディ同色からブラックに。そのコントラストが効いているのか、もともと強い目ヂカラもより一層際立っているような気がした。 エッジの立ったキャラクターラインは兄貴たちに比べれば控えめだけれど、その小さなボディには迫力十分。パキッと立ち上がったプレスの峰が、ボンネットにくっきりと陰影を作り出している。GTIとしての変更点はほんとうに僅かなのだけれど、その立ち居姿は堂々としているのである。 よってその姿は、良くも悪くも日本の景色から浮いている。そもそも数が少ないから見慣れない上に、明らかに日本の自動車たちとは異なる姿形。速度レンジの高さから、小さければ小さいほど安全のために自車の存在をアピールすることが重要な欧州で培われたデザインは、単に目立つだけではなくセンスをもってこれをまとめる能力に長けており、平和な日本の環境では、なかなか生まれ出ないものだと思う。 1.0リッター直噴ターボの荒々しいキャラクターが魅力そしてその浮きっぷりは、走りでもよい方向で発揮される。日本の低いスピードレンジで走らせるup! GTIは、1リッターターボを搭載するシティコミューターとは思えないほどシッカリしている。 アウトバーンを全開でカッ飛ぶ可能性をもきちんと想定されたシャシーは実に骨太。それを支えるサスペンションは、そのほとんどが100km/hを上限とする日本の高速道路ではフラリともしない。かといって必要以上にダンパー&スプリングが固められていないから、日本特有の目地段差に対しても乗り心地がちゃんと確保できている。 かたやハンドルを切り込めば、操舵初期からタイヤのグリップが立ち上がり、狙ったラインを正確にトレースできる。ストロークをそれほど長くは取れないであろうリアサスペンションは、車体がロールしてもしっかりとタイヤを地面に押しつけ安心感が高い。ドライバーの技量によってキビキビ走ることも、安定して走ることもできる間口の広さを持っている。 面白かったのはその1.0TSIターボが、ヨーロッパにいたときよりも一段と荒々しく感じられたことだった。街中では3気筒エンジン特有のビート感を響かせながら、“ズドドドド”と吹け上がる。高速巡航ではその排気脈動が高回転でトーンを揃え、“ビーン!”とトップエンドまで回って行く。フォルクスワーゲンとしては初となるガソリンエンジン用粒子フィルターの影響はあまり感じられず、パーシャルスロットルからアクセルを踏み込んでもそつなくトルクが追従してくるのは、燃調セッティングになんらかの変更があったからなのだろうか? ともあれ6速MTを目一杯引っ張って、この鼓動を感じながら走っていると、日本では遙か昔に失われてしまった“クルマを動かす”愉しさが、ブワッとあふれ出してくる。116psのパワーは必要にして十分であり、200Nmのトルクは全域で柔軟である。 日本車にない素朴で力強い価値観があるup! GTIには速度官能式のEPS(電動パワステ)や、可変式ダンパーといった豪華装備は付いていない。それでもこれだけのしっかりとした動力性能としなやかさな足さばきを両立できているのは、まずup!そのものの車体にしっかりとお金が掛けられているから。そしてGTIとしてのスパイス、塩こしょうのさじ加減が抜群だからだ。 総じてup! GTIは、ドイツで食べる赤身肉のようなコンパクトカー。箸で切れ、口の中でとろけるような“サシ”は入っていないけれど、かみしめるほどに味が出る、素朴で力強い走りが何よりの魅力だ。 もしあなたが自動車に移動の手段以上の何かを感じたいと思っているのなら、やっぱり一度はこうした輸入車とのひと時を経験して欲しい。我々では持ち得ない価値観によって作られたクルマ。これを日本という環境で乗りこなすことは、もしかしたら現地の人々よりも幸せなことなのかもしれない。 スペック【 up! GTI 】 |
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