ゴムの剛性を高めてウエットに効く溝の体積を拡大したミシュランのプレミアムコンフォートラインを担うプライマシーが「3」から「4」へと世代交代を果たした。 ミシュランといえば常に一歩先行く先進性(時には進みすぎることもあるが)をタイヤに込めるのが特徴だが、まさしく今回の「プライマシー4」も、これからの未来を見据えた高性能なタイヤだった。 そんなプライマシー4が今回狙いを定めたのは、タイヤの基本性能である「ウェット性能」の向上と、来るべきEV社会に対する対応のふたつ。栃木県にあるGKNドライブラインジャパン プルービンググラウンドで試乗したので、早速みなさんにお伝えしよう。 まずウェット性能の向上において、改良の主軸となったのは排水性の向上だ。具体的にはトレッド面に走る主溝の体積をプライマシー3比で約22%も増やした。 これをわかりやすく説明すると、タイヤを縦断面で見たとき「3」までの主溝は山型というか台形だったのが、「4」ではこれがスクエアに近い形状となったのである。 なぜ台形の形状だったのかといえばトレッド剛性を保つためだ。タイヤは溝によって路面の水を排出できる代わりに、ゴムの倒れ込みを誘発してしまう。プライマシー3は主溝の断面を台形にデザインすることで、ブロックの剛性不足を補っていたのである。 ただこの主溝形状だと、タイヤが減るほどに溝体積が小さくなってしまう。年々要求が高まるウェット制動性能を上げるために溝体積は増やしたいけれど、タイヤの剛性は落としたくない。 エンジニア氏によると、この難題をクリアしたのは新開発のコンパウンド技術なのだという。ケース等の構造部分は適正化という意味でのアジャストを施しながらも基本的にはプライマシー3を踏襲。つまり溝体積の確保に必要な剛性を、プライマシー4はゴムで得たのである。 この剛性向上はきっと「低燃費性能」にも効いているはず(16サイズが低転がり抵抗等級「AA」を獲得)。さらに、この新コンパウンドは、ゴムそのものの性能としてもウェット路面での密着性を高めている(19サイズがウェットグリップ等級「a」を取得)。 新・旧コンパウンドは磨耗時に大きな差が付いた当日は共にウェット路面での直線制動とハンドリングコースで「プライマシー4」を体験した。 直線制動では「トヨタ クラウン(アスリートHV)」と「VWゴルフ(1.2TSI コンフォートライン)」の2台を使い、「3」と「4」の制動距離を比較。 ここでまず面白かったのは、新品時における制動距離の差がほぼないことだった。我々がテストする場合、ブレーキングポイントからABSが瞬時に働くまで一気にペダル踏力を高められるため、プライマシー4の方がわずかに制動距離が短かったが、それも誤差範囲内という感じ。プライマシー3も、新品時の性能はかなり高い。 参考までにミシュランの公式発表データではプライマシー3との比較で約4.5%短く止まる。プライマシー3が30mかかるところを、4では28.65mで止まれることになる。 そして予想通りというか摩耗時(残溝2mm)の状態では、その差が軽自動車1台分にも及んだ。ちなみに乗車定員はインストラクターと筆者の大人2名のみだったから、フル乗車+荷物といったシチュエーションを想定すると、その距離はもっと伸びることになる。ミシュランの社内データだと、約13.3%の向上となっている。 制動Gは、プライマシー4の方が素早く立ち上がる。逆にいうと3はタイヤ全体をたわませて、穏やかに路面をホールドする感覚が強かった。アタマの中では「3」の方が、ゴムの質量が多くシッカリ感が強いだろうと思っていたのだが、実際は逆である。つまりそれだけ、新開発コンパウンドの剛性が高いのだろう。ブレーキを踏み込んだ瞬間のハイドロプレーン領域も極めて少なく、グーン! と制動Gを立ち上げて短く止まったのである。 ハンドリングコースにおいても、この特性は確実に反映されていた。道幅が狭く、曲がり込んだカーブでもクラウンはアンダーステアでコースアウトすることもなく、敢えてのラフな操作でもトラクションコントロールが点滅するような場面がなかった。 初期操舵において若干ダルな反応を示す部分もあるが、これはエンジニア氏に言わせると“味付け”の部分になるらしい。一般的なドライバーはウェット路面で鋭いレスポンスを与えすぎてしまうと、「曲がり過ぎて怖い」と感じる場合がある。これ以上を望むのであれば「パイロットスポーツ」を選んで欲しい、というのが彼らの言い分であった。 第一印象は強烈。コンフォートタイヤの新基準か?プライマシー4でさらに唸らされたのは、もうひとつの性能である「静粛性・快適性」だった。ふたつのバンク(上限80km/hと100km/h)を含む高速周回路では、ちょっとした“新食感”ならぬ“新触感”を味わったのである。 ドライ路面でのプライマシー4は驚くほどに静かだ。そしてバンクやパイロンスラロームで高い荷重がタイヤに入力されても、クラウンの巨体をスマートに支えきってしまう。 通常これだけのしなやかさを乗り心地とステアフィールに感じる場合、もっとタイヤはたわむのだが、プライマシー4は変形が少なく、筆者の経験則に照らし合わせると、これがちょっとした違和感に思えてしまうほどなのである。もちろん、一般的にタイヤは、過度に変形しない方が安心感が高いし、当然静かな方がいい。 バンクでタイヤに荷重が掛かり、これを転舵したときの、ぺったりと張り付くようなコンタクトフィールは恐ろしく上質だ。ウェット旋回のときよりもさらに明確なグリップ感は、確かに過敏過ぎず切り込み過ぎずちょうどよい。あまりに理想的すぎるそのハンドリングにボクは、キツネにつままれたような気持ちになった。もちろん今回はテストコースという限定されたエリアでの試乗だから、さらに路面状況のデコボコとした厳しい状況で、どうなるかは未知数なのだけれど。 プライマシー4が3に比べ静粛性を大きく高めた理由は、どの接地面においても溝面積の総和量が等しくなるように設計されたからだという。パターンノイズは路面にタイヤを打ち付けたとき、ブロック内の空気が圧縮されて溝の壁面にぶつかることで発生する。プライマシー4はどこでタイヤを押しつけても空気の逃げ場があり、炸裂音が抑制されるというのだ(パターンノイズは6%減少)。 もちろんコンパウンド自体にも減衰性があり、ロードノイズも上手に抑え込まれていた。 これだけの性能があれば、エンジンノイズが少なく、バッテリーによる重量増加が見込まれるEVでも、その車体をシッカリ支え、静かに走らせることができそうである。 プレミアムコンフォートタイヤの場合、静粛性など快適性に準じる性能を求めるあまり、安全に関わる肝心な性能を犠牲にしてしまうことが多い。しかしプライマシー4は、あくまでタイヤにとって一番必要な安全性を高めた上で、コンフォートライドを求めている。 またその快適性能は、静粛性だけでなくタイヤ全体の乗りやすさによって得られている。これがプレミアムコンフォートタイヤの基準になってしまうと、ちょっとばかりライバルもやっかいだろう。そんな要らぬ心配をしてしまうほど、プライマシー4の第一印象は強烈だった。 スペック====== |
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