ヴァンテージのポジションはピュアスポーツ2014年にアンディ・パーマーCEO体制となって以来、まさに破竹の勢いを見せているアストンマーティンは、今後SUVを含む数多くのニューモデルを投入していくと宣言している。とは言え、核となるのはもちろんスポーツカー。そのラインナップについては、同じような内容で同じように見える大中小を揃えるのではなく、各モデルのキャラクターをより明確に分けていくという方針だ。 先に登場したDB11は、オーセンティックなGT。デザインも走りも大きく飛躍したが、ポジショニングとしては従来とほぼ同様の、アストンマーティンの王道路線と言っていい。では新型ヴァンテージは、どこを目指したのか。狙いはずばり、ピュアスポーツである。 あれこれ説明するまでもなく、そのデザインを見ればコンセプトは一目瞭然だろう。美しいクーペフォルムは紛れもないアストンマーティンのそれ。涼しげな目元などには、ボンドカー“DB10”の面影もある。しかしながらオーバーハングが切り詰められ、ワイド化されたボディの四隅に大径タイヤが収められたプロポーションは見るからにアスリート。そこに、いかにも多くの空気を導き入れそうな、伝統を再解釈した大型フロントグリル、ホイールハウス内の空気を効果的に排出するためのサイドのエラのような凹み、更には巨大なリアディフューザーといったディテールが組み合わされて、全身でスポーツ性が表現されている。 AMG製4.0L V8ターボ搭載。E-デフを初採用DB11が初出の新しいアルミ接着構造を採用するボディは、全長4465×全幅1942×全高1273mm。先代よりは大きくなったが、2+2のDB11との比較ではまだ250mm以上短い。そのフードの下に収まるエンジンはV型8気筒4.0Lツインターボで、最高出力は510hp、最大トルクは685Nmを発生する。ご存じの通りメルセデスAMG製のこのエンジン、搭載位置を可能な限り低くするべく専用の薄型ウェットサンプを採用したという。 DB11と同様の8速トルコンATは、トランスアクスルレイアウトとされる。トピックはロック率を0~100%まで自在に可変できるE-デフ(電子制御ディファレンシャル)の搭載である。これはアストンマーティン初の採用だ。尚、車両特性エンジニアリング部門責任者のマット・ベッカー氏によれば、少ないながらも確実にニーズのあるマニュアルギアボックスも2019年には用意する予定とのことだった。ギア段数は7速。但し、こちらはE-デフではなく機械式LSDとの組み合わせになるという。 快適性と標準ブレーキの初期タッチの甘さは要改善室内に乗り込むと、シートポジションの低さにまず驚かされる。レイアウトも、たとえばボタン式のギアセレクターの配列など、これまでのアストンマーティンの文法にはないスポーティさ、遊び心を感じさせるものになっている。異形のスポーツステアリングホイールの背後に備わるシフトパドルは大型で、舵角が当たった状態でも操作しやすい。この辺りにも、走り重視の姿勢が表れている。 但し、グローブボックスもアームレスト部分の収納も備わらず、収納は浅いドアポケットくらいしか無い。今どき小銭入れを置くようなことはないにせよ、使い勝手には不満を感じた。とは言え、ブリーフケースやハンドバッグなどはシートの背後に置いておけるし、大きなテールゲートの下のラゲッジスペースも仕切り板を倒せばゴルフバッグ2セットを飲み込むから、積載力自体は十分と言っていいだろう。 サスペンションは硬過ぎず、路面がフラットなら乗り心地は悪くない。ステアリングの中立位置での据わりの良さ、微小な舵角から正確なレスポンスも嬉しい。エンジンも低回転域からトルクがあり、クルージングは余裕たっぷりだ。しかしながらロードノイズは大きいし、路面の継ぎ目やうねりを通過する際には鋭角な突き上げもある。1人でしか乗らないならまだしも、違ったシチュエーションも考慮するなら快適性はもう少し引き上げたい。また、リズムを阻害する標準のブレーキの初期タッチの甘さも要改善と言える。 痛快なサーキットの走り。長時間走行時のAT性能が課題しかしながらサーキットでの走りは、そうした些細な欠点のことなど忘れさせる痛快なものだった。タイヤは標準のピレリP ZEROのまま、カーボンブレーキと4本出しエギゾーストを装着した車両に乗り込み、電動パワーステアリング、エンジンとATのマッピングとダンパー減衰力が切り替わるSPORT/SPORT+/TRACKの3つの走行モードから、路面の悪さを考慮してSPORT+を選ぶ。更にESP SPORTモードにセットして、いよいよ走り出す。 トルクの分厚いエンジンと8速ATの組み合わせは、どこから踏んでもタイムラグ無く加速態勢に入れる好レスポンスを実現している。高回転域まで回してもさほど活気づくわけではないし、切れ味もそれなりで、メルセデスAMGの各車とずいぶん印象が異なるが、675Nmもの大トルクを後輪だけで受け止め、繊細にコントロールさせようとすれば本来こうなるだろうというのは理解できる。 惜しいのは、長時間の走行で熱を持ってくるとATの変速時間が長くなり、シフトアップ時など空走感が出ることもあること。そうなる前は、変速時間もダイレクト感も申し分無いだけに、余計に気になる。 素晴らしいハンドリング。新世代シャシーとEデフも効いているそして何より圧倒されたのが、素晴らしいハンドリングだ。低速コーナーではノーズが素直にインに向き、それと同時にリアが欲しい分だけ回り込んでくる。そしていいタイミングでアクセルを入れていくと、すぐにステアリングを中立付近まで戻しながらニュートラルステアで立ち上がれるし、望むなら大胆に踏み込んで軽いカウンターステアが当たる領域まで持ち込むのも容易。いずれにしても掌や腰に挙動が饒舌に伝わってくるし、クルマの動きも落ちついているから、どうなってもコントロールできるという気にさせるのだ。 それでいて高速コーナーはしっかり安定している。この辺り、やはりE-デフの効果は相当大きそうだが、それも基本となる新世代のシャシー自体の実力の高さがあってこそのことだろう。初出のDB11 V12以降、同V8、そしてヴォランテと新しいモデルが出るごとに走りが洗練されていくのを感じていたが、遂にその本領がフルに発揮されてきたようだ。 時間切れでESP OFFは試せなかったのだが、動きの方向性は大筋では変わらないはず。一方、ESP ONではリアの落ち着きが増して、安心して走ることができた。この辺りの電子制御系も調教は行き届いている。カーボンブレーキの優れたタッチが何周走っても維持され続け、コルサではないP ZEROが高いグリップ力とコントロール性を失うことが無かったのも、大いに満足させてくれた。 新型ヴァンテージは紛れもないピュアスポーツ。許されるなら1日ずっとサーキットを走っていたかったし、きっとクルマもそれに十分応えてくれたはずだ。もちろん、普段使いにもデートも難なくこなすだろうが、もし手に入れたなら時には全開で走らせてやらないともったいない。きっと多くの人の期待と想像を超える、走りの世界がそこにはある。 スペック【 アストンマーティン ヴァンテージ 】 |
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