全高低めのスタイリッシュなデザインご存じの方も多いだろうけれど、いわゆる「Cセグメント」というのはフォルクスワーゲン・ゴルフやルノー・メガーヌ、日本車だったらトヨタ・プリウスなどが属する、乗用車のボリュームゾーン。自動車メーカー各社がエース級を投入する激戦区であるけれど、ちょっとした異変が起きている。他のセグメントと同様に、ここでもSUVが幅を利かせるようになっているのだ。 具体的に数字を見てみよう。日本における輸入車のCセグメントSUVの年間販売台数は、2012年には1万5000台程度だった。それが5年後の2017年には2万5000台に届かんとしている。日本だけでなく、これは世界的な傾向でもあるから、この新たな“金脈”を掘り起こすために各社は魅力的なモデルを投入している。そのうちの1台が、ここで紹介するルノー・カジャーである。群雄割拠のCセグSUVにあってカジャーならではの魅力はどこにあるのか。 カジャーと対面してまず感じるのは、デザインが精悍かつスタイリッシュだということだ。その理由は、現行ルーテシアから採り入れているシャープなフロントマスクを継承していることがひとつ。そしてもうひとつ、全高が1610mmとライバルより低く、これがクーペ的な雰囲気を醸しているのだ。ちなみにサイズ的にも価格的にも直接のライバルとなるフォルクスワーゲン・ティグアンは1675mm、プジョー3008は1630mmである。 インテリアはシンプルにまとまっている。好ましいと思うのは、「高価に見せよう」というスケベ心を感じさせないところ。あくまで操作性、視認性を第一に、すっきりとしたデザインにまとめている。最小限の色使いなのにさびしい感じがしないのは、素材や造形を吟味しているからだろう。 インテリアをシンプルにできたのは、テクノロジーのおかげでもある。ルノーが“R-Link 2”と呼ぶ、タッチスクリーンでマルチメディアや運転支援システムを操作できるインターフェイスは、パネルに触れることで直感的に操作できる。だから、ごちゃごちゃとスイッチやダイヤルを付けなくてもいいのだ。 “ツキ”がいい1.2L 直4ターボ。7段ATの完成度も高いちょっと生意気でロー&ワイドに見えるフロントマスクの影響か、カジャーは実際のサイズよりも少し車格が上に見える。だからパワートレーンが直列4気筒1.2L直噴ターボエンジンと7段ATの組み合わせと知って、力不足ではないかと懸念した。けれどもそれは杞憂に終わった。 赤信号のゼロ発進からでも、カジャーはすっと気持ち良く前に出る。力があり余っているとは言わないまでも、必要にして十分。しかもただ加速するだけでなく、エンジン回転数が低い領域でもアクセルペダルの操作に対して、瞬時に「グンッ」とトルク感を感じる。いわゆる、“ツキ”がいいエンジンだ。ルノー・ジャポンによれば、この1.2Lの直4は基本的にルーテシアに搭載されるものと共通であるけれど、SUVであるカジャーに搭載するにあたってセッティングを見直しているという。 低回転域でのツキのよさは、車速が上がるとさらに強調される。また、エンジン回転数を上げても静かで振動が少ないことも特徴。さすがに排気量が1.2Lだけに、望んだ加速を手に入れるにはそこそこエンジンを回す必要があるけれど、そこで音が高まってイヤになったり、振動を感じてげんなりすることもない。正直、バカッ速いパワーや快音で乗り手を鼓舞するエンジンではない。けれどもその素直で扱いやすい特性は、長距離、長時間にわたって付き合えるタイプのものだ。 扱いやすいエンジンだと感じる理由のひとつに、2組のクラッチを持つツインクラッチ式の7段ATがあることは間違いない。変速は迅速かつスムーズ、切れ味が鋭いのにショックは伝えないあたり、完成度は高い。 高速走行時のフラット感、コーナーでの敏捷な動きが印象的ライバルと明確に差別化するルノー・カジャーの特徴は、デザインと並んで操縦性だと感じた。まず街中を走る程度のスピードだと、ビシッと引き締まった乗り心地だ。ボディがしっかりしているから不快な振動は感じないものの、路面の凸凹や不整を突破すると、それなりのショックが伝わってくる。このしっかり感は、高速道路に入ると安心感、安定感に変わる。速度を上げるにつれてボディはフラットさを増すから、ドライバーはリラックスしてステアリングホイールを握ることができる。 タウンスピードで感じたある種の硬さと、高速走行時のフラット感を比べると、ちょろちょろ街中を走ることよりも、はるか遠くを目指してビューンと駆け抜けることを意識したセッティングだと言えるだろう。あるいはフル荷重、つまり人も荷物を満載した状態で乗ると、街中でもちょうどよく感じるセッティングだという可能性もある。 ライバルと比べてもうひとつ違うのは、コーナーでの敏捷な身のこなしだ。ステアリングホイールを切ると、スッとノーズが向きを変えて、グラッと傾いたりステアリング操作に遅れることなく、きれいなフォームでコーナーをクリアする。ワインディングロードではSUVであることを忘れさせる爽快感を味わわせてくれる。 速度域を問わずに好ましいのは、ステアリングホイールの手応えがすばらしいことだ。タイヤがどの方向を向いていて、どれくらいの力がかかっているか、路面はどんなコンディションか、といったさまざまな情報が伝わってくる。ステアリングフィールやシートなど、実際に身体がふれる部分の感触がいいことは、代々受け継がれるルノーの美点だろう。 左脳ではなく右脳で選ぶクルマ後席や荷室の広さは充分に確保されている。後席には大人ふたりがきちんと座れる頭上空間とレッグスペースが確保されているし、荷室に備わるレバーで後席を倒してラゲッジスペースを広げる機構も使い勝手がいい。ルノーがADASと呼ぶ運転支援システムも、車線からはみ出したことを警報する仕組みや自動ブレーキ、駐車を自動ステアリング操作でサポートする機能などを一通り備えている。 そういった意味で機能面に「足りないモノはない」けれど、カジャーはそうしたスペックを注視して、「荷室80点、自動ブレーキ82点」といった具合に論理的に点数を計算して選ぶクルマではないと感じた。それよりも、「ボディカラーの赤がステキ」とか、「旅に出たくなる」とか、あるいは「コーナリングが気持ちいい」といったように、感覚で選ぶクルマだ。 現行ルーテシアが登場した時にルノーは、「サイクル・オブ・ライフ」という新しいデザイン戦略を打ち出した。これはクルマをスペックで線引きするものではなく、ユーザーの人生ステージに寄り添うようなクルマを提案するというもの。たとえばルーテシアであれば、テーマは「LOVE」。愛を育み、人生を共有する“きっかけ”の時間にふさわしいクルマというものだ。そしてカジャーのテーマは、「人生に、アクティブヴァカンスを」だ。 日常とは違う場所に出かけるのにふさわしいワクワクするデザイン、ただの移動ではなくクルマを運転するという行為を楽しませてくれる操縦性など、カジャーはヴァカンスに出たくなるようなクルマに仕上がっているというのが結論だ。ライバルとの最大の違いは、左脳ではなく右脳で選ぶクルマだというところだろう。 スペック【 カジャー インテンス 】 |
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