フワフワと宙を浮いているような独特なライド感もう一度こんな気持ちを味わえるなんて、思ってもみなかった。まるでゴムまりにでも乗ったかのように弾む乗り心地と、それにつられて弾む心。敢えて細身に設えた排気管から“ブカァ~!”とはき出される、心地よいエキゾーストノート。おもちゃのように軽いクラッチを切って、ストロークの短い5速マニュアルのシフトをゴクッと次のギアに入れ、またそれをつないで走り出す。マツダの手によってレストアされた初代“ユーノス”ロードスターは、まさにロードスターの原点といえる走りを、約30年の時を越えて見事に再現してくれたのであった。 このクラシカルな乗り味には、ベースとなるモデルがVスペシャルだったことも大きく影響しているのだろうと思う。NBロードスターよりもさらにソフトな足回りは常にフワフワと宙を浮いているような独特なライド感を持っていて、オープンエアを交えて味わうと、たとえ時速40km/hで走っていても極上に気持ちが良い。 そしてカーブで細身な“NARDI”のウッドステアリングを操ると、ハンドルを切った通りにスーッと曲がり、アクセルを踏めば軽やかにブーン♪ と走って行く。その操縦感覚は驚くほど、そして思わず頬がほころぶほど、クラシカルな味わいであった。 愉しさの本質を捉えていることに気づく厳密に言えばロードスターが模範とした70年代のスポーツカーたちにはパワーステアリングなどなかったし、燃料供給だってインジェクションではなくキャブレターだった。言ってみればNAロードスターが織りなすクラシックテイストは“雰囲気”だけを楽しむお手軽な模倣で、このクルマがデビューした89年当時、まだ若かったクルマ好きのボクにはこうしたチック・チューンが許せなかった記憶がある。 だからNAロードスターをより本格的にカフェ・レーサーへと仕立てた「M2 1002」などには本気で憧れたものだったが、当時最も安いグレードで170万円だったロードスターが、まさに倍近い300万円(しかも300台限定)という価格に設定されていたこともあり、それは正に夢のまた夢的な存在だったなぁ……なんて、当時の記憶が一気にあふれ出して来た。 だが可笑しかったのは、当時そんな“クラシックの模倣品”であったNAロードスターが、今乗るとすっかり本物のクラシックになってしまっていることだった。それは単なる古いスポーツカーになってしまったという意味ではない。むしろ現代のクルマに慣れ親しんだ体で改めてNAロードスターに乗ると、これがクルマの愉しさの本質を捉えていることに気づくのだ。 その味わいは庶民のロータス・エランか高性能なMG-Bかボディ剛性などは決して高くはない。しかし最初からオープンを前提に作られたボディは、確実に要所要所の剛性を確保していることにまず感心する。そしてこのボディを不必要にねじれさせないために、サスペンションにはバギーのごとく高い車高と、たっぷりとストロークが与えられているのだと、頭だけでなく体で納得させられる。 つまりこの約束事さえしっかり守ってやれば、NAロードスターは現代の路上でも極めて忠実にドライバーの意思を反映させて、軽快な足さばきでコーナーをクリアしてくれる。短いアーム長ながらもダブルウィッシュボーンを奢ったその足回りはタイヤの接地性変化を可能な限り穏やかに抑え、うまく操れば鋭い回頭性さえ示してくれる。 最初期型ではたったの120psしかないエンジン出力も、1トンを切る車重の前では必要にして十分(最も軽量なベースモデルで940kg。スペシャルパッケージでも950kgだった)。ファミリアのエンジンを流用した1.6リッターのB6ユニットは、高回転ではサージングを起こしながらも、7000rpm付近まで頑張って回ってくれる(レブリミットは7200rpm)。その味わいは庶民のロータス・エラン、はたまた高性能なMG-Bというべき愉しさである。 もし純度の高い初期型テイストを手に入れたいなら…87年にAE86が現役を退いて以降、新車で買える安価で軽量なFRスポーツカーは世界中を見渡してもこのNAロードスターしかなかった。そしてバブル経済の残り香にも支えられて、ボクたちはこれを手に入れ、あらゆるクルマの基本と本質を、ここから学んだ。そんな思い出がどんどんと甦ってくる。 ただそんな風に美しきタイムスリップを経験させてくれた初代ユーノス・ロードスターも、この味わいを再現するためにマツダがかなりのコストを掛けてレストアした一台だということは忘れてはならない。もしアナタがこの純度の高い初期型テイストを手に入れようとするなら、よほどの知識と整備技術をもってそれを節約しない限りは、NDロードスターを新車もしくは中古車で手に入れる方が遙かに安上がりであるとボクは予想する。 さらに言えば、当然ながらそうしてまで手に入れた初期型ロードスターは、あくまで初期型ロードスターである。だからそうまでして得た性能が、コストに見合うかといえばそれはない、と断言できる。なぜならかくいうボクも、古いハチロクを未だに乗り続けている数寄者だから、わかるのだ。それを承知で、敢えてオールドスクールの道へと踏み込むなら、アナタは立派なエンスージアストでありマニア。少なくともそれになれる資質があると言えるだろう。 だが健全な自動車趣味としてこれを捉えるならば(笑)、やはり30年も前のクルマを買うのではなく、現行車を買う方が賢明だ。奇しくも現行NDロードスターは原点回帰し、その味わいにNA時代のテイストを復活させてくれている。特に今回マイナーチェンジを果たしたNDロードスターは、マニアをも納得させるだけの境地に至ったとボクは思っている。 スペック【 ユーノス・ロードスター Vスペシャル 】 |
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