RRレイアウトを採用するスマートの兄弟車現在のルノーで最小のモデル「トゥインゴ」。その現行型はトゥインゴの3代目に当たるが、これは現代の小型車としてはかなり変わったクルマだ。そう、多くの読者がご存知のように、今日の小型実用車のほとんどすべてがフロントエンジン前輪駆動、通称FFであるのに対して、現行トゥインゴはリアエンジン後輪駆動、いわゆるRRを採用している。 リアエンジン=RRといえば、今日では「ポルシェ911」の専売特許のようになっているが、実は第二次大戦直後から1960年代半ばに掛けては、小型実用車の多くがRRを採用していた。その先鞭をつけたのは戦前に設計されたVWビートルだったが、それに続いたのが1946年に発表された、ルノーの「4CV」というクルマなのだった。 ところが1959年、イギリスから「ミニ」が出現したことによって小型車の主流はフロントエンジン前輪駆動=FFに替わり、今日に至っているわけだ。RRもFFもパワーユニットと駆動系を一カ所にまとめているためスペース効率が高いのが長所だが、高速での直進安定性に関しては基本的にFFに分がある。 ということもあって、一般道でも100km/h前後、高速道路ではそれ以上でクルージングするのが一般的なヨーロッパでは、FFが小型実用車の定番になったわけだが、そこに反旗を翻すように2014年に登場したのが、3代目トゥインゴと2代目「スマート forfour」の仏独兄弟車だった。仏独協業とはいえ、その開発に最初に着手したのはルノーだという。 軽自動車を除けば世界最小クラスの5ドアルノーにとって3代目トゥインゴの開発コンセプトは、パリに代表される大都市での使用を意識した、コンパクトなシティカーへの回帰だったと思われる。 結果、ボディサイズは2代目と比べて全長が100mm短縮され、日本の軽自動車を除けば世界でも最小クラスの5ドアモデルとして登場。しかもRRはFFより前輪の舵角が大きくとれるから、これも日本の軽自動車クラスの、4.3mという最小回転半径を実現している。 ところが最近、その3代目トゥインゴに「GT」なるモデルが登場した。もともとシティカーとして生み出されたはずのトゥインゴにGT=グラントゥーリズモとは、なにやら矛盾する気がしないでもないが、いずれにせよ高性能版には大いに興味があるので、試乗会に馳せ参じた。 ハイチューンエンジンとスポーツサスを装備「トゥインゴGT」とはいかなるクルマか。まずエンジンは日本仕様主力モデルのものと基本は同じ排気量0.9L、正確には897ccの3気筒ターボで、パワーは標準モデルより19ps、トルクは35Nm引き上げられて、109ps/5750rpmと170Nm/2000rpmを発生する。 トランスミッションは標準モデルにも採用されている6段デュアルクラッチ2ペダルのEDCの他に、3ペダルの5段MTも用意されている。車重は前者が1040kg、後者が1010kgで、0-100km/h加速は10.45秒および9.65秒と、ポルシェのPDKなんかと違って、MTの方が速い。 一方、シャシーにはルノースポール=RSの手が入っている。フロントがストラット、リアがド・ディオンアクスルのサスペンションは、スプリングとダンパーを40%ほど固め、スタビライザーも大径化、ステアリングもバリアブルレシオとされている。さらにESPも介入のレベルを下げて、ドライバーによる操縦の自由度を高めているという。 その上でホイールを17インチに大径化し、フロントに185/45R17、リアに205/40R17のヨコハマを履く。コンパクトなボディからはみ出さんばかりに装着された17インチの45/40扁平タイヤは、その存在感がかなり目につく。 スポーツモデルだがMTでも回転計の設定は無しさて、まずはMT仕様のコクピットに収まって都内、芝公園から首都高に乗り、台場を目指す。右ハンドルのドライバーズシート、着座位置はやや高めで、ペダル類も中央寄りにオフセットしているが、ま、凄く気になるというほどではない。金属製の重量感のあるシフトノブを握ってギアを1速に送り、走り出す。 クラッチは軽い部類だが、ミートポイントがちょっと掴みにくい印象で、初めての発進には気を遣った。が、0.9L 3気筒ターボは極低回転でもそこそこトルクがあるようで、ほとんど回転を上げずにクラッチを繋いでも、ギクシャクすることなく走り出した。それにこのエンジン、標準型よりちょっと野太いサウンドを奏でる。 1速で適当に引っ張って、トルクカーブが下降し始めたところで2速にシフトアップ、すると再びターボのトルクに乗った加速が開始される。それって何回転くらいの話、と聞かれても、実は答えようがない。トゥインゴGT、れっきとしたスポーツモデルなのに、タコメーターが備わっていないのだ! タコメーターはオプションでも用意されていないが、オプションのアルパイン製インダッシュナビを装着しなければ、Bluetoothと専用アプリを使ってスマホに回転計表示が出せるとのこと。とはいえ、ナビも装着したいというタコメーター派は、社外品の電気式タコを手に入れて結線し、ダッシュのどこかに装着するしかなかろう。 というわけで、その割り切りぶりにはちょっと驚くけれど、5段MTのシフト自体は、小さいクルマは手漕ぎで走らせたいというマニュアル派を、落胆させることはないはずだ。ややゴロゴロした感触がつきまとうものの、作動は確実でギアの入りはよく、ゲートもはっきりしているからだ。 デュアルクラッチのEDCとの相性も良好その一方、EDC=エフィシェントデュアルクラッチと名づけられた2ペダルシステムも、トゥインゴGTと相性のいい組み合わせに思えた。クラッチペダルがないので当然だが、発進はすこぶるイージーなのに加えて、Dレンジにおける自動的なシフトのアップダウンが適切で、常に望むだけの追い越し加速がタイミングよく手に入る。 しかもEDC、基本は自動変速だから、タコメーターがないこともMTの場合ほど気にならない。もちろんマニュアルモードもあって、それを駆使して引っ張り上げる場合はタコメーターが欲しくなるけれど、シフトパドルが備わっていないので、マニュアルモードはさほど頻繁に使いそうもないからだ。 そんなわけで、マニュアル派がMT仕様を選ぶことにまったく異論はないが、トゥインゴGT、意外や2ペダルのEDCと相性がいいと実感した次第。前記のように、0-100km/h加速のデータではMTの方が0.8秒速いが、実際に走った感触では、EDCが遅いという印象は特に感じられなかった。 走りは軽快というより安定志向のキャラクターでは、リアエンジン配置とルノースポール設定のシャシーがもたらす乗り心地とハンドリングはどうか。乗り心地は標準型より硬めだが、充分許容の範囲にあるという印象。ハンドリングはというと、実用車として当然ながら、基本的なキャラクターは安定志向に躾けられていて、ステアリングレスポンスは適度にクイックではあるものの、身のこなしはヒラリヒラリといった軽い感触とはちょっと違う。 まず直進性について書くと、都内が舞台の試乗会だったためあくまで首都高で経験できる範囲のスピードレベルでの話だが、例えばレインボーブリッジを渡るといった横風の影響をうけ易い場所でも、直進に不安を感じるようなことはなかった。 コーナリングについても、同じく首都高での経験に話を限れば、充分なサイズのタイヤを奢られていることも効いて、適度なアンダーステアに躾けられた安定志向を感じた。それだけに、山間のワインディングロードに持ち込んで限界近くまで攻めた場合、どんな挙動を見せてドライバーを愉しませてくれるのか、興味深いところではある。 ブレーキはフロントがベンチレーテッドディスク、リアがドラムという組み合わせだが、カッチリとしたペダルフィールで、安心感のある効きを披露してくれた。 他車比較より“好きなら買い”の唯我独尊スモールさてこの、本来はシティラナバウトなのにグランドツアラーという欲張った車名を与えられたトゥインゴGTを、どう評価するべきか。あらためてプライスを見てみると、MT仕様が229万円、EDC仕様が239万円と、ボディサイズのわりにけっこうイイ数字を出している。正直、安くはないぜ、という印象である。 が、しかし、そのプライスを考慮したうえで、スポーティ系の直接のライバルがいるかというと、意外や見当たらない。同じフランス車だと「DS3」は200万円台後半から始まるし、イタリア車では「フィアット500」ベースのアバルトというと、安いモデルでも300万円前後する。逆に100万円台からあるフォルクスワーゲンの「up!」には、スポーツモデルがない。日本車まで範囲を広げるとスズキの「スイフトスポーツ」が登場してくるが、これは高いモデルでも190万円台だから、さすがにこれと比べると分が悪い。 というわけでトゥインゴGT、やはり他車との比較ではなく、このクルマそのものを気に入るかどうかで判断するべき、唯我独尊のモデルではないだろうか。リアエンジンのもたらす美点も多々ある一方で、それゆえの弱点もあるけれど、好き者にはそれでも欲しいと思わせる何かを持った、ユニークなスモールカーだと思う。 スペック【 ルノー トゥインゴ GT 】 |
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