スペーシアらしさをアピールできるか「21万8478台」VS「10万4763台」。この数字、前者が軽自動車で3年連続どころか登録車を含む2017年の新車販売台数でNo.1となったホンダ N-BOXのもの。一方後者は軽自動車カテゴリで第6位であったスズキ スペーシア。今回の“お題”となるクルマである。 2017年9月に発売後、約1ヶ月で目標台数の約3.5倍以上の受注が入ったN-BOXと、モデル末期のタイミングであったスペーシアを比較するのは酷というものなのかもしれないが、それでもスペーシアも前年累計比で128.9%としっかり結果を残している。 実はこの結果には2016年12月に追加設定された「スペーシアカスタムZ」の存在が大きい。ビジネスとしてはまずまずの成功を収めていたスペーシアだが、それでもいわゆる“カスタム系”は同カテゴリーのN-BOXやダイハツ・タントに比べると商品力としてはやや弱かった。それを補填する形で導入したモデルがカスタムZである。実際ディーラーに行ってセールスマンに話を聞いても「モデル末期はほぼZの指名買い」という声もあり、外観デザインの変更でもこれだけ売れる、という実績も上げたし、今回フルモデルチェンジするスペーシア、特にカスタムモデルへの自信に繋がっていたはずである。 それでも前述したN-BOXとタントのいわゆる“二強”に対抗するのは容易ではない。記者発表会でも鈴木社長が「チャレンジャーである」といった趣旨の発言をしていたが、そもそもN-BOXの真似をする必要はないわけで、スペーシアらしさをしっかり具現化しアピールできれば消費者には十分ミートするはずである。 生活者視点の小技が上手い寸法に上限のある軽自動車ゆえに、どのメーカーも知恵と技術を使って室内空間の快適性や使い勝手、そして走りなどを向上させようとしていることに今更説明の必要はないだろう。で、新型スペーシアだが、すでに全長と全幅はサイズの上限、やれることは全高のみということになる。ダイハツ タントが作り上げたスーパーハイトワゴンの市場であるが、ここで存在感を示すためにも全高を旧型より一気に50mmも高くした(標準モデルのルーフレール装着車は+65mm)。 当然のことながら乗車時に影響する室内高も拡大し、この時点で販売されている軽乗用車トップクラスでウェイクに次ぐ1410mmとなる。ちなみにライバル車であるN-BOXは1400mm、チーフエンジニアの鈴木猛介氏によれば「27インチの自転車をスムーズに積載するためには荷室側からワンタッチで倒せるダブルフォールディング式のリアシートとこの寸法が必要だった」という。たかが10mmなのだが、そこにはミリ単位での設計がより高く要求される軽自動車ならではの苦労があるのだろう。 また荷室開口部にはその自転車の積載をスムーズに行うためのガイド(溝)を設置するなど芸が細かい。ワゴンRが新型になった時、リアドア内側にアンブレラホルダーを設置したのは見事なアイデアだと感心したが、このガイドも実際の使用時には確実に利いてくるはずだ。生活者視点というか、スズキはこういう部分の小技が本当に上手いと感心する。 街乗り中心なら標準モデルがオススメ用意された車両はスペーシア(標準モデル)の上位グレードである「ハイブリッド X」のFF車である。標準モデルには下位グレードにあたる「ハイブリッド G」があるがその価格差は13万5000円。低価格&低ランニングコストを求める軽自動車においてこの価格差だけを見ると「安いほうで十分では?」といった声が聞こえてきそうだが、実際のところ装備差は価格差以上にある。特に今回の売りのひとつである、室内の空気を循環させる「スリムサーキュレーター」はXのみに設定、Gはメーカーオプションでも装着できない。 その他にもプレミアムUVカット&IRカットガラスやロールサンシェード、運転席シートヒーター、そもそもしっかりとした着座姿勢を実現するためのシートリフターやチルトステアリングもXのみの設定である。ママの普段の足や子供を乗せて走ることを考えれば、前述した快適装備はあったほうが絶対に良いだろう。その点でもXグレードがオススメである。 またここからは個人の好みになるが、最近流行の「2トーンルーフ」やそれに連動するルーフレールもXグレードのみのオプション設定である。ちなみにボディカラーはXが14色(オプション含む)、Gが10色であることからも、標準モデルを購入するならまずXグレードを基準に考えてほしい。 搭載するパワートレーンはスズキではすっかりおなじみの「マイルドハイブリッド」。標準モデルにはターボ仕様の設定はないが、ISGと呼ばれる小型モーターとリチウムイオンバッテリーによる“飛び道具”は燃費や走りの点でもユーザーへのアピール力に優れる。特にスズキのこのシステムはアイドリングストップ時からのエンジン始動が極めてスムーズ。“ブルルン”という音と振動は非常にうまく抑えられている。後席で寝ている子供はこういう音にも敏感に反応する時がある(経験者)ことからも、この機構自体はいつも高く評価している。 またISG自体はワゴンRのフルモデルチェンジの段階でモーター出力&トルクも向上しているし、今回CVTの副変速機機構を廃止したことで軽量化にも寄与している。実際走らせてみるとストップ&ゴーの多い街中では非常に走りやすい。ただひとつ言わせてもらうと、標準装着のタイヤは低燃費狙いで空気圧が高いため、市街地にある石畳のようなシーンでは路面からの入力に対してタイヤがポンポン跳ねるような動きをする。特殊な路面状況とはいえ、やや気になる点である。 全グレード共通装備のパワーモードが使えるもう1台のスペーシアカスタムは標準モデルに設定の無いターボ仕様に試乗した。前述したように旧型の最終時期に投入したカスタムZによりユーザーの嗜好は十分組み込まれているのだろう。押し出しの強いフロントフェイス、スポーティ感はもちろんだが、いわゆるゴージャスな感じもうまく演出できている。ボディカラーは上位グレードのXS系は14色、ベーシックなGSは9色だが、XS系のみに設定される2トーンカラーは標準車と異なりルーフカラーはブラックのみとなる。 全グレードに採用される最新の軽量高剛性プラットフォームである「ハーテクト」はもちろんだが、ターボ装着、1インチサイズの大きなタイヤのおかげもあり、これだけ全高のあるボディだがロールは比較的少なめ。というか接地性はノンターボ車よりワンランク上だ。その分路面からの突き上げも少しあり全体的に硬めに感じる。またパドルシフトによる疑似多段モードを使えば自分の意志でエンジンの回転数を維持できるので、スポーティなフィーリングだけでなく下り坂道などで適切なエンジンブレーキを使うことができる。 さらに全グレード共通の装備として注目したいのが「PWR(パワー)モード」だ。ステアリング右側のスイッチを押すことでハイブリッドシステムの制御を燃費志向から走り志向に切り替えることができる。これは非常に体感が顕著で特にノンターボ車の場合、まるでプラスαの動力が加わったような加速を得ることができる。その分燃費は当然落ちるわけだが交通の流れなどに応じて使うといいだろう。 先進安全装備も充実。ただ、非装着車の設定は…先進安全装備に関しては、最新の「スズキ セーフティ サポート」に基づいた各種機能、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報、誤発進抑制機能などが搭載されている。特に今回、コンビニなどの駐車場などで有益な「後退時ブレーキサポート」を全グレードに標準装備している点は実用面から考えてもありがたい! と素直に思える機能だ。 しかし…である。全グレード標準装備と言ってはいるが、これらの先進装備を除いた「衝突被害軽減ブレーキ非装着車」がそもそも設定されていることはどうにも納得できない。その価格差5万9400円。地域にもよるかもしれないし、1円でも安く買いたい人の気持ちもわからないではない。しかし、これは自動車である。安全第一であることは誰だってわかっているはずだ。 実際、ディーラーで隣の商談が耳に入ってきた時「安全装備? そんなのいらないから安くして!」と言っている人を見たことがある。もちろんセールスも頑張って何とか装着するよう勧めてはいる。ただここまで高機能の先進装備を安く装着できるようになったのもメーカーの努力の賜物ならば、もはや本当の意味での「全グレード標準装備(非装着車設定無し)」で突き進んでほしい。一時売り上げが落ちたとしても、最後に笑うのはこういう装備を全グレードに標準装備化したメーカーであることは過去も証明している。ぜひスズキにはもうひと頑張りしてほしいと願っている。 エアコンの風を拡散できる円形ルーバーは発明レベルヨイショするつもりはないが、最後にどうしても伝えたいのが標準車&カスタム共通で設定されているエアコンルーバーである。「何だそこかよ!」というツッコミは無しである。たかがルーバー、されどルーバーである。前席中央部に設置された円形のルーバーは、ノブを回すことでエアコンの風量だけでなく、風自体を拡散させて風当たりを優しくすることができる。筆者はエアコンの風をガンガン身体に当てるほうが好みだが、女性など直接風が当たるのは嫌という人もいる。また体温低下だけでなく、実はエアコンの風を長く顔に当てていると目が乾く。 冒頭にスズキは生活者視点での小技が上手い、的なことを述べたが、これも同様でちょっとした発明レベルである。残念ながら上位グレードのみの設定となるスリムサーキュレーターとの組み合わせで、室内の環境&快適性はさらに向上するはずだ。 新型スペーシアの月販目標は1万2000台。旧型が8500台だったことを考えると強気な数字とも言える。しかしトップランナーであるN-BOXが1万5000台という数字を掲げ、実際売れている現実から見てもスペーシアの目標値も十分到達できそうである。 デザイン、使い勝手、環境&安全性能、など旧型とライバルから学んだ知見をしっかり商品として具現化した新型スペーシア。ライバルの背中はまだ遠いかもしれないが、確実に射程圏内に捉えつつある。 スペック【 スペーシア ハイブリッドX(FF) 】 【 スペーシア カスタム XSターボ(FF) 】 |
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