ノーマルから+40ps、+105Nmアップの直3ターボ搭載「いーから、乗ってみろ」 そんなジャーナリストにとっては身もフタもない言葉を思わず口走らせてしまうのが、up! GTIというクルマの魅力だ。そして理屈抜きに楽しいと感じられるのは、このクルマが乗りもの好きの心を絶妙にくすぐるからだろう。 当たり前のことだがup!がベースとなっているだけに、ボディは全長3.6mと小さい。対して車重は1070kgと意外に重たいのだが、それこそがフォルクスワーゲンの高い安全意識によるものであり(つまりそれだけボディ剛性を高めているのだ)、これをパワフルなエンジンと、引き上げられたシャシー性能が補填して、「GTI」を名乗るに相応しい動力性能を与えた、というのがその筋書きである。 実際up! GTIを運転すると、顔がほころんでしまう。オーバーハングの短いフロントコンパートメントに押し込まれたエンジンは、115ps/200Nmを発揮する1.0TSI。これは格上のポロやゴルフにまで搭載される直列3気筒の直噴ターボユニットであり、ノーマルの75ps/95Nmに対して実に+40ps/+105Nmの出力アップ! となっている。そしてこれを横置きにして6段のマニュアルトランスミッションを介し、フロントの2輪を駆動させる。 トランスミッションはMTのみの設定そのフィーリングは3気筒特有のビート感に満ちた吹け上がり。ユーロ6の排ガス基準をクリアするべく大型の粒子フィルターを装着している関係か、アクセルを大きく開けたときの追従性に一瞬の“タメ感”があるものの、これを見越してきちんとシフトダウンをかませば問題なくパワーを発揮することができ、そこから“ビーン!”と立体的なサウンドと共に、性能を目一杯味わわせてくれる。まさにそれは、美味しそうなハンバーガーにがぶっ! っとかぶりつく感じだ。 ちなみにコストや重量の関係だろう、GTIにDSGの設定はなく、シングルクラッチ式のASGも強化タイプなどは用意されない。そういう意味でも乗り手が一手間かけるマニュアルトランスミッションの採用は、このエンジンと相性がよいと言える。お互いにヨイショ! と一声掛けて性能を発揮させる乗りもの感が濃厚なのである。 また日常領域でのドライバビリティには、ノーマルのup!で欲しかった“もうちょっと”が全域でしっかり備わっている。小さなボディの利点はスイスイと走れること。そこに上り坂でも高速道路でも無理なく加速できるだけのパワーが備わったのは、何よりの朗報だと言えるだろう。 理に適った安定志向のシャシーセッティングシャシーのキャラクターは、フォルクスワーゲンの流儀に外れない安定志向だ。しかし極めて小さなボディをヨーロッパの流れでも不足ないどころか時にはリードするような速度で走らせる時、安定志向を求めたシャシーセッティングは理に適っている。なおかつサスペンションには行き過ぎないストローク感があり、みっちりとしたボディとの間でしなやかに追従するため乗り心地が非常にまともである。 通常ここまで小さなクルマの場合、スタビリティを高めようとすればダンパーの初期動作が渋くなりがちで、軽量化を推し進めるスズキなどは最近苦労している。対してup! GTIは前述した通りある程度の車重もあるため、必要以上のコストをかけなくてもダンパーの初期動作が滑らかで、結果的に良好な乗り心地と高いロードホールディング性能が得られているのである。ちなみにダンパーはノーマルと共通で、横力に対応するべくダンパーロッド径を上げているだけだという。つまりそれだけ、up!の基本ボディにお金が掛けられているのだ。 フツーに走るだけで“乗りものドーパミン”が出る楽しさハンドリングは、FWD版NDロードスターと言ったら言い過ぎだろうか。いやある部分では、それよりもしっかりしているところがある。また同じセグメントであるルノー・トゥインゴGTよりも質感が高く(トゥインゴの魅力はそのライトな味わいなのだが)、スマート フォーフォーよりもスポーティだと思う。 スタビライザーをノーマルより固めに設定していることからリアタイヤの接地性はどっしりと落ち着いているが、ブレーキでサスペンションを縮め、そこからステアリングを切り込めば、深い曲率のコーナーでもロール姿勢を安定させたまま、グッドイヤー「E-Grip Performance」を路面に押しつけてノーズをグーッと回り込ませていく。 また適度にトールな車体の重心移動を使ってリズムを作れば、ツイスティなワインディングも自在にスラロームできる。太めのノブを持つ節度のある6MTを駆使して走りを組み立てれば、それは立派なスポーティドライブである。 だがup! GTIは、飛ばさなくても楽しい。フォルクスワーゲンの開発部隊はこのクルマに初代ゴルフGTIの面影をかぶせているようだが、筆者にとってup! GTIは「ハイウェイをぶっ飛ばせる小型グランドツーリングカー」というよりも、極めてまともに作り上げられた「小さな相棒」。だからフツーに走っているだけで、“乗りものドーパミン”が出て楽しいのである。 しかしこれまでの歴史が示す通り、小さな高級車はなかなか成立しないジャンルである。これがどこまで人々に理解されるか。現地価格で約225万円というプライスが、日本でどう落ち着くのかはひとつの見どころ。その導入は、今年中頃とのことである。 スペック【 up! GTI 】 |
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