セレナがe-POWERを選択した理由まずは売れ筋の5ナンバー2リッター級ミニバンにおける日産セレナの立ち位置から。セレナの最大のセールスポイントは、同社が同一車線自動運転技術と説明する高度運転支援システムのプロパイロットであり、これはライバルに明確に差をつけるシステムだ。一方で、ライバルであるトヨタのノア/ヴォクシーに設定されるフルハイブリッドモデルがセレナにはなかった。ジェネレーターを兼ねるスターターモーター代わりのエコモーターによって、回生した電力を小型バッテリーに貯めて電装品や発進補助に用いるS-ハイブリッドの設定はあるが、あくまで簡易的な、いわゆるマイルドハイブリッドの範疇。同じくライバルのホンダステップワゴンが昨秋2モーターのフルハイブリッドモデルを追加したこともあり、一般的なユーザーが感じるパワートレーンのエコ度の“印象”では、セレナは一歩遅れをとっていた。それでもプロパイロットは親孝行なシステムで、セレナはノア/ヴォクシーのうち、より売れているヴォクシーと拮抗する勝負を展開し、ノアやステップワゴンをリードし続けている。 日産もエクストレイルが採用するハイブリッドシステムをセレナにも採用すべく開発を続けていた。ところが同時に開発を進めていたノートのe-POWERシステムが、当初の目標を超える出来となりそうだという手応えが得られ始めたところで「セレナにもe-POWERを採用すべし」という経営判断が下される。既存のシステムを流用すればもっと早くハイブリッドモデルを追加できただろうが、お客を待たせてでもe-POWERを採用する価値があると踏んだのだ。開発途中、ひと足先にノートにe-POWERが追加され、大ヒットしたことは開発陣にとって大きな励みになっただろう。世に問う直前になって予期せぬ完検問題が発生することも含め、中島みゆきかスガシカオが流れてきそうなストーリーじゃないか。 プラス500kgをシステムのパワーアップで対応さて2月最終日、セレナe-POWERが発売された。発電専用の1.2リッター直3エンジンを搭載し、EVのリーフに搭載されるのと同じ駆動用モーターで前輪を駆動するという仕組みはノートe-POWERに採用されたものと同じ。ただしクルマのキャラクターに合わせてチューニングが異なる。まず駆動用モーターの最高出力が100kW(ノートe-POWERは80kW)、最大トルクが320Nm(同254Nm)とパワーアップした。それに伴いバッテリー容量が1.5kWhから1.8kWhに増やされ、エンジンの最高出力も58kWから62kWへと向上した。 パワーアップはノートに対して約500kg重い車重に対応するため。パワーアップしたらより多くの電力を必要とするため、エンジンのパワーを上げて発電能力を増す必要があり、モーターとエンジンの間にあって電力の需給のバッファのような役割を果たすバッテリー容量も大きくする必要があったということだ。 とはいえ、ノートよりも500kgも重い車体を満足に走らせることができるのか? 最終プロトタイプをクローズドコースで試乗した。エンジンはもっぱら発電に徹し、駆動をモーターが担うe-POWERの特徴であるなめらかな発進と、変速ショックなく加速していく様子はノートe-POWERと同じだ。コンパクトカーのノートのように軽やかにグイグイ速度を増していくわけではないが、一般的にミニバンに求められる以上の加速力が備わっている。これを1.2リッターエンジンで得られるのだから、長年乗ることを考えると自動車税の面でもお得だ。 ※当初「1.2リッター直4エンジン」と表記していたものを「1.2リッター直3エンジン」に修正いたしました。(2.28)ミニバン用に仕立てたワンペダルドライビング発進から1、2秒たったらエンジンがかかるのだが、ノートよりも静粛性に気を使っているのがわかる。フロントガラスを遮音フィルムを中間に挟んだタイプに変更し、フロアの遮音材を4層構造にするなど、これまでのセレナに対し大小25カ所の遮音対策が追加された。さらにエンジンの特性変更によって、ノートが基本2400rpmで回していたのに対し、2000rpmとより低い回転数で回しており、その点でも静粛性が向上した。e-POWERを含むハイブリッド車は挙動とエンジン音の高まりが必ずしもリンクしないため、よけいにエンジン音が気になるものだが、セレナe-POWERの遮音レベルなら、同乗者から不満が出ることはないはずだ。 モーター駆動の恩恵は加速時とともに減速時にも感じられる。アクセルペダルを戻すとその瞬間から波打つことのない減速Gが立ち上がる。大げさに言えば新幹線の減速感だ。エンジン駆動車のエンジンブレーキよりも強い減速感のため、運転し始めは戸惑うかもしれないが、慣れればアクセルオフだけで好みの位置で停止できるようになる。ミニバンということを考慮し、高速走行時の減速Gの立ち上がり方はノートよりも弱くしてあるという。アクセルを戻してもマイルドにしか減速しないということだ。ミニバンの場合、乗員は高い位置に座っているため、わずかな挙動変化でも感じる揺れが大きいので、その点を考慮して弱めたのだそうだ。街中ではノートと同じようにアクセルオフで強い減速Gが発生するので、ワンペダルドライビングで発進、加速、巡航、停止のすべてをコントロールできる。 走行モードはノート同様、ノーマルモード、エコモード、Sモードの3つ。Sモードがe-POWERの特性を最大限活かしたモード(ここまでの報告の印象はSモードでのもの)で、ノーマルモードは通常のエンジン駆動車のようにアクセルオフで空走するモード。せっかくe-POWERを買う人にとっては不要に思えるが、複数のクルマを乗り換える人が混乱しないよう設定しているそうだ。エコモードは出力をやや落として効率を高めるモードだ。 ※校正時に「e-Pedal」と追記していましたが、執筆者の指摘で削除しました(3/1)。EVの特性が生きるセレナe-POWERを選択する価値走行モードとは別に、チャージモードとマナーモードというノートe-POWERにない新しいモードが追加された。ふたつのモードに分かれているが、これらは一対の機能。チャージモードはバッテリー残量を90%以上に保つべくエンジンを積極的に動かすモードで、マナーモードはバッテリー残量にかかわらずできるだけエンジンを止めて走行するモードだ。バッテリー残量が90%以上だとマナーモードで約2.7kmをエンジン停止状態で走行することが可能であり、早朝、深夜の出発、帰宅などに便利。 チャージモードはマナーモードでのエンジン停止走行距離を最大化するためのモードで、もうすぐマナーモードで走行したい時にいったんチャージモードを使ってバッテリー残量を増やすという順番。ちなみにたまたまバッテリー残量が90%以上残っていても、マナーモードを使わないとほどなくエンジンがかかってしまう。これはシステムが総合的なエネルギーマネージメントとしてバッテリー残量が残り少なくなる前にエンジンをかけて発電するため。エアコンの絡みもある。 e-POWERの採用によって、これまでのセレナよりも高級感が増した。インテリアの仕立てがよくなったわけではないので、その原因は加減速のなめらかさと静粛性の高さからきているのだろう。モーター駆動のなめらかさ、レスポンスのよさは一度味わうとエンジン駆動車に戻りづらくなる魅力をもつ。さらに静粛性の高さも求めるなら理想はEVだ。だがさまざまな理由でEVへスイッチできないユーザーはまだまだ相当多い。これまでどおりガソリンスタンドへ行きながらEVの特性だけ味わえることを目指したのがe-POWERシステムだ。セレナはe-POWERを得て魅力を増した。だが価格も増した。296万8920~340万4160円はエンジン駆動のセレナに対し約46~47万高。ただしカタログ上の燃費は26.2km/Lと、15.0~17.2km/Lのエンジン駆動セレナより大幅に向上するほか、ステップワゴンスパーダハイブリッドの25.0km/L、ヴォクシーハイブリッドの23.8km/Lをも上回っている。また減税分が約10万円あるので、その差は30万円前後に縮まる。経済性だけで比較するならe-POWER以外の選択肢もありだが、満足度を求めるならe-POWERを強くオススメする。 スペック【 セレナ e-POWER ハイウェイスター V 】 |
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