雪に覆われたホンダの鷹栖テストコースへ冬季に降雪で厳しい路面状況となる地域が多い日本。このため昔から日本メーカー各社の4WDラインアップは充実している。同時にスタッドレスタイヤの性能も日本に多い0℃ゾーンに強いタイプが充実している。それらの進化を確認する機会として、自動車メーカーやタイヤメーカーは雪のシーズンに相次いでメディアを対象に雪上、氷上試乗会を実施する。今シーズン、マツダ(北海道)、スバル(北海道と青森~岩手の2回)、三菱(北海道)、日産(長野県<氷上>)と参加してきたが、最後にホンダが北海道・鷹栖にある自社のテストコースで開いた試乗会に参加し、今年発売予定のCR-V(プロトタイプ)と2月に発売された新型レジェンドの雪上での挙動を確かめた。 氷上> 今度のCR-Vは歴代でもっともレスポンシブ1995年の登場以来4世代にわたってグローバル市場で人気を博したCR-V。2016年に5代目へ切り替わったが、選択と集中を進めた当時の経営方針によって日本では販売されず、ひとつ下のカテゴリーに属するヴェゼルがそのポジションを兼ねた。だが経営陣が変われば方針も変わる。18年のどこかで5代目を日本でも発売することになった。 試乗したのは左ハンドルのプロトタイプ。プレミアムクリスタルレッドパールという真っ赤なボディカラーが雪上によく映える。エクステリアにクロームパーツがやや多めなのは日本以外の市場の要求なのだろうか。ただひと目でCR-Vだと認識でき、かつ新しさも感じられるデザインだ。このカテゴリーはライバルが多いが、市場も大きい。CR-Vのデザインが心に刺さるという人も少なくないだろう。 パワートレーンはアトキンソンサイクルの2リッター直4エンジンにハイブリッドシステム「i-MMD」の組み合わせ。これはアコード、オデッセイ、ステップワゴンが採用するシステムだが、これら3モデルがFWDのみと組み合わせられるのに対し、CR-Vはホンダが「リアルタイムAWD」と呼ぶ、他のモデルの非ハイブリッド車に設定される4WDシステムと組み合わせられる(FWDも設定されるかどうかは不明)。 駆動用と発電用のふたつのモーターを備えるi-MMDは、高速巡航時のみエンジンで駆動するが、そのほかの場面ではモーター駆動という“ほぼシリーズ・ハイブリッド”。発進を含む加速時はモーター駆動なので、感覚的にはEVに近い。発進は非常にスムーズで、それだけで上質なクルマに感じる。(ドライ路面で再確認が必要だが)他のモーター駆動のEVおよびPHV/HVほどアクセルオフでの回生ブレーキによる減速感はそれほど強くなかった。アクセルワーク全般に対するレスポンスのよさはモーター駆動ならではで、雪上でとてもありがたい。 AWD+タイヤの進化とドライバーの自制リアルタイムAWDは、前輪がスリップしてから後輪にも駆動力が伝わる単純なオンデマンド4WDではなく、アクセル開度とギヤ段で前後駆動力配分を決めたうえで、前後の車輪速の違いや横Gなどの情報を元に車両の状態を予測して配分を補正するフィードフォワード制御タイプだが、CR-Vに採用されるのは、従来の制御に加えて、ヨーレートなども加味して駆動力配分を理想化するようになった。 こうした演算は常時行われ、駆動力は目まぐるしく変化しているため、ドライバーは「ああ今ヨーレートも加味されて後輪の駆動力が増えたな……」などと感じることはできないが、ステアリングを切った瞬間に思うように舵が利かずにあれっ? と焦ったり、慎重にアクセルワークをしていたはずなのにズリッと小さくスリップしたりするような場面が減ったことはわかる。コーナーに対して理想の操作というものがあるとして、それと実際の操作のズレを補正してくれる。「ライントレース性(思った走行ラインを通ることができる性能)、旋回加速性(より速いペースでコーナーを曲がる性能)を向上させた」というメーカーの主張に誇張はなく、その通りだと思った。 ただし、これはタイヤの進化にも言えることだが、ペースを上げられるということは限界を超えた時の危険性も増すということ。クルマやタイヤの性能が上がれば上がるほど、ドライバーにはより自制が求められるということを、“かつて”を知らないドライバーに伝える努力が行政、メーカー、そして我々メディアにも求められる。私も微力ながらここに伝えておきたい。「調子に乗っちゃダメ」。 凝りに凝ったハイテクが生みだす走りはもはや異次元続いて試乗したのは、2月にマイナーチェンジしたばかりのフラッグシップサルーン、レジェンド。アメリカのステルス型戦略爆撃機のような五角形のフロントグリルが特徴的。細かく分割されたデザインのヘッドランプユニットは健在。レジェンドは少なくとも日本国内では、ライバルのレクサス、メルセデス、BMWあたりのサルーンほどには存在感を示すことができていない。けれども、ホンダがレザーやウッドの豪華さを自慢するのはなんか違う。凝ったメカニズムを全面に押し出したスポーティー(すぎる)サルーンという現在のコンセプトは好ましい。 言ってしまえば、レジェンドもCR-V同様、セールスポイントはハイブリッドシステムと4WDシステムの組み合わせだ。ただそれぞれがえげつないほど凝っていて、さらにそれぞれが複雑に絡み合って機能する。おなじみSH(スーパー・ハンドリング)-AWDは、フロントにあるデュアルクラッチ・トランスミッションに内蔵されたモーターとリアにあるふたつのモーターが、前後の駆動力配分だけでなく、リア左右の駆動力配分も司る。これによってコーナーで外側の後輪により多くの駆動力を配分して旋回性を高めるなど、状況に応じて駆動力を理想的に配分することができる。 基本となるシステムは先代レジェンドにも採用されていたが、現行型は3.5リッターV6エンジンにハイブリッドシステムが組み合わせられ、システム全体としての最高出力は382psに達する。速い。駆動力配分をモーターで行うため、制御のきめ細かさが段違いに精密。車両がどんな向きで、4輪それぞれがどんな荷重配分であっても、アクセルを踏めば踏んだだけ加速し、ステアリングを切れば切っただけ曲がるような感覚で運転できる。雪上は高速域での挙動を低い速度域で確かめることができる。レジェンドの異次元感覚を存分に体験できた。これはもうNSXサルーンだ。いや向こうがレジェンドクーペかレジェンドスポーツを名乗るべきだ。さすがに言いすぎか。 レジェンドが“リビングレジェンド(生ける伝説)”になるには…マイナーチェンジでは、顔にステルス機が張り付いただけではない。ボディ剛性が格段に上がった。メーカーの触れ込みはこうだ。「ボディ各部を接合するのにより広範囲にわたって接着剤を使用した結果、ボディ剛性が上がり、乗員が感じる振動を大幅に減少」。実際はどうか。今回、昼間でもマイナスひと桁台の気温が保たれたため、よく整備された圧雪路面は走行を重ねても引き締まったまま。むしろ走行ラインは踏みしめられて硬化していった。こうした路面で新旧を乗り比べた結果、車両のバタつきの差は一目瞭然ならぬひと乗り瞭然だった。触れ込み通り、新型はバタつかない。バタつかないと、快適なだけでなく、ステアリング操作に対する応答性も上がる。運転中のクルマとの一体感、信頼感が増すのだ。 凝ったシステムを駆使して(ドライバーの失敗はある程度カバーしつつも)操作に関係なく車両を安定させるのではなく、システムによってドライバーの操作に忠実な、時には操作に現れていない意図を汲んだ挙動を実現するのがSH-AWDの意図するところ。そしてメカニズムをより正確に作動させるべく、ボディ剛性向上という基本的なブラッシュアップを図ったというのが今回のマイナーチェンジといえる。 サルーンとしては他にない方向性で、ホンダらしさを感じるよいクルマだと思う。が、高級車というのは、ひと世代かふた世代、唐突によいクルマをつくっても十分に評価されるとは限らず、売れるかどうかは長年かけてそのブランドのファンを醸成してきたかどうかによる。その意味ではレジェンドが他のプレミアムサルーン並みに存在感を示すには、この路線の継続が必要だ。レジェンドが進もうとするハイテク、マニアック路線にとって、急速に進むクルマの電動化、知能化はよい流れのはずだ。 CR-V・スペック【 CR-V(5代目)】 レジェンド・スペック【 レジェンド ハイブリッド EX 】 |
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