5代目 LSから浮かび上がってくるレクサスの「志」1989年にブランドを立ち上げ、2005年には日本でもビジネスをスタートさせたレクサス。そのフラッグシップとなるのが、この5代目LSである。 フラッグシップとは、そのブランドの、いちばん豪華で高性能で高価なモデルという理解が一般的だ。けれどそれだけでは真のフラッグシップになれない。そのブランドがもつ最新の技術や装備を投入するのは当たり前であって、大切なのはその先にある「志」。どんなブランドなのかを強烈にアピールできてこそ、真のフラッグシップたり得る。メルセデス・ベンツのSクラスがそうであるように、ブランドの実力とキャラクターを内外に示すと同時に、他のメルセデスのメートル原器となることが求められる。 そんな観点で新型LSを眺めると、あるひとつの「志」が浮かび上がってくる。それは、長年レクサスが戦ってきた「トヨタ車となにが違うの?」という問いかけに対する回答でもある。 大胆にして魅惑的なモデルへと導いた「エモーショナル」への想い新型LSのルックスは驚くほどスポーティーだ。ボディとの一体感を増した迫力のスピンドルグリル、フェンダー部の肉感的な膨らみ、美しい弧を描いたルーフライン、強く傾斜したフロント&リアピラー、コンパクトなキャビン、大きなタイヤ・・・どこから眺めても一般的なハイエンドサルーンとは一線を画すスピード感を伝えてくる。LSの仮想敵はメルセデス・ベンツSクラス、BMW 7シリーズ、アウディA8といったドイツのハイエンドサルーンだが、スポーティー感、パーソナル感の強さはLSがダントツ。運転はお抱え運転手に任せ、自分は後席で寛ぐような使い方はもはや想定外だと思えるようなデザインだ。そういう使われ方もされるだろうに、本当に大丈夫なの? と心配になるが、後席の快適性については後ほど報告しよう。 ハイエンドサルーンを大胆なまでにスポーティーに仕上げる。本来なら、Sクラスに対して7シリーズやA8がとるべき戦略である。しかしBMWもアウディもそこまでの冒険には出ていない。そういう意味で、新型LSは、これまで誰もがチャレンジしてこなかった領域に足を踏み入れてきたと言える。 その背景にあるのが「エモーショナル」という価値の追求だ。レクサス開発の最前線にいる人たちから事あるごとに出てくるのが「レクサスを世界でもっともエモーショナルなプレミアムブランドにしたい」という言葉。新型LSは最新のGA-Lプラットフォームを使っているが、ひとあし先に同じプラットフォームを使った魅惑的なクーペであるLCをデビューさせたのも、レクサス=エモーショナルなブランドというイメージを与えるための戦略だ。 エモーショナルという価値に対するレクサスの想いはかくも強烈であり、それはLSを大胆にして魅惑的なモデルへと変身させた。そろそろ実車が街を走りはじめた頃だが、ボディに街並みを映し込みながら走るLSの姿はとても魅力的だ。先日、夕闇迫る丸の内界隈でLSを目撃したが、先代までのLSには感じられなかったオーラに圧倒されてしまった。言うまでもなく、ハイエンドサルーンにとってオーラはもっとも大切な魅力のひとつだ。LSを心の底からカッコいいなと思ったのは初めてだし、オーラの強さにおいてもSクラス、7シリーズ、A8にぜんぜん負けていないなとも思った。これは、日本の高級車としてはそうとう画期的なことである。 志を体現する2種類のパワートレインを新開発エモーショナルなプレミアムブランドを目指すからには、走りにおいてもエモーショナルでなければならない。その切り札として新たに開発されたのが2種類のパワートレインだ。ひとつはLS500hが積む自然吸気式3.5L V6ハイブリッド。スペックはエンジンが299ps/356Nmで、モーターが180ps/300Nm(システム最高出力は359ps)。JC08モード燃費は14.4~16.4km/Lをマークする。 そしてもうひとつが、今回主に試乗したLS500の3.5L V6ツインターボで、スペックは422ps/600Nm、9.5~10.2km/Lとなる。走りと燃費の高い次元での両立を狙ったLS500hのハイブリッドに対し、LS500のV6ツインターボは明確に走りを志向している。 エンジンの印象をレポートする前に、まずは足回りの報告から始めよう。試乗したのはショーファードリブンを意識した最上級仕様のLS500hエグゼクティブ。今回からロングホイールベース仕様がなくなり1ボディタイプとなったが、後席は至極快適だ。なかでも特等席は後席左側。ヘッドスペースも十分だし、ワンタッチで助手席をスライド&フォールドする機能やオットマンを使えば足を組んでゆったりと寛げる。おまけにマッサージ機能の優秀さといったらもうただ者じゃない。いまやドイツ車のシートにもマッサージ機能が付く時代になったが、2つ重ねの空気袋はまるでモミ玉のような強モミをしてくれる。22WAY(!)の電動パワーシートとあいまって、まさに極上のリラクゼーション空間を提供してくれる。 ライバルから乗り換えてもガッカリしない身のこなし全長5235mm、ホイールベース3125mmという巨体にもかかわらず、ハンドリングは軽快だ。フワフワ感は抑え込まれているし、ステアリング操作に対するノーズの動きにもダイレクト感がある。とくに2WDには4WS機構が組み込まれているため、小さなコーナーが連続するセクションでも面白いようにノーズが向きを変える。4WDは2WDと比べると操舵量が多くなるが、このあたりは良い悪いではなく好みの問題。4WDのゆったりした動きを好む人もいると思う。いずれにしても、先代までのLSと比べれば、コーナーでの身のこなしは格段に向上している。どんな速度域でも、高い安心感を保ったまま狙ったラインをデッドに攻めていける性能、と言えばイメージしやすいかもしれない。これならドイツのライバルから乗り換えてもガッカリすることはないだろう。 さらなるスポーティーな身のこなしを求める人にはFスポーツという選択肢も用意される。新型LSのコンセプトをより明確に表現しているのはFスポーツであり、僕がもし買うならFスポーツを選ぶだろう。とはいえ、フォーマル感やラグジュアリー感を重視してエグゼクティブを選んでも、以前のLSとは別モノのエモーションを味わえるのは前述の通りだ。 気になったのは荒れた路面での乗り心地。エモーショナル→スポーティーという狙いもわかるが、エグゼクティブ仕様には、運動性能をやや落としてでもいいからもっとしなやかな味付けを与えたほうがいいと思う。ただし入念に観察してみると、実は乗り心地はそれほど悪くないことに気付く。問題は、路面からの入力がちょうど太鼓を叩いたときのようなドンドンという音を発生させてしまうことにある。突き上げと音が重なるため、実際の乗り心地よりも「乗り心地感」が悪くなってしまっているのだ。ボディ周りの剛性を高め、入力に伴う室内の容積変化を減らせば音は収まるはず。このあたりは今後の課題として改善を期待したい部分だ。 絶対的な動力性能は文句なしだが改善の余地もありLS500が積む3.5L V6ツインターボエンジンは軽快な吹け上がりが特徴だ。10速ATのリズミカルな変速と軽い吹け上がりの組み合わせは、2トンを悠に超えるボディを軽々と加速させていく。最新のターボエンジンらしく中低速トルクも太いため、普通に走っている限り3000rpmぐらいまで回せば十分以上の加速が手に入るが、せっかくならたまには思い切り加速させてあげたい。上まで引っ張ったときのクォーーンというサウンドは爽快だし、トップエンドに向かって一直線に伸びていくフィーリングも抜群に気持ちいい。LC500の5L V8(477ps/540Nm)のような豪快さはないものの、時代の要請、つまり燃費と動力性能のバランスを考えれば、確実な前進をしていると評価したい。 ただし、レクサスが狙うエモーショナルな価値を含めて評価すると、課題も残されている。なかでも喫緊の課題となるのが回転フィールの粗さだ。常用回転域でも、アクセルを踏み込むとステアリングやシートやペダルを通して微振動が伝わってくる。絶対的なレベルでは十分滑らかなのだが、V8エンジンからの置き換えであること、また1500万円クラスのハイエンドサルーンであることを考えると不満が残る。同じ6気筒でも、シルキー6と呼ばれるBMWの直列6気筒あたりと比べてしまうと、若干の雑味が残っているのだ。絶対的な動力性能や燃費では文句なしのレベルに達したものの、重みとか艶とか息遣いとか、そういったフィーリング面には改善の余地があると報告しておこう。 同じことがハイブリッドにも言える。車重に対してモーターのトルクが控えめなため、アクセルを少し深めに踏み込むとすぐにエンジンがかかるのだが、そのとき聞こえてくるエンジン音が結構大きめなのだ。効率という点では現状がベストなのだろうが、レクサスのフラッグシップモデルであることを考えると、もっと余裕が欲しい。たとえばモーターの出力を高めてEV走行領域を拡げれば、ラグジュアリー感と先進感をグンと引き上げられると思う。 セルシオ的な価値観から脱却して新たな魅力を再構築した5代目となる新型LSは、ついにセルシオ的な価値観と袂を分かち、スポーティーでエモーショナルなハイエンドサルーンとしてその魅力を再構築してきた。なかでも世界でもっとも攻めたデザインは多くのファンを獲得するに違いない。 一方、ラグジュアリーカーとして評価すると、走りに関してはややスポーティーに寄せすぎたきらいがある。もちろん、スポーティネスはエモーショナルと多くの部分で重なるし、最初から及び腰ではなにも変えられない。そういう意味で、優れたポテンシャルのプラットフォームを作ったうえで、まずはスポーティー方向に振るという方法論は大いにアリだったと思う。今後時間をかけ、徐々に角を削ったり雑味を取り除きながら奥深さや深みを与えていけば、LSは間違いなく日本が世界に誇る最高のラグジュアリーサルーンになる。 スペック例【 LS500 “エグゼクティブ”(AWD)】 【 LS500 “Fスポーツ”(2WD)】 |
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