ウラカンを5秒突き放す市販車最速の6分47秒3をマーク「誰が一番かハッキリさせてやろうじゃないか」 ポルシェAGのメンバーの、そんな声が聞こえてくるかのようだ。「ポルシェ 911 GT2 RS」がニュルブルクリンク旧コースで叩き出した最速ラップタイムは6分47秒3。「ポルシェ 918 スパイダー」を破り、市販車最速の座に君臨していた「ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ」の6分52秒01を再び、5秒も突き放す驚速ぶりである。 このマシンを手掛けたのは、ヴァイザッハにあるポルシェ モータースポーツ部門。速さのカギはレースカーと同じくシンプルに、圧倒的なエンジンパワー、そして徹底的な軽量化だ。 エンジンは「911 ターボ」用の3.8Lツインターボをベースに、クランクシャフトの強化、1.6barものブースト圧を許容するための圧縮比ダウン、可変タービンジオメトリー(VTG)を使ったターボチャージャーの大容量化等々により、最高出力を「911 ターボ S」の120ps増となる700psに向上させている。最大トルクは750Nm。こちらはターボSのオーバーブースト時と同様だ。 一方の軽量化は、強靭なターボ用ボディを使いつつ、可能な限りのパーツを軽量素材製に置き換えることで実現している。CFRP製フロントリッド、マグネシウム製ルーフ、化学強化ガラス、軽量カーペットにハーネス類、CFRP製バケットシート、リアシートレス、そして忘れちゃいけないフルタイム4WDに代わる後輪駆動化…と、とてもすべては書き切れないが、結果として車重はDIN数値で1470kgを達成している。参考までに911ターボ Sは1600kgである。 空力パーツ満載でトータルダウンフォースは416kg外観も物々しい。ターボ Sや「911 GT3 RS」以上に大きく口を開けたフロントエプロン、地面ギリギリの低さのリップスポイラー、固定式リアスポイラーに、大型リアディフューザーなど、沢山の空気を取り入れるため、あるいはエンジンを冷却するため、更には車体を地面に押し付けるための無骨なディテールが各部に取り入れられている。 実は床下を見ても、「911 GT3 カップ」から流用したフロントディフューザー、拡大されたエアガイドベーン、フラットフロア等々が採用されて、ダウンフォースを稼ぎ出している。サーキット用セットアップでのトータルダウンフォースは450kgにも達する。 この空力で路面に押し付けられるタイヤは、前265/35ZR20、後325/30ZR21という前後異径のウルトラハイパフォーマンス仕様。サスペンションにはフルピロボールジョイント、倒立式ダンパーなどが採用され、PTV Plusやリアホイールステアも標準で装備される。 ここまででも十分、お腹いっぱいという感じだが、ポルシェはこれでもまだ飽き足らないという人のために“ヴァイザッハ パッケージ”を設定している。チタニウム製ロールケージ、鍛造マグネシウム製ホイール、CFRP製のルーフとシフトパドル、そしてスタビライザー及びリンク等々のパッケージで、更に27kgの軽量化を可能にする。その代償は2万9750ユーロ、ざっと400万円である。 VTGを利用した天井知らずの猛烈な勢いの回転上昇期待通り? いや、想像以上にその走りは刺激的だ。遮音材が省かれた室内にロードノイズやエンジン音が容赦なく入り込むこと、排気管長のきわめて短いチタニウム製マフラーがいかにも圧の高そうな排気音を奏でることもその要因だが、何より圧倒されるのが、やはりそのパワー。低回転域からターボラグなど意識させないピックアップを示すのだが、それだけでなく、その後には天井知らずの、しかも猛烈な勢いの回転上昇が待っている。VTGをうまく活用して、フラットトルクではなく回してこそ意味のあるエンジンに仕立てたことで、刺激が倍加しているのだ。 そんなエンジンだけに、下手に踏み込むと首が後ろに持って行かれそうになる。CFRP製シフトパドルの絶妙なクリック感に、シフトダウンの誘惑にかられるが、路面の悪い一般道で下手に全開にすると、911 GT3 RSの更に倍のレートだという超ハードなサスペンションのせいもあって、うねりを突破すると同時にクルマがジャンプすることもある。迂闊な走りは禁物なのである。 全開を試すのは、サーキットだけにしておいた方がいい。それでも、フル加速では強大なダウンフォースにも関わらず前が浮き上がるような感触を味わうことになるし、250km/hを超えてもまったく勢いが衰えず、どんどん突進していくから、その緊張感は半端じゃない。 タフなブレーキ&エンジンだが操縦には繊細さも大胆さも必要いかにもポルシェらしいのは、ブレーキが強力に効くことだ。標準装備のPCCBは初期制動にやや滑走感があるのが引っかかったが、効き自体は強力無比で、300km/hに迫るスピードからのフルブレーキングを何度繰り返そうと、それ以上効きやタッチが変わることはなかった。 尚、911 GT2 RSはインタークーラーウォータースプレーを標準装備しており、一定の条件が揃うと自動的に作動して、吸気温度を低下させる。ブレーキだけじゃなくエンジンも、ちょっとやそっとじゃへこたれないように考えられているのだ。 そんな制動力バツグンのブレーキングを終えつつステアリングを切り込んでいくと、ターンインは切れ味鋭く、容易に車体を、自分の思い描いた走行ラインに乗せていくことができる。但し、ここで逸(はや)ってアクセルペダルに足を乗せてはいけない。前述の通り、3.8L直噴ツインターボユニットは凄まじくレスポンスがいいから、瞬時にドカンッとトルクが立ち上がってPSMがオンであってもお構いなく、リアを振り出そうとするのだ。 慎重に向きを変えていって、ステアリングを戻せる段になったら、そこからじわりとアクセルを入れていく。そうすれば911 GT2 RSは、極太のリアタイヤによる強力なトラクション性能で、再び凄まじいダッシュを見せつける。繊細さと大胆さを、うまく使い分けること。それが速さを引き出す秘訣である。じゃなければ…怖い思いをすることになるかもしれない。 もはやレーシングカー。乗りこなすには身体と精神の鍛錬が必要全長約4.7kmのコースを全部で8周。たったそれだけなのに、試乗後には全身がこわばり、汗が吹き出していた。おそらくは冷や汗も含んでいただろう。この疲労感、そして達成感は、もはやレーシングカーだ。少なくとも「最近のポルシェは乗りやすくなっちゃって…」なんて、このクルマの前では戯言にしかならない。 手に入れるつもりの方は、納車までの間に身体も精神も、相応の準備をしておいた方がいい。そうすれば、この上ない刺激と快感の波に浸れること、保証しよう。 スペック【 911 GT2 RS 】 |
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