なぜWRX STIとタイプRはあまり比較されなかったのか?まさかこんな日が来るとは思わなかった。目の前には「スバル WRX STIタイプ S」と「ホンダ シビック タイプR」が並んでいる。 思い起こせばこの2台は、そもそも同じセグメントに属すモデルながらも決して直接比較されることはない、と誰もが思っていたはずだ。同じようにトップレベルのスポーツグレードに属していたものの、その方向性は全く異なるものだったからである。 シビック タイプRの初代モデルが登場したのは1997年のこと。6代目シビックEK型に初めて設定されたこのモデルは、1.6L NAながらも最高出力は185psと、リッターあたり100ps以上を実現したハイチューンユニットを搭載。同時に徹底的な軽量化で1040kgという軽量ぶりを実現していた。その後は排気量が2.0Lとなるなどしたが、位置付けとしてはタイプRとは、無駄を削ぎ落としハイチューンのNAエンジンを搭載する…という文法を守ってきた歴史がある。 一方で、WRX STIの初代モデルが登場したのは1994年のこと。スバルのカタログモデルだったインプレッサWRXをベースに、STIが手がけたコンプリートモデルとして登場したのがルーツだ。今も変わらぬEJ20ターボを搭載し、最高出力は250ps、最大トルクは35.1kgmを発生。セダンボディに強力なボクサーターボを積み、4WDを組み合わせるという発想は当時の世界では稀なもの。ここからWRX STI=セダン+2.0Lターボ4WDという文法が生まれ、その後現在まで受け継がれる歴史を作り上げたのである。 ニュル最速を目指すタイプRの転換が両者をライバルにする無駄を徹底的に削ぎ落とした軽量ボディに、究極のNAを組み合わせるというタイプRと、ハイパフォーマンスな2.0Lターボと4WDの力技で速さを求めるSTIとでは、まさに目指す世界は180度異なっていた。 しかも、徹底的に機械を研ぎ澄ませるイメージのタイプRはむしろ、速さとともにエモーショナルな部分を大切にした存在。対してパワーとトルクで巨大な敵でもなぎ倒すイメージのSTIはどちらかといえば、情緒よりも力と速さが生み出す性能を重視した存在といった具合だった。 そんな2台の末裔が今、目の前に並んでいる。お互いの登場から20年以上が経過した現代において、2台は並べて比べられるようになったのである。 これはもちろん、シビック タイプRの変化によるところが大きい。2015年に登場した4代目となる先代モデルにおいて、ニュルブルクリンク・ノルドシェライフェでFF車最速を目指すというコンセプトを掲げたからだ。 当時の想定ライバルであるルノー・メガーヌを打ち破るために選択したパワーユニットは2.0Lの直4ターボ。これを310psへと性能アップして用いた。この時から、シビック タイプRはハイパフォーマンス志向へとコンセプトを変えたわけだ。 そして図らずも、ライバルであるランサー・エボリューションと長年にわたってニュルブルクリンクで走りを磨き速さを競い合ってきたWRX STIの領域に踏み込むことになったのである。 一方のWRX STIは、2.0Lターボ4WDセダンという、日本発にして世界的関心事にまでなったこのジャンルで、三菱ランサー・エボリューションと切磋琢磨し進化してきた。が、2016年4月をもってランエボがこの世から去って以降、ライバル不在となっていたわけだ。 そんな折、2017年に登場したのが5代目となるシビック タイプR、FK8型だった。そしてWRX STIは今年、これまでの歴史の中でも最も大規模な年次改良を受けてD型へと進化を果たしている。 ならばこの2台、比べてみたくなるのがクルマ好きというもの。果たしてパワーではシビック タイプRが優るが駆動方式はFF。一方のWRX STIもトルクは太くAWDの駆動力の高さがある…この互いの性能を余すことなく引き出すために、今回は千葉県の木更津にある袖ヶ浦フォレストレースウェイに全面的に協力いただき、サーキットでの限界走行も含めて直接比較したのだ! 身体感覚に近いハンドリングが味わい深いWRX STIまずはWRX STIを走らせる。308psの最高出力、43.0kgmの最大トルクよりもむしろ、ボクサーユニットならではの独特の回転感で気持ち良いフィーリングが得られる。低回転ではやや抵抗感がある回転が、上昇するに従って伸びやかに滑らかに回ってレッドゾーンを目指す感覚は何モノにも変えがたい。コーナーへと操舵していくと、フロントのオーバーハングにボクサーユニットが位置するために、他のクルマとは異なる、低く構えた重量物がスッと動く感覚はスバルならではのもの。その後にキレイにボディがロールしていく感覚もやはり独自のテイストといえる。さらにペースをアップしていくと、D型となって変更された点が走りにも違いとして感じられるようになる。 6ポッドとなりカラーもイエローに塗られたブレンボは、実にキレイに、同時に安心感を伴って速度を削り取り、WRX STIのノーズを下げ、コーナリングの準備を始める。転舵に従い、19インチへとサイズ拡大され、銘柄も横浜ゴムのアドバンスポーツV105となったタイヤが、しっかりと路面との摩擦を生みながら横方向への力を発揮して、例の独特のフロントの動きを生み出し、ロールが始まっていく。 ノーズの入り方は、C型よりも明らかに良くなっている。DCCDが完全に電子制御となったこのD型では、コーナリングの中盤の姿勢をしっかりと安定させて旋回していく。そのコーナリングも特徴的だ。 まずノーズがキレイに入っていき、その勢いのままテールが流れていくようにヨーが生まれていくものの、流れ出す寸前くらいで車体の安定が図られる。その先は前述したようにコーナリング中盤を安定して旋回していくので、若干アンダーステアを感じつつコーナリングしていく。つまりコーナー中盤以降は安定性が強くなる。試しにここから踏むとFF的なアンダーステアが生まれることになる。 とはいえ、コーナーに進入していく時の一体感の高いハンドリングは、FFとは大きく異なる、身体感覚に近い自然な動きである。 ボクサーユニットの振動の少ない滑らかな吹け上がりを味わいつつ、FFともFRとも異なる独自のハンドリングを堪能する…かつてのWRX STIに、こうした“味わい”があっただろうか? などと思いつつ、次はいよいよシビック タイプRの番だ。 圧倒的パワー感とFFらしからぬハンドリングのタイプRエンジン・スターターボタンを押すとあっさり目覚めたタイプRのエンジンは、いかにも軽々と回る感覚がある。シフトもレバーが短く、操作感も軽くコクッと入るタイプで、WRX STIと比べると操作系のあらゆるものが軽く感じる。 走り出してまず印象的なのは、なんと乗り心地の良さ。WRX STIよりも大きな20インチサイズのタイヤを履いているにもかかわらず、WRX STIの時とは路面から伝わってくる感覚が異なる。路面が滑らかで平らに感じるし、WRX STIの時のザラついた路面の感じはない。 もっともこれはモード切り替えがコンフォートになっていたからで、スポーツと+Rが選択可能。サーキットだし当然+Rモードを選ぶと、サスペンションは減衰力が高まり、よりダイナミクス追求型へと可変する。もっとも、それでも乗り心地は悪くないのが新型タイプRの凄いところだろう。 同時にステアリングやスロットルもダイレクト感が増す。新型はヒール&トゥを不要とするレブマッチシステムを採用しており、ダウンシフト時にブリッピングをしてくれるのだが、そのレブマッチシステムも通常よりレスポンス良く素早く行われるように変化する。 +Rモードで走り始めてまず印象的なのが速さ。320ps/400Nmは、WRX STIよりもパワーで12ps上回る一方、トルクは22Nm低い。なのになぜ速いのか? 実はWRX STIとシビック タイプRを比べると、タイプRは約100kg軽量。これが相当に効いているのだ。 エンジンのフィーリングは当初感じた通りで、+Rモードになると一層軽く吹け上がり鋭い加速を生む。WRX STIに比べるとサウンドこそ気持ちよく響き渡るものの、回転感に情緒的なところはなく、まるでモーターのように回転が上昇し、とにかく速さを痛感する。その意味において、パワー感は圧倒的にシビック タイプRに分がある。 ハンドリングも驚かされた。タイプRはFFなのだが、袖ヶ浦フォレストレースウェイではFFであることをほとんど感じさせない。特に中速コーナーでは、コーナリング中でも操舵していくとグイグイとノーズが入っていくほどで、とにかくキレイなコーナリングフォームで曲がっていくことに驚かされる。いかにリアのマルチリンクサスペンションが良く動いているかの証だろう。もっともこの時には、アジャイルハンドリングアシスト等も相当に効いているはずだ。 結論としてはFFでも実に気持ちよく曲がるハンドリングを持っていることは確かで、ここはFF=曲がらないという常識を覆される。 唯一FFを感じるのはタイトなコーナー。ここでアクセルを早く開けるとフロントタイヤは空転してコーナーの外側へとふくらんでいく。しかしながら、それ以外のシーンではFFならではのトルクステアはほぼ皆無であり、実に見事にトラクションがしつけられていると感じたのだった。 2台のキャラクターは長い時を経て入れ替わったシビック タイプRは、速さと扱いやすさを兼ね備えた新世代のホットハッチになっていた。正確にはホットハッチというよりも、もう1ランク上のしっかり感を伴っている点も注目できる。これは全幅1875mm/トレッド1600mmと、WRX STIの全幅1795mm/トレッド1530mmと比べてもワイドなところからくる踏ん張りの良さや、新たなプラットフォームのしっかり感が効果を上げているからだろうと思える。そして、これほどのしっかり感がありながらも、走らせた時には軽快で速いのだから舌を巻く。 2台を走らせて感じたのは、2台のキャクターが長い時間を経て入れ替わった、ということだ。かつてはWRX STIが情緒よりも力と速さが生み出す性能を重視した存在であり、シビック タイプRは軽量化と究極のNAで研ぎ澄まされた存在だった。 しかし現在の2台を実際にサーキットで走り比べると、シビック タイプRの方が情緒よりも力と速さが生み出す性能を重視した存在であり、WRX STIは速さとともにエモーショナルな部分を大切にした存在になった感がある。 というか、WRX STIも開発年次を考えるとシビックの新世代プラットフォームよりは古いものであり、それがゆえに操作系から感じる部分にアナログ的な感覚があるため、速さよりも機械の作動感や回転感などの気持ち良さが存分に伝わるものだったといえる。 今回はタイプRが速さを見せる位置につけたが…これに対してシビック タイプRは、新世代プラットフォームによるシャシーの高性能とエンジンの速さ、そして様々な制御の巧みさが相まって、WRX STIと比べると軽い操作系で操って速さを生み出すあたりにデジタル的な感覚がある。そしてこれによって、情緒よりもとにかく速さを生み出している存在と感じられたのだった。 現在、最新モデルであるシビック タイプRと、既に登場から3年が経過したWRX STIの間には、様々な差があるのは事実だ。特にその速さに関しては、やはり新しいクルマにアドバンテージがある。 しかし、そこで改めて気づかされるのは、かつてWRX STIが情緒よりも力と速さ重視だった頃には気づかなかった(というよりは当時は速すぎて気づけなかった)、スバルのテイストが存分にあること。ボクサーの回転感しかり、このエンジンを積むからこその回頭感しかり、そしてAWDを使って進化させてきたハンドリングなどに、存分なスバルらしさがあることに気がついたわけだ。 そして今回、何より良いことだと思ったのは、シビック タイプRがそのコンセプトを変化させて、WRX STIと並び立ち、さらにはアドバンテージを見せる位置につけたこと。 FFとAWDという駆動方式の違いこそあれ、2.0Lターボエンジンを搭載するホットなスポーツモデルとしては、今後はお互いを意識していく可能性が生まれたからだ。 WRX STI開発陣は新型タイプRを相当に気にしている聞けばスバルのエンジニアたちは、このシビック タイプRのことを相当に気にしているという。確かに同じセグメントで同じ排気量。そしてかつては開発の場として頻繁に使っていたニュルブルクリンクでFF最速を達成しているのだから、気にならないわけがない。今回比較した僕自身も、シビック タイプRは次期WRX STIの開発に大きな影響を及ぼすだろうと思うし、それ自体とても良いことだと思う。 WRX STIはランエボが消滅したことで、ともに競い合うライバルが不在となっていた。ともすれば、ライバルがなくなったことで、目指す地平も違ってくる。 その意味ではシビック タイプRが登場したことで、少なくとも次期型ではこうしたFFの2.0Lターボを上回るようなベンチマークも考えるはず、と思えるからだ。 先に記した通りで、プラットフォームはシビック タイプRは新世代だが、WRX STIは今後、スバルの新世代プラットフォームであるSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を用いた新世代モデルとして登場することになる。 その時には、現状のシビック タイプRを超えるポテンシャルが与えられるのは間違いない。シビック タイプRは現状で、電動ウェイストゲートやレブマッチ、さらにアダプティブダンパーを備えているが、こうしたものは当然、次期WRX STIで採用してくるだろう。その上でさらに、プラスαの武器を搭載してくるはず…というのは、僕の勝手な想像だが、スバルのエンジニアたちもそんなことは当然考えているはず、と思える。 そして実はシビック タイプRやスバルWRX STIは、お互いだけを意識している場合でもない。世界ではルノー・メガーヌをはじめとして、様々なモデルがこのクラスの頂点に輝こうと走りを磨いている。 そう思うと、こうした走りのモデルたちによる熱い戦いは、この先もまだまだ続きそうである。クルマ好きにとっては、これは嬉しい流れである。 【直接比較】ホンダ・シビックタイプR vs スバルWRX STI スペック【 シビック タイプ R 】 【 スバル WRX STI タイプS 】 |
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