ミニバンではマツダの目指すクルマづくりができないCX-8は2.2Lディーゼルエンジンを搭載する3列シートのクロスオーバーSUV。シートは2-2-2配列の6人乗りと、2-3-2配列7人乗りの2種類を用意する。ミニバンのビアンテはすでに生産終了。プレマシーもカタログ落ちが決まっているなか、マツダ車として唯一の3列シート車がこのCX-8となる。 セレナやノア、アルファードなど、日本ではいまなおミニバンが高い人気を保っている。そんななか、なぜマツダはあえてミニバンをフェードアウトさせ、SUVに絞ってきたのか。この疑問に対する回答はおそらく二つある。一つめはライバルのミニバンとガチンコで戦うモデルを出してもおそらく勝てないだろうという消極的な理由。二つめは、おそらくこれがマツダの本音でありポリシーだと思うのだが、ミニバンというジャンルではマツダが目指すブランド価値やクルマ作りができない、という判断だ。 先代CX-5以降のマツダ車は、カッコよさにとことんこだわっている。先の東京モーターショーでは、「VISION COUPE」と「魁CONCEPT」という2台のコンセプトカーを展示し、カッコよさへのこだわりをさらに極めていくことを宣言した。一方で、多人数乗車を必要とするユーザーがいることも事実。ではどうすればマツダらしいデザインと多人数乗車を両立できるのか。その答えとして浮上したのが3列シートSUVというわけだ。 事実、CX-8はとてもスタイリッシュなクルマだ。デザイン面で高い評価を獲得しているCX-5と比べても、決して見劣りしない。軽快感やスポーティーさではひと回り小さいCX-5が優勢だが、サイドビューの伸びやかさや上質感はCX-8が優っている。どちらが好みかは人それぞれだが、スタイリッシュさという点では優劣つけ難い。たとえばプレマシーとCX-5を並べて「どっちがカッコいいですか」と聞いたら、ほとんどの人は即座にCX-5を指差すだろう。ところがCX-5とCX-8なら迷える。迷えるぐらいカッコいいにもかかわらず、多人数乗車を可能としているのが、CX-8のまずは大きな魅力である。 CX-9の内部構造を使いつつ幅は日本向けサイズにCX-8のボディサイズは全長が4900mmで全幅が1840mm。CX-5に対して355mm長いが(うちホイールベース延長分が230mm)、全幅は同じ値にとどめている。この数字が、マツダの考えた「日本向け3列SUVの適正サイズ」である。というのも、実はマツダは、CX-9という3列シートSUVをすでに海外で販売していた。メインマーケットは北米だが、オーストラリアでも販売しているため右ハンドルもあり、それをそのまま日本にもってくるのがいちばん手っ取り早い方法だった。しかし問題となったのはサイズだ。なにしろ全長は5mを優に超え、全幅も2mに迫る。いくらなんでも日本では大きすぎるということでCX-9の導入は見送られた。 そこで次に検討したのがCX-5のストレッチだ。ホイールベース、もしくはリアのオーバーハングを伸ばし、生まれたスペースにサードシートを設置すれば、比較的簡単に3列シート化が可能になる。しかしそこは走りとデザインにこだわるマツダ。単なるホイールベースの延長ではボディ剛性が不足する、リアオーバーハングの延長ではデザイン上の制約が大きくなるということで却下。 そうして浮上してきたのがCX-9の小型化案だった。グリルの意匠こそ違うものの、フロントセクションのデザインが共通のため、CX-5のストレッチ版と思われがちなCX-8。しかし実のところ内部構造はCX-9に近い。2930mmというホイールベースもCX-9と同じだ。そう、大きく重いボディを前提に十分な剛性を与えられたCX-9の内部構造を使いつつ、幅を1840mmまで縮めたのがCX-8というわけである。 内装はフラッグシップの名に恥じない仕上げCX-8の非常に手の込んだ作り方は、進化したSKYACTIV-Dとあいまってドライブフィールにも大きなメリットを与えているが、そこは後述するとして、まずはCX-8のウリのひとつである室内空間をみていこう。 1列目は基本的にCX-5と同一。マツダが重視する適切なドライビングポジションは健在だ。仕上げの面では、アテンザを超えマツダ車のなかでは最高価格となったモデルだけに、質感向上のためのアイテムが数多く投入されている。なかでも、ユーノス・コスモ以来マツダとしては20年ぶり! という本目パネルはとてもセンスがいい。ちょっと抑えめのカラーと上品な模様が表現しているのはモダンで暖かみのある上質感。ホテルで言うなら、伝統的なクラシックホテルの調度品ではなく、リッツカールトンのようなモダンラグジュアリー系のインテリアを連想させる。 ナッパレザーをふんだんに使ったシートも素晴らしかった。上質なハンドバッグに触れたときのような気持ちよさを味わえるし、見た目も、そしてもちろん座り心地も文句なし。フラッグシップモデルの名に恥じない仕上げを与えようとした開発陣の意気込みがストレートに伝わってくる。 観音開きタイプのアームレスト付きセンターコンソールボックスもCX-8専用品だ。みた目の上質感も使い勝手もCX-5のものより優れているのだが、もう少し前方までせり出してきてくれたほうが運転中のリラックス感は高くなる。とはいえカップホルダーとの干渉もあるので、スライド機構を付けてやるのが最善の方策だろう。このあたりは今後の改善に期待したい。 3列目の快適性は想像以上。安全面を含めて実用に足る2列目シートは3人掛けのベンチタイプもあるが、今回試乗した最上級グレードのXD Lパッケージは2人掛けのセパレートタイプ。座り心地と見た目の上質感という点でやはりセパレートタイプは魅力だ。このシートは前後に最大120mmスライドする。リアモスト時には膝を組んでリラックスできる広さがあるし、3列目に誰かを乗せるときは前方にスライドさせればいい。 3列目へのアクセス性は、SUVであることを考えれば悪くない。2列目シートの肩口にあるレバーをつかむとシートバックが倒れつつ前方にスライドするから、空いたすき間から乗り込めばいい。スライドドアではないし、フロアも若干高めだからミニバンほど楽々というわけにはいかないが、決して嫌気が差すほどではなく、むしろ「案外楽に乗り降りできるな」という印象をもった。もちろん、フロアコンソールなし仕様を選べばウォークスルーが可能だ。 3列目の快適性は想像以上だった。ひざ元、頭上ともに身長170cm程度の大人なら無理なく収まる。シートクッションの厚みもしっかり確保しているから、1時間程度のドライブなら何ら痛痒は感じない。ただし座面に対して床が高めなので体育座り的な着座姿勢になるのはマイナス項目。1時間を超えてくるとさすがに足を伸ばしたくなってくる。もちろん、小柄な女性や子供であればそれほど違和感はないだろうが、3列目シートの快適性はやはり四角くて背の高いミニバンには及ばない。とはいえ、法律では定められていない「80km/hでの被追突試験でも3列目乗員の生存空間を確保する」という強固な設計は大きな安心に繋がる。安全面を含め、実用に足る3列シート車であると報告できる。 多人数乗車はしないが、より大きなラゲッジスペースが欲しいという人にもCX-8はアピールするだろう。3列乗車状態でも239L(VDA法、以下同)という実用的なスペースをもっているが、3列目を畳めば572Lという巨大なスペースが現れる。ベンチシート仕様なら2、3列目を倒すとフラットな空間も手に入る。 CX-5より1クラス上のクルマに乗っているような上質感マツダの国内フラッグシップであるからには、走りでも手を抜けない。とくに静粛性と乗り心地には徹底的にこだわったという。実際に走り出すと、たしかに静かさに驚く。エンジンはもちろん、風音やロードノイズがかなり低く抑えられているのだ。加えて、人の声に近い周波数のノイズを選択的に抑え込むことによって、会話のしやすさを向上させたという。実際、運転しながらサードシートに座っている人と会話をしてみたが、声を張らず、ごく普通の声量で十分にコミュニケーションがとれた。 ドライブフィールはCX-5とは方向性がやや異なる。思い通りに操れる感覚の追求という意味では同じだが、大きく重くホイールベースも長いこと、また上質感を重視したキャラクターであることから、よりどっしりした重厚感を伝えてくるのだ。これは走りだした直後から感じることで、CX-5から乗り換えたら1クラス上のクルマに乗っているかのような印象を受けるだろうし、逆にCX-8からCX-5に乗り換えたら、軽快でスポーティーなクルマだなと感じるはずだ。 とはいえ、決して鈍重ではない。重さがいい意味での上質感に結びついていると言えばイメージしやすいだろう。事実、ステアリング操作に対してノーズは遅れなく反応するし、コーナーでの安定感やステアリングインフォメーションもしっかりしている。とにかく、運転していて後方に長いものを引きずっている感覚をまったく与えないのがCX-8の長所だ。快適な高速走行を終え、ワインディングロードにさしかかっても、ドライバーがプレッシャーを感じることはない。むしろ、イメージ通りのラインをきれいにトレースしていくハンドリングに気持ちよさを感じるはずだし、修正舵が少なくスムースに走るため、同乗している家族や友人もリラックスできる。 大幅改良されたSKYACTIV-Dが想像以上の進化を見せる最後に報告しておきたいのが想像以上の進化を見せたSKYACTIV-Dだ。CX-8はCX-5より約200kg重いが、新型インジェクターや可変ジオメトリーターボの採用によって最高出力が175psから190psに、最大トルクは420Nmから450Nmに向上。中速域でのトルク特性も改善され、結果として重量増を感じさせない逞しい走りを手に入れている。ディーゼルとは思えない軽快な吹け上がりはそのままに、200kg軽いCX-5とほぼ同等の燃費と、より向上した静粛性を備えているのも朗報だ。おそらくこの大幅改良型エンジンはいずれCX-5にも搭載されるはずで、200kg軽いボディとのコンビがどんな走りを見せてくれるのかも楽しみだ。 実用的な3列シートと上質な走りを美しいデザインで包んだCX-8は、多人数乗車モデルの魅力を再定義する意欲作だ。家族とともに出かけるときはミニバン的な実用性が活きるし、一人、あるいはカップルで乗るときは、スタイリッシュなSUVとして優雅に振る舞う。つまりCX-8は、父親である貴方を瞬時に一人の男性に、あるいは母親である貴女を瞬時に一人の女性へと変身させてくれる存在ということだ。たとえば結婚記念日にはドレスアップして夫婦だけで素敵なレストランに食事に行くとか。CX-8を手に入れたら、たまにはそんな艶やかな時間を楽しんでいただきたい。 スペック【 CX-8 XD Lパッケージ(4WD) 】 |
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