まずは主張の強いデザインに拍手を送りたい1989年に北米で産声を上げ、05年より日本にも展開されたプレミアムブランド「レクサス」。ライバル勢からすればその歴史は浅いが、圧倒的な商品力から短期間に存在感を示すことに成功した。 その原動力が初代「LS」で、高級車のクルマづくりを根底から変えたと言われるほどの圧倒的な静粛性を備えていた。2代目LSも、静粛性はもちろん乗り心地を含めた乗り味をハイブリッドシステムという武器を使い、またもや進化させて世を驚かせた。特に後席に乗るショーファーカーとしてオーナーの心を強く掴んだ。 さあ、今回はその続きのシナリオだ。11年振りにフルモデルチェンジされた新型LSはどのような世界を見せてくれるのか? そこには、レクサスがこれから進もうとする未来が表現されているに違いない。新型モデルとしての完成度にも興味があるが、ブランドを大事にしているメーカーの試乗会では、こうしたストーリーを読み取るのも大切だ。 すでに銀座などでは新型LSが存在感を漂わせながら走り出している。主張が強いデザインだから苦手な人もいるだろうが、プレミアムブランドはそれでいい。誰もが受け入れられることより、特定の感性に鋭く刺さるデザインであるべきだし、そこにあるのに気付かれないようではダメだ。周りのクルマに埋もれることなく目に飛び込んでくるLSの、まずはデザインに拍手を送りたい。 ハイブリッドの標準モデルが先代FスポーツよりスポーティLSには「GA-L」というひと足早く登場したフラッグシップクーペ「LC」と同じ新プラットフォームが使われている。そのワイド&ローな基本骨格のおかげで、LSもボンネットが先代より30mm、トランク部が40mm、全高が15mm低くなった。フロントタイヤから後ろのフェンダー部が広いロングノーズフォルムを手にして、ノーマルグレードでもスポーティな印象を抱かせる仕上がりになっている。 エレガントさも持ち合わせてはいるが、新型は“あまり主張したくない”“目立ちたくない”“さりげなく高級車に乗りたい”という層よりも、ゴージャスであることを好む層に向けて仕上げてきた印象だ。 この見た目の印象こそ、新型LS、いやレクサスの回答なのだろう。それは走り出すと即座に確信に変わった。LSが手にしようとしたのは、エレガントというよりスポーティな世界、もっとハッキリ言えば運転したくなる世界だと。 座った瞬間は、寄木細工を思わせる精巧なウッドパネルや、織物として仕立てられた内装、さらには切子ガラス加工が施された加飾など、世の中のどの高級車にもない“日本らしい”という表現を使いたくなる空間が出迎えてくれて好印象だ。こうした日本の匠が作り出した内装、室内の雰囲気を味わいたくて、LSに乗るという人もいるだろう。 走りも同様だ。感覚としては新型で最も穏やかなキャラクターとされるハイブリッドの「LS500h」のノーマルモデルのほうが、先代の「Fスポーツ」以上にスポーティなのだ。各操作に対するクルマの反応がハイサルーンカーとは思えないほど身体感覚にフィットする。クルマがひと回り小さく感じられるので、運転がとてもしやすい。その反面、今までLSが世界に誇ってきた静かで上質な乗り心地という特徴は、とても弱くなっているのだが…。 …回りくどく言っても仕方ない。今回のLSは運転手付きで乗るショーファーカーではなく、運転して楽しいドライバーズカーとして仕立てられた印象を受けた。 特に先代LSユーザーは後席の乗り心地を確認しておこうシステム出力で359psを発揮する、3.5Lガソリンエンジン+モーターのマルチシリーズハイブリッドを搭載する「LS500h」に公道で試乗する。メカニカル4ATと2つのモーターを組み合わせた電気CVTにより、仮想10速ATであるかのごとく走るのはLCと同様だが、その変速制御はLSでは幾分エレガント基調に振られている。それでもなおドライバーズカーとしての印象が強いと言ったら、LSの乗り味がかなり攻めたものであることは想像がつくだろうか。 LSには3.5Lターボに10速ATを組み合わせた「LS500」もある。両者を比べると、ハイブリッド版のLS500hはエレガントな乗り味に仕立てられている。つまり、ショーファーカーのニーズを満たすのはLS500hの役目のはずだが、そのモデルがドライバーズカーとして仕上がっている。 先代LSをショーファー付きで乗っていたユーザーは、新型LSの音や乗り心地について、後席試乗して確認することをオススメする。停まっている段階では、優しく包み込むようなシートのおかげで先代よりも大幅に印象が良い。しかし荒れた路面の低速走行ではかなりの微振動があり、また突き上げや振動から来るノイズも無視できない。快適性では先代LSの方が上と思えてしまうのだ。 LSは今買いか? 快適性を重視するなら待ってもいいそんなこともあって、まだナンバーが取れず、サイクルスポーツセンター内のみの試乗となった「LS500」の印象が、走り好きとしてはとても良かった。デザインやシャシー全体のスポーティな仕上げに対して、最大出力422ps、最大トルク600Nmを発揮する新開発3.5Lガソリン直噴ターボの素性が合っている。重厚感を重視したLS500hに対して、軽快感や意のまま感を重視した印象で、特に曲がり出してからの路面への張り付き感が抜群、ボディの大きさを忘れさせるほど気持ちよく、的確に軽快に走れる。 Fスポーツになるとそれはさらに強化され、ハンドルの初期操舵に過敏な傾向はあるものの、スポーティな走りが好きな人にはオススメだ。ちなみにFスポーツではないLS500の4WDモデルでは、前輪が効果的にクルマを引っ張る動きが加わることで、旋回時の過敏さが消えたうえに安定感が底上げされる、最も好みの乗り味に仕上がっていた。 しかしそんな「LS500」もまた、「LS500h」同様に例の走行振動を抱えている。考えられる原因は大きく2つ。1つ目は不思議なほど硬いランフラットタイヤ。2つ目はLCから引き継いだとは言え、セダンとして初めて手がけるプラットフォームを最初から完璧に使いこなすのは難しいのだろうという事。新規プラットフォームの熟成は時間が掛かる。クルマが完成して走らせてから気がつくことも少なくなく、改善や変更が間に合わない要素も多数あるはずで、プラットフォームの癖を把握し、使いこなすまで一世代はかかるというのが業界のセオリーだ。 ドライバーズカーとしての魅力の追及は、今後のレクサスらしさの本質となる部分だろう。しかしハンドリング特性を磨く一方で、思いのほか乗り心地や快適性を悪化させてしまったというのが、今のLSの状況ではないかと読み取れる。もちろん、乗り心地も快適性も、レクサスが世界に誇る技術を持つ分野。ランニングチェンジで良くなるのは容易に想像できるが、現実問題として最後にいまLSは買いだろうか? この質問には、新型に乗っている優越感を味わいたい人、ドライバーズカーとしてのハイサルーンカーを求める人、個性的なデザインや芸術品のような匠の技によるインテリアに魅了されたのなら買いだ。 逆に、後席中心に使う人、走行振動や突き上げや、ノイズが集中する60km/h以下の中低速ドライブが多いという人、さらに荒れた路面環境が多い人は、LSの熟成をもう少しだけ待っても良いかもしれない。 スペック例【 LS500h 】 【 LS500“Fスポーツ” 】 |
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