世界的なEVシフト、間違いではないが覇権云々はまだ先の話昨年後半からとかくメディアで話題となったのが世界最大となる中国マーケットや欧州自動車メーカーの“急速”なEV(電気自動車)シフトについてである。筆者は海外に行く機会はあまり無いので適当なことは言えないが、少なくともそれぞれのエリアに信頼できる知人がいる。昨今はSkypeなどのネット電話を利用すればリアルな生声も手に入る。そんな知人達の情報を信じれば確かにその流れは始まろうとしているという。ただ実際、EVを街中で見ることはまだそれほど多くないし、欧州にいる知人曰く「国土が狭い日本の方がEV、特に日産リーフは目立つんじゃない?」と逆に意見されるほどだ。 ただ、日々取材をしていて感じるのは、メーカーひとつを取ってもいわゆる“大企業”ゆえに色々な考え方の人がいる。実際、某欧州メーカーの開発者に話を聞いた際には必ずしも諸手を挙げてEVシフトが正答かどうかは予測できない、と言っていた。 やや話が横道に逸れたが、それでもEVの波は確実に日本市場にも影響を及ぼしつつある。これはこれでひとつの選択肢としてはユーザーにはありがたいことだ。問題はこの流れをマスコミ(自分も一応そこに含まれている)が、あたかもEVが覇権を握るかのような報道を連日行っていたことだ。実際のEV開発や導入と、日本市場における将来図とは切り離して考える必要があると常々感じている。 航続可能距離301km。紆余曲折はあったがきちんと仕上げてきたそんな中、東京モーターショーに合わせるように2017年10月19日に発表されたのがVW初のピュアEV「e-ゴルフ」である(同時にプラグインハイブリッドの「ゴルフGTE」のマイナーチェンジ版となるモデルも発表)。 VWとしては2014年10月にe-up!とe-ゴルフを発表。当初2015年2月から受注開始の予定だったが、すべての急速充電器へシステム上の対応ができなかったこともあり、結果としてデリバリーを延期した。さらに2016年1月にe-up!の導入を中止するなどつまずいた印象も受けたが、当時としては賢明な選択だったと思うし、その分先進安全装備などにリソースを振り分けたと思えばある程度納得はいく。紆余曲折はあったものの、今回登場したe-ゴルフは急速充電規格である「CHAdeMO」はもちろん、今後の普通充電における新規格である6kW(現状は3kW)仕様にも対応している。 搭載するバッテリーは35.8kWh、カタログ上の航続可能距離は301km(JC08モード)である。新型リーフとの比較も気になるが、日本で個人向けに販売されるピュアEVとしては三菱i-MiEV、日産リーフ、BMW、テスラほか数えるほどしかない。そう考えればよくぞこのタイミングに間に合わせたと割と好意的に取ることができるのである。 カタログ値と“実電費”の乖離は大きくなさそうだが…乗り込む前にエクステリアを確認すると「これがVWのEVである!」という自己主張は控え目。悪くはないけれど、もう少し演出はあってもいいと思う。遠目から見た時、専用のアルミホイールを一瞬「まさかホイールキャップじゃないよね」とか勘違いしてしまう自分の情けなさもあるが、電費を向上させるために空気抵抗を減らすための専用化であることに納得する。 インテリアも同様で基本はガソリン車のゴルフと造形は同じ。マイナーチェンジでレベルアップした純正インフォテインメントシステムである「Discover Pro(ディスカバープロ)」も標準装備される。 今回、試乗時間がその日の最終枠だったこともあり充電量はそれほど多くはなかったのだが、そこから逆算してみるとカタログ値とほぼ同じ距離の約300kmを走れることに驚いた。もちろんあくまでも最初の表示はその時の最大数値で、そこから実際に走り始めると航続可能距離はそのドライバーの走り方に応じて増減する(基本は大きく減っていく)。同業者に聞いても、どうやらその考えはほぼ間違いないようで、日産リーフが400kmの航続距離を謳いながら満充電でも312km以上の数値を見たことがない筆者としては、e-ゴルフの実用性に期待すると同時にJC08モードの建前論にまたもや悩まされることとなった。 ドライブモードと回生ブレーキ量をコントロールする楽しみ加速に関してはEVらしいスムーズさを十分感じ取ることができる。まずポイントは3種類あるドライビングプロファイル機能をどう使いこなすか、である。この機能は「ノーマル」「エコ」「エコ+」の3段階から選べるが、制御自体がはっきり分かれている。VWによれば通常は「ノーマル」で走ることを推奨しており、航続距離が足りなくなってきたら「エコ」や「エコ+」に切り替えると良いそうだ。 実際、最高速度もノーマルで150km/h、エコで115km/h、エコ+においては90km/hに制限される。エコ+では動力性能が制限されるとともにエアコンもオフになるというまさに「最後の手段」という位置づけのようである。 ノーマルモードでは少しアクセルを踏み込むだけで「ビューン」というEVらしい加速を得ることができるが、エコ→エコ+と切り替えていくとシステム出力の低下とともに加速力も落ちていく。もちろんエコ+で走行中でもグッとアクセルを踏み込めばフルパワーで加速するように設計されているので、高速道路への合流などで加速を求められるシーンでも心配しなくていいだろう(当然ながらバッテリー残量はその分だけ減る)。 これに回生ブレーキのレベルを選択することで、自分の走り方がわかってくる。回生は標準のDレンジでは無く、ゆえに減速もあまり行われない。感覚的にはコースティングモードのような走りとなる。ここからシフトレバーを左右に動かすことでD1からD3まで、さらに手前に引くことで最大の回生量を得ることができるBモードに入れることができるが、これは下り坂などで減速と充電を最大限に得ようとする時に使うモード。実際これでストップ&ゴーの多い一般道を走ったらギクシャクしてしまい、どうもしっくりこない。 前述したDモードは高速道路や流れの良い郊外路での使用が感覚的に合っており、市街地ではD1~D3を使うことで、ドライビングプロファイル機能と併せ自分の走り方と電費とのバランスを見つけることができるはずだ。余談だがモード切替による減速力自体は結構強いのでD2以上ではアクセルオフでブレーキランプが点灯するそうだ。後続車もいきなり車両がブレーキランプ無しで減速したら違和感を覚えるはずだからこういう仕掛けはやはり必要だしありがたい。 電動パワートレーンとACCの相性はバッチリ乗り心地に関しては、そもそもエンジンのような大きな重量物を持たないピュアEVのメリットであるフロント周りの軽さからくる自然な操舵感覚が魅力と言える。高速道路の目地を拾った際の突き上げにおいてもボディへの振動の少なさよりステアリングに伝わるショックが本当に少ないことに驚かされる。同様にEVゆえに静かで会話明瞭度は当然高くなるし、好みにもよるがオーディオの聞こえ方も違ってくる。 高速道路を走行した際は昨今のトレンド? というかACC(アダプティブクルーズコントロール)を使えばさらに快適だ。当然のことながらe-ゴルフには「フォルクスワーゲン・オールイン・セーフティ」に基づく先進安全装備が標準装備されている。特に印象に残ったのは、ACCを使っている時に前走車を捉えた際の加減速感がなんともたまらない位スムーズなこと。EVはより細かな出力制御が行えることでACCとの相性は元々良いと感じているが、e-ゴルフは相性バッチリである。 標準装備される純正インフォテインメントシステム「Discover Pro」も先行するゴルフのマイナーチェンジでディスプレイサイズを8インチから9.2インチに拡大、全面フラットなタッチパネルにすることで見た目の良さも向上している。特にe-ゴルフに関しては従来からあるテレマティクス機能である「Guide&Inform」による優れた検索機能のほか、スマホを活用したバッテリー予約充電システムなどが行える“e-Remote”をプラスしている。 日本では実験的なスタートと言わざるをえないピュアEVとしての完成度はかなり高く実用性も十分と感じたe-ゴルフであるが、それでもお願いしたい部分は結構ある。冒頭で述べたようにVWはピュアEVの導入で一度「待ち」の状況を作っている。企業として導入には慎重に慎重を重ねたいのかもしれないが、ちょっと「フィジビリ感(フィジビリティスタディ=実行可能性調査あるいは採算性調査)」が強い。例えばボディカラーはパールホワイト一色のみ、紙のカタログは現状無し、ディーラーとの商談はまずネットからといった具合だ。クルマの性格には合っているだろうが、それでもボディカラーが一色というのはあまりにも控え目過ぎないだろうか。 また車両周辺、言い換えればインフラなどがまだまだ物足りない。特に急速充電を行う際に必要となる充電カードが現状ではNCS(日本充電サービス)のカードに入会するか、その都度支払うしか方法がないからだ。日産リーフは月々2000円で急速充電器が使い放題のサービスを展開しているが、e-ゴルフはまだ未確定だ(今年4月頃には明らかになるという噂もある)。昨今は自宅に充電器が設置できる方だけではなく、マンション住まいでも使えるインフラが整備されることで販売にも弾みがつき始めている。e-ゴルフにも何らかの付帯サービスを期待したい。 最後に本来17万2800円のメーカーオプションとなる「テクノロジーパッケージ」だが、2018年3月30日までに登録すれば無料になるキャンペーンを行っているという。12.3インチの大型フルデジタルメータークラスターに加え、ダイナミックコーナリングライトなどがセットになっている。宣伝臭くなってしまうが、将来のリセールバリューも考えたらこちらを選択したほうが絶対にお得であることは間違いない。 スペック【e-ゴルフ】 |
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