マイナーチェンジで先進安全装備やエンジンを刷新「メルセデス・ベンツ Sクラス」がマイナーチェンジした。Sクラスは昔から“お金をかければクルマはここまでよくなる”という高級車のお手本として長らく存在してきた。メルセデスは高級車であるという世間の印象のかなりの部分は歴代Sクラスが構築したと言えよう。動力性能、安全性、快適装備…あらゆる方面でいくつもの新機軸がこのクルマで初めて実用化され、その後多くのクルマへと“下りて”いった。テレマティクス関連の新機能追加と先進安全快適装備の進化、それにエンジンラインナップの変更がこの度のマイナーチェンジの内容だそうで、“最新版のお手本”で東京~軽井沢を往復した。 今回、スタイリングはさほど大きくは変わっていない。細かく見れば、ヘッドランプユニット内に片側3本ずつの光ファイバーが用いられ、そこが流れるウインカーとなって光るようになった。リアコンビランプもLEDを多用した複雑なデザインのものに。フロントのスリーポインテッドスター(のロゴというかエンブレム)について、セダンはボンネットフード先端に小さく、クーペはフロントグリル中央に大きく、という使い分けのルールが崩れて久しいが、Sクラスのそれは最新版でも昔ながらの位置にある。やはりセダンはボンネットの先にちょこんとオーナメントが載っかっている、いわゆる“エレガンス顔”がいいなと古いクルマ好きとして思うのだ。 往路でテストしたのは「S560 4MATIC ロング」。4MATICは4WD、ロングはロングホイールベースを意味する。560は1979~91年に売られたW126型Sクラスの後期に使われていた数字であり、今回の復活を懐かしむ声が周囲の多くの年長者から聞こえてきた。新型S560はマイナーチェンジ前にS550と呼ばれていたモデルの後継の位置づけで、4L V8ターボエンジンが載る。これまでの4.6L V8ターボに比べ排気量は減っているが、数値上はパワー、トルク、燃費のすべてが向上している。 世のおじさんたちはクルマを見ると条件反射的に「それ何cc?」と質問する。自然吸気エンジン中心の時代は排気量が大きいほどパワフルだったからだ。しかしターボエンジン全盛の今となっては排気量を聞いただけで力強さや性格を推し量るのは難しい。メルセデスの車名に用いられる数字ももはや排気量とはほとんど関係がなくなってきたが、車名の数字が大きいほど速く、高価だということは言える。 新しいディストロニックで車線変更アシストにも対応さてSクラスを高速道路で走らせるというのは、クルマで行う最も快適な行為のひとつだ。加速、減速、コーナリングのどれをとっても、操作に対しての反応が過敏でも鈍感でもなく、一切の予期せぬ挙動がなく、思ったとおりの動きをしてくれる。4L V8ターボは直噴でバンクの内側にターボを配置する今風のエンジンで、最高出力469ps、最大トルク71.4kgmと、車両重量2220kgに対しても十分なスペックをもちあわせているが、速さ、力強さなどをドライバーに主張するわけではなく、ただただスムーズに加速、巡航させてくれ、ドライバーにストレスを与えない。9速ATも完璧に裏方をこなすがゆえに存在感がない。常に適切なギアをショックなく選び続けるだけ。念のために報告しておくと、スペックに見合うだけの制動力も備わっていた。クルマが全方位的によいと書くことがないという典型例だ。 現行Sクラスの上位モデルには、フロントガラス上部のカメラでこれから走行する路面の凹凸を検知し、ダンパーの減衰力を最適化するマジックボディコントロールが備わる。これにはコーナリング時に車体が内側に傾いて、乗員が車内で外側に傾くのを防ぐダイナミックカーブ機能も含まれるのだが、テストしたS560の場合、これはオプションで、テスト車には装備されていなかった。つまり路面の入力を受けてから対応するほかのほとんどのクルマと同じ足まわりなのだが、十分に快適だった。一般道でも高速道でも。交互に乗り比べない限りマジックボディコントロールなしでも不満を感じないはず。 メルセデスがインテリジェントドライブと呼ぶ先進安全、快適装備は、モデルチェンジのタイミングのために部分的に「Eクラス」のほうが先んじていた部分があったが、今回のアップデートでSクラスもメルセデス最先端の先進的装備が付くようになった。高速道路でアクティブディスタンスアシスト・ディストロニック&アクティブステアリングアシストを試す。 いわゆるACCだが、いち早く実用化したメルセデスのそれは動きが自然。割り込みに対する対応も上手で、怖さを感じさせない。先行車の停止に合わせて停止した後、停止時間が30秒未満(高速道路の場合、一般道は3秒)であれば、先行車の再発進に合わせてドライバーの操作なしで自車も再発進するようになった。車線、先行車の動き、ガードレールなどを検知し、ステアリング操作をアシストしてくれる(ごく低速なら手を離しても機能が続く)。ステアリングアシスト機能が作動している時にウインカーレバーをちょこっと動かして数回点滅させ、ステアリングをその方向へ少し切れば、車線変更をサポートしてくれる(事実上、ステアリングに手を添えてさえいればやってくれる)。 リモート駐車などSクラスだけが搭載する機能もこのほか、書ききれないが、他社製品に付いていているこの分野の機能はほぼ付いているいっぽう、Sクラスに付いていて他社製品にない機能は多い。 新たにメルセデスミーコネクトというデジタルカーライフ関連のコンセプトも取り入れられた。いくつか機能があって、例えばリモートパーキングアシスト。アシストとあるが、これはリモートパーキングだ。あらかじめアプリを入れたスマートフォンやタブレットを使うことで車外からSクラスを縦列駐車、並列駐車させることができる(出庫も可能)。低速走行中にシステムが道路脇の駐車可能スペースを検知したら停止し、ドライバーはクルマを降りる。クルマの近くでスマホの画面をぐるぐると回すと、Sクラス自らが認識したスペースに縦列駐車、あるいは並列駐車してくれる。必要なら自動的に切り返す。ドライバーはただぐるぐる回し続ければOK。早くても10秒、20秒かかると聞くと、自分でやったほうが早いと考える人もいるだろうが、ミラーを閉じた状態で車幅+60cmの隙間があれば駐車可能(並列駐車の場合)なので、駐車するとドアを開けられないほどのスペースしかない場合、降りてこのアシストを使えば便利というわけだ。ただそうすると両脇のクルマへ乗り込むことが…それはまぁ…早く多くのクルマに同種の機能が備わるようになるといいな。 また、アプリで車両ステータス(走行距離、燃料、平均燃費など)を確認できたり、自車位置を表示させたりもできる(大きな駐車場でどこに駐めたかわかる)。このほか、システムが事故を検知するか、乗員が車内のSOSボタンを押し下げることで消防に連絡がいくサービスや、オペレーターと会話することでカーナビの目的地設定やホテル、レストランなどの予約を代行してくれるサービスなども備わる。 ダイナミック領域でさらに余裕が出るAMG S63翌日、「メルセデスAMG S63 ロング」で東京へ向かった。AMGだけに見た目はところどころアグレッシブになっているが、大人が乗るSクラスだから控えめだ。だが控えめであるがゆえに逆に凄みが増してしまっているというのは否めない。色の選択によっては『アウトレイジ最終章』まっしぐらだ。こちらもS560と同じ4L V8ターボエンジンを搭載するが、チューニングはまったく異なり、最高出力612ps、最大トルク91.8kgmを誇る。それにAMGの場合、One Man One Engineといって最初から最後までひとりが責任をもって組み上げるため…なんというかありがたみがある。S560のエンジン同様、低負荷時には8気筒あるうちの4気筒が休止し、燃料消費を抑える。切り替わりの瞬間はメーター内の表示を見ていない限りわからない。 600ps超といっても、紳士的なアクセル操作を保つ限り紳士的な振る舞いに終始する。ダイナミックセレクトでSPORTやSPORTプラスを選ぶと、同じ9段でもS560のトルコンタイプとは異なる湿式多板クラッチタイプのトランスミッションがその真価を発揮して、ドライバーのパドル操作に合わせてダンッ、ダンッとダイレクトにギアダウンする。その際エンジンは自動的にブリッピングしてくれ、気分上々、そのためにあるわけではないが、9段もあるから何度も楽しめる(ただしそれなりのスピードに達しないとなかなか9段に入らない)。 電子制御を駆使したサスペンションシステムを採用するため、乗り心地も普段はS560同様の快適さを保つ。S560にしてもAMG S63にしても、リアにVIPを乗せて走る際に求められるジェントルな挙動から、調子に乗ったスポーツカーを追いかけ回すのに適した挙動まで、自由に瞬時に呼び出せるというのがSクラスの懐の深さだ。AMGの場合、ダイナミックな方面への適応力が非常に幅広いというのが違いと考えていればOKだ。それが4MATICなら悪路への対応力も増す。Sクラスに足りないものはないのだ。 スペック【 メルセデス・ベンツ S560 4MATIC ロング 】 【 メルセデスAMG S63 ロング 】 |
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