累計約1730万台が販売されたグローバルモデル2016年のアメリカの車種別販売台数を見ると、1位がフォード・Fシリーズ、2位がシボレー・シルバラード、3位がラム・ピックアップトラックと、ピックアップトラックが表彰台を独占。ようやく4位に、セダンのトヨタ・カムリがお目見えする。日本とは道路事情も国民性も違うので人気車種が異なるのは当然であるけれど、そこまでアメリカ人に愛されるピックアップトラックというスタイルに興味が湧くのもまた事実だ。 日本ではなかなか接する機会の少ないピックアップトラックだったが、トヨタが13年ぶりにハイラックスを日本でも販売することになった。ハイラックスは、1968年のデビュー以来、世界180の国や地域で累計約1730万台が販売されたまさにグローバルモデル。2004年まで販売された6代目を最後に日本市場からは撤退していたものの、2015年に発表した8代目をこの秋より再び日本市場に投入する。オンロードのほかに、特設オフロードコースも用意された試乗会で乗った印象を報告したい。 全長5335mm、全高が1800mmという外寸から想像していたより、実際に目にしたサイズはコンパクトに感じた。その理由は、精悍な印象のフロントマスクなど、ギュッと引き締まったエクステリアデザインによる。すっきりとした外観は、世界のさまざまな国で受け入れてもらうためだろうか。最近の国内専用ミニバンのごてごてした顔つきを見慣れた目には、新鮮に映る。 シートの位置が高いので、ステップに足をかけて運転席に乗り込む。インテリアはシンプルで機能的。無駄な装飾がないのがクルマの性格を表していて好ましい。樹脂類の質感はまずまずで、お世辞にも高級とは言えないものの、安っぽくて寂しい思いをすることはない。 ファミリーカーとしても使える快適性ハイラックスのグレードはXとZの2つ。試乗したのは、内外装がややリッチに演出されるほか、自動ブレーキや車線はみ出し警報などの安全装備が標準で備わる上級グレードのZ。2.4Lの直列4気筒ディーゼルターボエンジンと6段ATを組み合わせたパワートレーンと、パートタイム式4駆の駆動方式は両グレードで共通だ。 スターターボタンを押してエンジン始動。ゼロ発進からタイヤが3転がり、4転がりするまではディーゼルっぽいゴロッとした感触を伝えるものの、そこから先は滑らかで静か。原動機がディーゼルかガソリンかなどということは頭から消え、ただ豊かなトルクに身を委ねることになる。 ATの変速もスムーズ。注意深く観察すると早め早めのタイミングで「スッ、スッ、スッ」とシフトアップしていることがわかるけれど、ボーッと運転していると変速に気付かない。総じてパワートレーンは、街中で使っても違和感のない洗練されたものだ。 乗り心地も、かつての「フレーム構造のピックアップトラック」とは大違い。さすがに突起状の段差を乗り越えた瞬間は、モノコック構造のSUVの穏やかな乗り心地に慣れた身体が、想像以上の「ドスン」という突き上げに驚く。けれども試乗会場周辺のあまり舗装の良くない国道でも、ファミリーカーとして使える快適性を示してくれた。 また、ちょっとしたワインディングロードでペースを上げても、正確で安定感のあるコーナリングを披露した。このあたり、過酷な道路環境でヘビーデューティに使うことと、オンロードで乗用車として使う用途とのバランスがとれているように感じた。 人の生死にかかわる性能が第一試乗の合間に、トヨタで商用車やSUVを担当するCV Companyの開発陣に話をうかがった。なかでも興味深かったのは、ハイラックスに関しては最もタフな環境で使われる性能をまず確保してから、快適性や気持ちの良い操縦性を評価するという点だ。つまり、人の生死にかかわる性能が第一なのだ。クルマの快適性を表す言葉に「NVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)」というものがあるけれど、清水和夫さんの「NVHが悪くても人は死なない」という名言を思い出した。 ハイラックスの場合、たとえば南米では原野のような場所をほぼ速度無制限で突っ走るような使い方をするという。あるいは、カタログに記されている最大積載量500kgをまったく無視して荷物を積むような使われ方もされる。 そんな使い方にも応えて、なおかつ耐久性を維持するように作られたのがハイラックスというモデルなのだ。ご存じのようにSUVとはスポーツ・ユーティリティ・ヴィークルの略で、サーフィンやキャンプなどのアウトドアスポーツを楽しむ用途に適したクルマだ。けれどもハイラックスの場合は、SUVはSUVでも本来的には仕事・ユーティリティ・ヴィークルなのだ。 したがって、広大な荷室が空っぽの状態で路面の悪い所を通過して「ドスン」という衝撃を感じたのはある意味で当然。燃費が悪くなることなどはひとまず措くとして、荷室に重しを積んだほうが乗り心地はしっとりするとのことだ。 基本機能の高さは世界中の現場で鍛えられた証オンロードでの試乗を終えてから、特設オフロードコースでの試乗に移る。まずやるべきことは、インストゥルメントパネルの空調操作ダイヤル隣にあるトランスファー切替スイッチで、H2(2輪駆動モード)から泥濘地や急坂の登坂に向くL4(4輪駆動ローモード)へ切り替えること。ちなみにもうひとつ、雪道や砂地を走るのに適したH4(4輪駆動ハイモード)もある。ちなみにハイラックスがフルタイム4駆ではなくパートタイム4駆を採用した理由は、軽量化が図れるからだという。 4輪のうち1輪が浮いてしまうような丸太で組んだコースも、ハイラックスは楽々と走る。浮いた車輪が空転しても、Zグレードに標準装備されるアクティブトラクションコントロールが空転しているタイヤにブレーキをかけ、他の車輪にトルクを配分して安定性を確保する。ハイラックスには最後の手段として後輪のデフロックも存在するけれど、今回程度の悪路では出番はなかった。 高い走破性能とともに感心したのは、大きく傾いても周囲の状況がはっきりわかる視界の良さと、ボディの四隅が把握しやすい見切りの良さだ。このあたりの基本的な機能の高さに、世界中の現場で鍛えられてきたことが表れている。 だれにでもお薦めできるかといえば、さすがに5mを超す全長は持て余す人も多いだろう。けれども中身は本物だし、後席の広さやパワートレーンの躾の良さなど、普段使いも充分にこなせる。仕事・ユーティリティ・ヴィークルとして使いたい方から自身のライフスタイルを表現したい方まで、「ハイラックスじゃなきゃダメだ」というユーザーが、少なからずいるはずだと感じた。消去法ではなく「これしかない」という選ばれ方をするモデルで、並行輸入される少数のピックアップトラックをのぞけば、日本にライバルはいない。 スペック【 ハイラックス Z 】 |
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