ベストセラーのXC60がSPAベースにスイッチ上級の“90シリーズ”の刷新を終えたボルボが、共通の骨格モジュール“SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)”を駆使して、次に手がけたのが新型「XC60」である。 新型XC60は、ボルボとしても絶対に失敗のできない最主力モデルだ。ガチンコに競合するライバルには「メルセデス・ベンツ GLC」に「BMW X3」、「アウディ Q5」などがあり、市場によっては、これらドイツ御三家に加えて「レクサス RX」「ジャガー F-PACE」「キャデラック XT5」などとぶつかる。 XC60はこうした世界的にも美味しい市場に属するだけでなく、従来型の販売はボルボ全体の約3割を占める。しかも、中国と北米という2大市場でのベストセラーボルボがXC60である。 さらにいうと、先代XC60の販売台数は約8年間のモデルライフで、ずっと前年比プラスの右肩上がりを記録。最終年となった昨2016年に歴代最高の16万1092台を売り上げたのだという。これは素直にすごい記録だ。 XC90に引けを取らないインテリアの質感はクラストップ新型XC60は写真で見ると、兄貴分のXC90と相似形に映るかもしれない。前後エンドのデザインも新世代ボルボの共通したモチーフだからだ。 しかし、実物はきっちりと別物である。水平基調で長く重厚なビジュアルのXC90に対して、後上がりのウェッジシェイプにスモールキャビンの新型XC60は実寸よりも軽快に見せることに成功している。 インテリアもしかり。ステアリングやシフトレバー、縦長のタッチパネル、そして特徴的なスターターノブやダイヤモンドカットのモードセレクターダイヤル…といったアクセントはXC90と共通である。そうしたインターフェースの触感はXC90に引けを取らない高級感を演出しつつ、総合的にはきっちりとXC90よりカジュアルである。 流木をイメージしたという独特のウッドパネルをはじめとして、新型XC60のインテリアの質感はずばりクラストップと断じていい。 それはデザインや色づかいなどの“小技”だけでなく、素直に物量としても高級である。メインのダッシュボードをはじめとしてソフトパッドの使用部位もクラスでは最も幅広く、一部に残るハード樹脂の表面仕上げも高度で、ソフトパッドと見事に統一されている点には感心する。 また、1660mmという全高はライバル比でことさら背が高いわけではないのだが、高めのアップライト姿勢でしっくりくる人間工学もあって、SUVらしい見晴らしの良さは好印象。後席も広くて健康的である。 新機能も加わる現在最先端の先進運転支援システムボルボといえば安全。衝突安全性でもおそらく世界トップと予想されるが、最近流行の用語でいう“ADAS=アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム(先進運転支援システム)”でも最先端である。 基本システムは90シリーズに準じるが、現時点で最新だけに、XC60ではいくつかの新機能が追加されている。その多くがステアリングサポート=自動操舵にまつわるもので、夢の自動運転にさらに近づいたことが素直に実感できる。 具体的な新機能は大きく3つ。ブレーキだけで障害物(車両、歩行者、自転車、大型動物)を避けきれないと判断すると、ドライバーが操舵した瞬間にステアリング補助とブレーキ制御で回避動作をさらにアシスト(作動速度範囲は50~100km/h)。対向車がいるのに対向車線にはみ出しかけたときに自動操舵で戻す(同60~140km/h)。そして斜め後方から接近するクルマがいるのに車線変更しようとしたときに、これまでの警告だけでなく、自動操舵で車線に戻す(同60~140km/h)…といった機能が新しい。 この分野でのボルボはまさに意地とプライドの権化。ADASも競合他社が「これでボルボに追いついたか…」と思った瞬間に、こうして引き離しにかかるのが恒例である。 インスクリプションの19インチか、モメンタムの18インチか?今回の試乗車はひとまず2.0リッターガソリンを積む「T5」の上級グレード「インスクリプション」のみだった。ちなみに、XC60はどのエンジンもすべて4WDである。 中心的に試乗したのは固定減衰ダンパーのノーマル。このクラスのライバルはスポーツテイストを前面に押し出すタイプが多いが、XC60はそれに大きく引けを取らない正確性と俊敏さを確保しつつも、寸止めの効いたマイルドな身のこなしが特徴である。 カーブでも明確なロールを感じさせないのが現代的だが、バネそのものはけっして硬すぎず、フワリと微妙に上下しながら凹凸を吸収してくれる。そして、素晴らしく剛性感にあふれるボディも印象的だ。 ただ、ドンピシャの想定速度が日本の平均速度より高め…という欧州テイストは明確だ。低速でわずかに残るコツコツ感が、100km/hほどでピタリと消え失せて、さらに高い速度ではもっと快適になりそう…と予感させるフットワークである。 今回試乗した19インチが、低速での乗り心地と俊敏さのちょうどいいバランスのように思えたが、もしかしたら日本では安価な「モメンタム」の18インチのほうがメリットが多いかもしれない。 ほぼフル装備でドイツ御三家より割安な価格設定緻密にトルク配分する4WDは黒子に徹するタイプで、T5程度のエンジントルクやパワーでは、XC60のシャシーはまだまだ余裕がある。動力性能については、エンジンの回転感は軽やかだが、良くも悪くも普通である。 それにしても、なんとも上品な乗り味だ。上級の90シリーズを想定した骨格モジュールの恩恵もあってか、XC60の走りはすべてが余裕たっぷりである。ことさらスポーティな仕立てでもないので、2時間程度のプチ試乗では強烈な印象を残さないかわりに、文句のつけようもない。 本体価格は今回のT5インスクリプションで679万円。ホイールが18インチになり、シートがシンプルになる「モメンタム」なら600万円切りの599万円。XC60でも主力となりそうなディーゼルの「D4」も価格はまったく同じだ。 偶然か必然か、新型ボルボXC60とまったく同時期に「アウディQ5」と「BMW X3」の新型も日本発売となったが、本体価格はどれも似たようなものである。 ただ、XC60は主要アイテムのほとんどが標準装備。今回の試乗車はオプションがほぼ全部乗せに近い仕様だったが、それでも追加できるオプションは電動ガラスサンルーフやBowers&Wilkins銘柄の高級オーディオ、そして可変ダンピングのエアサス…といった程度である。 つまり、XC60はツルシ状態でも内外装の見た目や基本機能に、高級SUVとしての不足がまるでない。標準のオーディオもそれなりに高品質だし、インフォテイメント関連も最初からフル機能がそろう。そして、ボルボゆえに安全性にグレード格差はもちろんない。よって、細かい装備を吟味していくと、XC60はドイツ御三家より割安な価格になるように設定されている。 さらに、新型XC60はオーナーでないと新型とは気づきにくいQ5やX3(失礼!)とは異なり、おそらく誰が見ても「新しいボルボだ」と気づくデザインが見事。そのうえで、内外装の質感と安全性は掛け値なしにトップ級。走りや乗り心地も他社に負けておらず、それでいて価格は割安…と、すべてが絶妙というほかない。 ボルボはドイツ御三家と比較すると企業規模は圧倒的に小さいながらも…というか、小さいからこそ、デザインや安全性など、周囲に埋没せず、時代の空気をうまく読んだブランド構築や商品企画を徹底的に磨き上げている。ボルボは生き残るべくして生き残っている。 スペック【 XC60 T5 AWD インスクリプション 】 |
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