アドバンdBが「V551」から「V552」へ全面刷新ヨコハマタイヤのプレミアムタイヤである「ADVAN dB」(アドバン・デシベル)。このタイヤを初めて履いたとき、ボクはその静粛性に大いに驚かされた。ADVANという名前の通りのスポーティなステアリング応答性を持ちながらも、その上でコンパウンドが滑らかに路面を捉えたのだ。 その後クラウン・アスリートに履かせたデシベルを試したときは、快適を通り越してまるで温泉にでもつかっているかのような感覚に惚れぼれした。あの適度に引き締まりながらも滑らかなダンピング性能を持つアスリートの足回りとデシベルは、正にドンピシャの組み合わせだったのである。 そんなADVAN dBが、「V551」から「V552」へと進化したという。しかもこれまでのコンパウンド特性や構造を、全面的に刷新して生まれ変わったというではないか。 というわけでその試乗会へと参加し、ヨコハマからは一通りの技術説明を聞いたのだが、まずここではそれをまくし立てるのではなく、みなさんにこの「V552」が目指す性能概念をお伝えしたいと思う。 タイヤの変形を防いでハンドリングと静粛性を高めるADVAN dBはご存じの通り、極めてスポーティなハンドリングを持ちながらも、トップレベルの快適性を両立させたタイヤだ。そしてそのキャラとしては、「静粛性能」の高さが最大のセールスポイントとなっている。 そのためにヨコハマが今回着目したのは、「タイヤの変形を防ぐ」ことだった。タイヤの変形を防ぐことで接地面積を安定させ、結果、偏摩耗を防いで良好なハンドリングとノイズ低減ができる。これが新作「V552」の考え方だとボクは理解している。 対して前作「V551」は、簡単に言ってしまうとタイヤとゴムを柔らかく作ることで路面への密着性を高め、グリップ力と静粛性を両立させていた。 ここからようやく、細部の技術的な説明になる。タイヤの変形を防ぐためにヨコハマは、まずその構造をいちから見直した。基礎骨格となるベルトは通常よりも幅を広げ(幅広サイレントベルト)、ショルダー下層のサイド補強ベルトをサイズごとに仕様変更しながら装着。トレッドの下に配置されるベースゴムは人間が敏感な100~160kHz周波数域のノイズを低減する「サイレント・ベースゴム」を採用したのだが、なんとこれもサイズごとに適正化しているこだわりっぷりである。 そしてタイヤ全体のプロファイルも見直した。接地状態が安定するように、タイヤ全体のプロポーションをトレッドおよびサイドで整えて、変形時の振動を減らしたのである。タイヤは変形しにくければ応力が一カ所に集中しにくくなり熱が発生しにくくなるのだが、さらに「低燃費サイドゴム」で熱の発生を抑え、燃費性能も向上させた。 「こりゃあ、やり過ぎだろう!」トレッドパターンは、剛性の確保と消音効果にこだわった。その骨格となるのはセンターに二本配置されたストレートリブで、これが直進安定性とハンドリングの正確性に大きく役立っている。 対して比較的応力の掛かりにくいイン側は可能な限りブロックのサイズを小さくして、パターンノイズを抑えた(同時に排水性にも貢献)。さらに各ブロック列ごとのパターンをミリ単位でずらすことによって、ノイズを分散させたという。 荷重が掛かるアウト側はブロックを小さくできないので、一番アウト側の配列は可能なかぎり狭い間隔で排水溝を設置。非貫通サイプでブロック剛性を最適化し、接地面の変形を防いだ。その隣のブロックラインは排水溝とサイプを一定間隔で千鳥配置して、剛性を確保した。何度も言うが剛性を確保すれば変形が減り、偏摩耗が減ってロードノイズは抑えられる。 また、その排水溝とサイプにも変形を防ぐツイストエッヂ加工(イン側)、偏摩耗とノイズの発生を防ぐ「シングルエッヂ加工」(アウト側および中央)が仕込まれている。 ……はっきりいって、これはハンパない刷新である。名前こそ同じだけど、まったく違うタイヤだ。今までの技術を捨ててしまったわけではないだろうけれど、ここまで変えて、いいの!? そして実際に「V552」を試したときも、「こりゃあ、やり過ぎだろう!」と思った。 グリップ感はさらっとしているのに限界域が高いウェット旋回テストでは、明らかに操作性が上がっていた。滑り出してからのコントロール性やトラクションの掛かり具合はもちろんなのだが、V552はそこへたどり着くまでの過渡領域が圧倒的に穏やかなのだ。 前作V551のように腰砕けしないのはまさにタイヤの変形が抑えられているからであり、オーバーのみならずアンダーステアが出始めるような場面も、限界領域が見定めやすい。そしてその穏やかさから、ESC(車両安定装置)の効き方までマイルドになる。性能チャートではV551とウェット円旋回タイムは同等とのことだったが、操作性は明らかによい。 ただ一方で、タイヤの能力が勝ちすぎているとも思えた。それはものすごくグリップが高い、という単純な話ではない。むしろ普通に走っている限りはそのグリップ感はさらっとしていて、ハイグリップタイヤのような雰囲気はみじんもない。 それなのにV552は、タイヤがたわむ感触がないままにとんでもない旋回速度でコーナーを曲がってしまうのだ。ボクが「このクルマなら、このくらいの速度まで落とすだろう……」と予想するよりも明らかに速い旋回速度で、楽勝にコーナーをクリアしてしまうのである。それも、タイヤすら鳴かさずに。 とくに高速周回路ではその感覚が顕著で、V552を履きこなしているのはメルセデスのE220dだけだった(同条件での他の試乗車はカムリ、ヴェルファイア、レクサスLS)。E220dの重厚なボディがタイヤを適度に潰し、がっしりとしたステアリング剛性、モーター制御が力強い電動パワーステアリングだけが、ステアリングの切り始めからV552の接地感をあますことなく伝えてきた。 驚くほどに静かで快適。そして走りも愉しめるタイヤじゃあダメなの? と問われれば、そんなことはまったくない。むしろすごすぎるのだ。高い荷重を与えれば与えるほどADVANの名前に相応しい運動性能を発揮して、普段はかなりの旋回領域まで涼しい顔してこなしてしまう。だからワインディングを走らせたマツダ・アクセラとホンダ・N-BOXは、まるでスポーツカーみたいにコーナーを曲がった。ただその「フツーの領域」だと、クルマ側もそれ相応じゃない限り、タイヤと対話する実感がわかないのだ。それを快適と言われればそれまでなのだが。 ヨコハマ、100周年で気合いが入りすぎたのか? 実はヨコハマのスタッドレスタイヤである「iceGUARD 6」(iG60)でも、この傾向は見られた。アイスガード6も、用心すべき雪道をあまりにフツーに走れてしまい、ボクはこれにちょっと戸惑った。 もっとも肝心な静粛性についてお伝えしていなかった。一見ならぬ一聴すると中音域のボリュームが上がったように聞こえたが、それは高周波ノイズが大幅にカットされているから。あのV551が安っぽく思えてしまうほどだったのには、正直驚かされた。また段差を越えたときの振動も、素早く減衰できていた。 騒音エネルギーは前作V551比で実に32%も低減。だがこのタイヤは、静かなだけが売りではない。静粛性を高める技術が、同時にその走りにも磨きをかけた。まさに「ADVAN」の「デシベル」と呼ぶに相応しいタイヤにV552は仕上がったと思う。 サイズ265/35R18 97W XL~155/65R14 75Hの全24サイズ 転がり抵抗性能=“A” 価格=オープンプライス |
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