電動化ではなく電脳化が新型A8のトピックスEV旋風が吹き荒れる中、アウディのフラッグシップであるフルサイズセダンの「A8」がフルモデルチェンジした。エンジン主力のパワートレーン構成であることに変わりはないが、48Vのサブ電源やプラグイン・ハイブリッドも注目だ。スペインのバレンシアで開催された新型A8の国際試乗会からレポートする。 「技術による先進」というスローガンを掲げるアウディにとって、A8は最高の技術を搭載するモデルでなければならない。新型A8のトピックスはパワートレーンの電動化よりも、デジタル技術を駆使した電脳化に特化したことだ。その意味では伝統的なエンジン車である。EVは「e-tron」ブランドとして2020年前後に登場するだろう。 スタイリングはオーソドックスなサルーンだが、ディテールには高度な生産技術に裏付けられたクオリティを感じる。A8はアルミボディの先駆者として知られ(実際は「ホンダ NSX」のほうが早かった)、1994年の初代A8以来四半世紀にわたってアルミボディの研究を続けてきた。新型はアルミだけでなく多様な素材を適材適所で使っている。また、アルミは曲げの自由度が小さいと言われてきたが、最近は生産技術が高まり、ショルダーは美しいラインを描き出している。ミケランジェロの子孫がデザインした彫刻のようだ。 ワイドになったシングルフレームグリルも印象的。全幅は-4mmの1945mmとスリムになったが、全長は従来比+37mmの5172mm。ロングホイールベースは2998mmで6mm伸びている。全体的には全長が伸びて幅がすこし狭くなったので、スレンダーなフォルムと言える。 48VシステムでマイルドHV化したV6&V8ターボエンジンはガソリン3.0L TFSI V6ターボと4.0L V8ターボが日本に導入される。アウディのV型ターボはバンク内にツインスクロールターボを搭載するホットVコンセプトで、排気管の長さが短いため、ターボのレスポンスがシャープになる。3.0L V6 TFSI(55 TFSI)は最高出力340ps、最大トルク500Nmを発生。また、460psのV8ターボはシリンダーオンデマンドと呼ばれる気筒休止システムを持っている。 V8はさらなる高級感を漂わせるために、アクティブノイズキャンセレーション(ANC)によって逆位相の音をスピーカーから発生させて共鳴音を打ち消す。さらに車体への振動の伝達を大幅に減らすアクティブエンジンマウントも採用している(W12も搭載)。ギアボックスはZF製8速のトルコンAT(ティプトロニック)を持っているが、コースティング後のエンジン復帰でも、繋がりがスムースでショックはほとんど感じられない。変速だけでなく、走行中のエンジンのストップ&ゴーなど、パワートレーンが非常に洗練された印象だった。 このエンジンには共に48Vのサブ電源が装備される。色々なユニットがモーターで駆動するようになった今、12Vでは電力が不足する。それを補うのが48Vを使う理由だ。同じワット数なら電圧が高いほうが電流が小さくなるので、電線も細くできる。アウディA8で使われるハーネスの総延長はたぶん4000m(富士山より高い)を超えていると思われるので、48Vは軽量化にも貢献する。この48V化による燃費削減効果は約0.7L/100kmとアウディは公表している。燃費換算で5~6%は無視できない。この48Vシステムはオルタネーターで回生できるマイルドハイブリッドとしても機能するので、走行中にエンジンを止めることも可能だ(コースティング)。P3後半で述べるが、48Vのモーターを使ったアクティブ・サスペンションも圧巻だった。 A8にこそ日本でもV8ディーゼルを導入するべきベントレーで馴染みがあるW12エンジンはもともとアウディのオリジナルだ。ポルシェのボクサーエンジンと同じで、他に類がない独自のセレブなエンジンなのだ。全長がコンパクトなので、その気になればA4にも搭載できるはずだ。 また、日本には導入されないが、V6とV8ディーゼルもアウディが得意とするエンジンだ。かなり前からA8こそ、V8ディーゼル搭載グレードを日本で導入するべきだと言ってきたが、それは今でも変わらない。800Nmを超えるトルクはA8の個性を引き立たせるはずだ。V8ディーゼルなら最高のパフォーマンスを味わいながら、長い航続距離が可能となる。「ポルシェ GT2 RS」よりも大きなトルクのセダンはあまりにも魅力的だ。 とはいえ、ないものねだりではバイヤーズガイドにならないので、現実的にはガソリンのV8ターボが良いだろう。ギアボックスとの連携がスマートなので、質感の高い走りが可能だ。 A8にはモーターを使ったアクティブ・サスペンションが装備されている。4つのホイールに装備されたモーターによって、個々のサスペンションの車高を瞬時に上げ下げできるのだ。従来のエア・サスペンションよりも応答性が速いので、路面の段差をカメラで先読みして、凹凸のショックを吸収できるし(このシステムは2018年後半に実用化)、カメラ認識による側面衝突の被害低減にも効果がある。例えば、側面から近づく他車を認識し、衝突に備えるために片側だけ車高を高める。その時モーターは僅か0.5秒で反応し、車高は片側80mmもリフトアップする。 自動運転機能や高度な情報表示にも注目発表時に話題になったレベル3の条件付き自動運転機能「アウディ AIトラフィックジャムパイロット」はまだ実装されていない。これは生産モデルでは世界初となる約60km/h以下の高速道路の同一車線のみで機能する自動運転と謳われている。 システムの作動中、ドライバーはメーター内に表示されるメールなどを利用することが可能となる。ただし、システムが責任を持って運転していても、システムが要請したときには10秒以内でドライバーがハンドル操作を替わる必要がある(アウディのケース)。この機能は2018年に発売されるモデルには未採用だが、ドイツなどでは近いうちに実装されることになる。日本は法規制の緩和が必要なので、2020年頃まで待たなければならない。 ところで、アウディは高度なドライバー・アシストシステムを「パーク、シティ、ツアー」の3つのセクターに分類している。 今回、パークパッケージで実用化されたのはAIリモートパーキングパイロットとAIリモートガレージパイロットだ。この自動パーキングは現在市販されるクルマとしては最も進化したもので、使い勝手が素晴らしい。コクピットのデザインもアウディらしい未来感に溢れたものだ。HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を考慮したデザインは機能的にも優れている。 様々なコネクト技術が機能し、カーナビも高度化している。ナビゲーションのコアとなる地図は「ヒア社」のダイナミックマップが使われ、ツアーパッケージの核となる、レベル2として利用できるACA(アダプティブクルーズアシスト)は地図情報から道の形状を理解し、自動的に速度が制御される。 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を駆使して、クルマの状態がどうなっているのか(縁石にどのくらい近づいているのかなど)、今まではドライバーの勘で処理していた操作が、よりリアルな情報として提供される。こうしたドライバーに寄り添う情報提供はライバル車にないメリットだ。 クルマの多様な機能を理解することが難しくなった現代のハイテクカーに対して、アウディは徹底して分かりやすい「人間とのインターフェース=HMI」を提供している。もはや数字では説明できない人間中心の性能にフォーカスしたハイテクカーが登場したのだと、感動した。 スペック【 A8 55 TFSI クワトロ 】 |
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