求められていたハイブリッド車1996年5月に当時の「クリエイティブ・ムーバー」の第3弾として登場し大ヒットした初代ステップワゴン。その斬新なパッケージ、価格設定、何よりもファミリー層におけるライフスタイルを豊かにしてくれる仕掛け(機能だけでなく「こどもといっしょにどこいこう」のCMなど)が市場にミートしたこともその理由だろう。 とはいえ、人気車種の仲間入りを果たしたステップワゴンも2008年前後から少し販売に苦戦することになる。もちろんクルマが悪いわけではない。ライフスタイルの変化や初代のステップワゴンに乗っていたファミリーの子供たちが成長して、親と一緒に乗る機会が減ったこと、そしてハイブリッドカーの台頭である。 個人的には「現場の空気を知る」という意味で頻繁にディーラーに行くようにしているが、現場から聞こえてくるのは「ステップワゴンにハイブリッドがあれば…」という声である。そんなことはホンダ本社だって十分理解しているし、現場の声がすべて正しいとは言い切れない。ただ、ライバルとなるミドルクラスミニバン市場の約45%がハイブリッド車であること、そしてこれをラインナップすることで全体の販売増に貢献していることは否定できない。 そして2017年9月、5代目ステップワゴンのマイナーチェンジが行われ待望のハイブリッドモデルが追加された。競合へのインパクトも含め、その実力をチェックした。 スパーダにのみハイブリッド追加の理由今更だがグレード構成を確認すると、ハイブリッド車はスパーダのみの設定であることに気がつく。ホンダによると、現行モデルが登場してからスパーダの販売比率は常に高く、約80%とのことだ。つまり求められているのはスパーダ自体の進化でもあり、これに新しいハイブリッド車を追加することが全体の商品力向上につながると判断したのだろう。 今回ハイブリッド車を新設定することに対し、スパーダはエクステリア、インテリアとも大きな進化を遂げている。シャープなフルLEDヘッドライト、ワイドかつ厚みのある大型グリルの採用、そして気に入ったのがこれらの新造型による“突進感”というデザインコンセプトだ。やはりこの手のクルマは押し出し感や塊感、少し変わった視点で言えばルームミラー越しに映った際のインパクトも重要だったりする。専用デザインはもちろん、ハイブリッド専用も含めたボディカラーを三色追加するなど気合いが入っている。 インテリアに関しては「かゆいところに手が届く」的な変更だ。スパーダの内装仕様はグレードに応じて3種類設定、ハイブリッドとガソリン車共通になるが快適装備も充実。1&2列目のヘッドレストレイントのクッション性向上や3列目床下収納シートの操作ストラップの素材を変更することで操作性を向上させているという。 LPL(開発責任者)の斎藤葉治氏に対し「ヘッドレストレイントの固さまでこだわるのか?」と質問をぶつけてみたら「デザインや動力性能はもちろん重要ですが、何よりも安心して楽に移動するための快適空間を提供したいわけです。そのためにお客様の声なども真摯に聞くことでさらに良いモノを作り上げたわけです」とのこと。ウーン、すでに試乗前にその隙の無いクルマ作りにすっかり気持ちを奪われてしまったかもしれない。 ハイブリッドでも従来どおりのパッケージを実現搭載するハイブリッドシステムはすでにアコードやオデッセイで搭載済みの2モーターによる「SPORT HYBRID i-MMD」である。システムとしては確かにそうなのだが、じゃあ「それでおしまい!」じゃないのが今回のステップワゴンのミソだったりする。 前述の斎藤LPLによると「当初オデッセイ用のシステムを組み込んだら全長が100mm延びていた」とのことからも、ステップワゴンにこのシステムを組み込むためには並みの改良では達成できないということになる。結果、エンジンのほか、IPU(インテリジェントパワーユニット)を搭載するための専用骨格を新設計して採用することになった。 これにより全長は+25mmに抑えつつ、室内空間はガソリンモデルと同等、何よりもステップワゴンの売りのひとつであるマジックシート(3列目シートの床下収納)も使えるわけだ。この辺はパッケージング技術では定評のあるホンダの面目躍如というところだろう。そもそもミニバンという使い勝手を特に重視する商品において、それらがシステムによって邪魔されてしまうというのは本末転倒である。 システムを搭載することでフロア自体は少しだけ持ち上がっているが、フロントシートの着座位置もガソリン車と同等であり全体としては“誤差の範囲”。ハイブリッドだから何かを犠牲にしたということはない。正直、お金をかけた大改良であることがこの点からも理解できるのである。 機能や使い勝手もよく考えられている運転席に乗り込むと見慣れたはずのステップワゴンのインパネに小さな変化を感じることができる。元々ステップワゴンのインパネデザインはかなり素晴らしいと感じている。前方視界を邪魔せず、必要な情報を目の前に表示、ナビやエアコン類の吹き出し口やスイッチの位置まで非常に考えられており、同社のフリード同様、このクラスの商品の中ではトップレベルと言える。 そしてハイブリッド車は専用のセレクトレバーやメーター類を採用することでガソリン車とのさりげない差別化も図れている。またEPB(電子制御パーキングブレーキ)やEVスイッチなども含めた機能を集約した、大型のセンターコンソールを装備している点にも注目だ。 このコンソールに設置されたトレイ、前後265mm、左右120mmあるので普段自分が使っているA4サイズの書類が入るブリーフケースなども余裕で置ける。さらに内張りに柔らかな素材を使うことで荷物が傷つくことを防ぐなど芸が細かい。 またグレード別やオプション対応になるが、昨今の必需品! とも言われているUSBジャック(それも急速充電対応)や1500Wまで対応する100V電源もここに組み込まれる。アウトドアなどでもこの余裕ある電源はかなり役立つはずだ。 クラストップレベルの上質さを身に付けた前述したように搭載するハイブリッドシステムはアコードやオデッセイと同等のものだ。2Lのアトキンソンサイクルエンジンに135kW(184ps)、315Nm(32.1kg-m)のモーターを組み合わせる。 走り出してまず感じるのが「静かである」ということ。走り出しから一般道のクルーズ、高速道へ移動してもその静かさは切れ目無く維持される。さすがに山道をSモードにして走るとそれなりのモーター音は侵入してくるが、不快感の大元となる周波数などはうまく遮断している。特に感じるのがフロア回り、あと意外と言っては失礼だが3列目シートに座った際のタイヤハウス周辺からの透過音の少なさだ。また道路の細かな継ぎ目を乗り越えた際の振動の少なさや収まり感もこれまでのステップワゴンからワンランク以上アップ、安易に上質という言葉は使いたくないのだが、全体のバランスの良さも含め、このクラスではトップレベルの上質さを身に付けている。 また何度も言うようだが、この新型ステップワゴン、特にハイブリッドは目に見えない部分にかなりお金がかかっている。フロントガラスの遮音化や各種インシュレーターの性能向上など数多くのアイテムが新採用されているが、それを効率よく静粛性向上のために使っている点に好感が持てる。 基本的にこのハイブリッドシステムは2モーターを採用することでガソリンエンジンはクルーズ時や加速時のほかは発電用としての役割が大きい。バッテリー残量がある状態でEVスイッチを押せばエンジンを始動することなくEV領域で走ることができる。 先進安全技術である「ホンダセンシング」は全グレード標準装備だが、ハイブリッド車のみACC(アダプティブクルーズコントロール)の渋滞時追従機能が付く。実際使ってみるとその“効き具合”はもちろん、EV領域でかなりの時間を走ることができたのでガソリン節約には貢献するはずだ。 改めて感じたガソリン車の良さと「わくわくゲート」の利便性大きな進化を遂げたステップワゴン。その人の使い方にもよるが、まずは予算が許せばハイブリッド車を第1候補としたい。グレードは3種類あるが、オススメは装備と価格のバランスの良さで真ん中に位置する「SPADA ハイブリッドG ホンダセンシング(335万160円)」だ。 下位のハイブリッドBとの価格差は4万9680円だが、フルオートエアコンに「プラズマクラスター」機能が付くなどコスパは抜群だ。最上級の「SPADA ハイブリッドG・EX ホンダセンシング」はハンドリングや快適性を向上させるパフォーマンスダンパーが唯一標準装備、また前述した電源コンセントもこのグレードしかメーカーオプションで選ぶことができない。価格差は20万9520円高になるが、より上質なモデルを求めるのならばこの選択肢も十分に有りだろう。 そして改めて評判の高い「わくわくゲート」を使ってみたが利便性の高さを実感した。そもそもリアゲート自体は重量があるし、後方に壁がある場合などは開閉に注意が必要なのはご存知の通り。ライバル車にはガラスハッチなどを採用し利便性を高めているモデルもあるが、狭い場所で重い荷物を載せたい時、そもそもガラスハッチの高さまで荷物を持ち上げること自体が大変なのである。その点、横開きのわくわくゲートの場合、地面からの距離が短く、ちょっとドアを開けてサッと荷物を積み込むことができる。もはや便利を超えてスゴイ! の領域。これは一度ディーラーで体験することをオススメする。 実は今回ハイブリッドに乗って逆に感じたのが1.5Lターボ車(228万8520円~)の良さであった。他のライバル車の場合、ハイブリッド車以外の選択肢としてはコンベンショナルなガソリンエンジンになる。性能自体は悪くないだろうが、何か特徴というか“華”が無いのである。それに比べるとステップワゴンの場合、ターボによる加速力や2.5L並みのトルクなどもあり、予算的にハイブリッド車に手が届かなくても選ぶ理由がある。 ハイブリッドの追加自体はもちろん素晴らしいが、これによる1.5Lターボ車の再認識とバリエーションの豊富さによる「商品力の大幅向上」。これがステップワゴンを試乗した総括と言える。 スペック【 ステップワゴン SPADA ハイブリッドG・EX ホンダセンシング 】 |
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