7名乗りから2名乗りへわずか14秒でシートを格納5代目となった新型「ディスカバリー」はランドローバー渾身の一作だ。もてる技術とアイディアをすべて投入し尽くした満漢全席のようなクルマ、といえばイメージが掴みやすいだろうか。走行性能、使い勝手、デザイン、質感、安全性、コネクティビティ・・・現代のクルマに求められるすべての要素を妥協することなく追求したうえで、ランドローバーのDNAであるオフロード性能にも徹底的に磨きをかけてきたそのクルマ作りには執念すら感じる。詳しく知れば知るほど「そこまでやるか!」という驚きが生まれてくるのだ。 たとえばシートアレンジ。ディスカバリーは初代の頃から2-3-2というシート配列をもつ7シーターSUVだ。新型にもそれは引き継がれている(5人乗りも選択可能)が、新型ではスペース拡大に加え、「リモート・インテリジェント・シートフォールド」と呼ばれる世界初の機構をオプションで採用してきた。シート、とくにサードシートの操作は往々にして面倒なものだが、ディスカバリーの場合、ラゲッジスペース内にあるスイッチかダッシュボードにあるタッチスクリーンでワンタッチ操作が可能。7人乗りから後席を畳み2人乗りの荷室最大状態までにかかる時間はわずか14秒だが、それも待ちきれないというせっかちな人は、専用アプリをインストールしたスマートフォンを使うことで離れた場所から操作できる。 渡河性能90cm、ハイテクなトレーラー牽引機能も設定悪路走破性に関して象徴的なのが、先代より20cm増え90cmに達した驚くべき渡河性能だ。少なくとも先進国に住んでいるかぎり、水深90cmの水中を走ることはまずあり得ない。しかしそこで妥協しないのがランドローバーのランドローバーたる所以。車高調整可能なエアサスペンションに加え、ボディやエンジンルームの主要部に徹底的な防水対策を施すことで、腰にまで達するような深みにも余裕で対応してしまう。しかもドアミラー部に付けたセンサーによって「現在の水深」を計測し、それをモニターに映し出すシステムまで用意する念の入れようだ。 もう一点、すごいなと思ったのが「アドバンスド・トウ・アシスト」。熟練技が必要とされるトレーラー牽引時の後退も、この機能を使えばモニターを見ながらセンターコンソールにあるダイヤル(ステアリングではない)を回すだけで、ステアリングが勝手にクルクル回って目指す位置にピタリと停めてみせる。スマートフォンでシートを動かす必要なんてあるの? 水深90cmなんて求めてないよ。そもそもトレーラーなんて持ってないし・・・そんな意見も当然あるだろう。正直、僕もクルマにそこまでの機能は求めない派だ。しかし、求めないのと否定するのとは違う。無駄を無駄として否定してしまったら、極論すると衣食住をはじめ、世の中に存在する商品のほとんどは無駄の対象として否定しなければならなくなる。思うに、ランドローバーが過剰とも言えるクルマ作りをしてきた背景にあるのは、SUV専門メーカーの老舗としての地位をより一層強固にしたいという想いだろう。ここまで造りこむと価格は高くなる。結果、想定するユーザー層は絞られるが、スポーティカーと本格的スポーツカーが違うように、我々が作るのはそんじょそこらにあるお手軽SUVではなく、本物のSUVであり、そういうクルマを求めるユーザーに選んで欲しいのだと、彼らは考えているのだ。 事実、これほどのユーティリティと悪路走破性能を同時に兼ね備えたSUVなど他にはない。1台だけ思い浮かぶとすれば、日本が世界に誇る「ランドクルーザー200」だ。なかでも道なき道を行く際の堅牢性という点に関し、ランドクルーザー200は絶対的な評価を獲得している。それに対し、ディスカバリーの堅牢性は未知数。レンジローバーシリーズ、ディスカバリーシリーズの次に登場する第3のシリーズである「ディフェンダー」が堅牢性を売り物にしていることから考えると、ディスカバリーのタフネスさはランドクルーザー200には及ばない可能性も高い。しかしその分、ディスカバリーにはライバルにはないいくつかのアドバンテージが備わっていて、それがこのクルマの個性を際立たせている。次ページからはそのあたりを中心に見ていこう。 レンジローバースポーツとは3列目空間で差別化悪路走破性とユーティリティを追求したクルマでありながら、新型ディスカバリーはきわめて都会的な洗練性を身につけている。控えめなフロントマスク、強く傾斜したウインドスクリーン、ボディサイドまで回り込んだ前後ランプ、スピード感を演出するシャークフィン状のCピラー、絞り込んだキャビン、全体を覆う高い品質感など、そこにあるのは従来のヘビーデューティー4WDとは一線を画す乗用車的な佇まいだ。実車を前にすれば、全長約5m、全幅2m、全高約1.9mという巨体に圧倒されるものの、「悪路を走るために作られたクルマ」というイメージは思いのほか希薄。ランドクルーザー200の故郷が悪路だとすれば、ディスカバリーの故郷は都会。そのぐらいの違いがある。 乗り込むとそんな印象はさらに強まった。レザー、ウッドをはじめとする上質なマテリアル、ダッシュボードに統合された大型タッチスクリーン、スイッチ類の洗練されたデザインとタッチなど、そこに拡がっているのは紛うことなき高級車の世界。そのプレミアム感は、ランドクルーザー200ベースのプレミアムモデルである「レクサス LX570」を軽く凌ぎ、「レンジローバー」と肩を並べるレベルに達している。もし僕が開発者だったら、もう少しコストを抑えつつデザイン的にもヘビーデューティー感を出して、ほぼ同価格帯(ちょっと高い)で7人乗りという共通点をもつ「レンジローバースポーツ」との違いを明確化するべき、と考えただろう。しかしランドローバーはあえてその手法をとらなかった。レンジローバーの下にあるのがディスカバリー、ストレートに言えばプアマンズレンジローバーというイメージを、新型ディスカバリーによって完全に払拭するのが彼らの狙いなのだ。 とはいえ、ブランドイメージ的にはまだまだレンジローバーが上だから、「どうせならレンジローバースポーツが欲しい」と考える人も多いと思う。そんななかディスカバリーの強みになりそうなのが、大柄な大人7人が無理なく乗り込める室内だ。実際にサードシートに乗り込んでみたが、スペース、乗車姿勢、シートの座り心地などからなる快適性は3列シートSUVのレベルを超えミニバン並み。2~3時間程度のドライブならストレス知らずだし、シートを畳めば最大2406Lという広大なラゲッジスペースが現れる。 静粛性の高いディーゼル、伸び感のあるガソリンランドローバーに相応しいオフロード性能を担保しつつ、オンロード性能に力を入れてきたのも新型ディスカバリーの特徴だ。エンジンは3LV6ディーゼルと同ガソリンの2種類。まずはディーゼルを選びスタートしたところ、「うーん、これは素晴らしいエンジンだな」と唸らされた。まず静粛性が高い。アイドリング時のガラガラ音はほぼ完璧に抑え込んでいるし、加速時の騒音も、予備知識がなければディーゼルと気付かないほど小さい。高速巡航時にいたってはほぼ無音である。それでいて、わずか1750rpmで600Nmもの太いトルクを発生する特性は、約2.5トンのボディを軽々と加速させていく。今回の試乗ルートは山間の道がメインだったが、上り勾配でもそんな印象に変化はなかった。 一方、ガソリンエンジンは低中速トルクではディーゼルに劣るものの、トップエンドの伸びきり感は上。料金所からフルスロットルで100km/hまで加速するような状況ではガソリンが有利だ。とはいえ、僕なら経済性に優れ、1タンクでの航続距離が長く、なおかつ常用域での力強い走りを備えたディーゼルを選ぶ。 気持ちよい走り、特筆すべき悪路の乗り心地ハンドリングも好印象だった。キビキビ感とかダイレクト感はないものの、ステアリングは微少舵角からきれいに反応するし、さらに切り込んでいったときのノーズの動きとロールもピタリとシンクロしているため、車高の高いクルマにありがちな不安感がまったくない。定常旋回に入ってからのライントレース性も抜群で、荒れた路面にさしかかってもラインの乱れは最小限に抑えられる。さすがにワインディングロードをガンガン飛ばす気にはならないが、限界の7~8割程度のペースで流しているときの扱いやすさ、気持ちよさにはかなりの高得点が付く。 さらに特筆したいのが荒れた路面での乗り心地だ。良路での乗り心地ももちろんスムースなのだが、路面が荒れてきても乗り心地がほとんど悪化しない。大きめの段差や凹凸に備えて身構えても、いともたやすく衝撃を吸収し、上質な乗り心地を保ってくれる。冬場にはスキーのゲレンデとして使われているオフロードも走ったが、細かい凹凸をなめていくようなスムースな足回りと、強い入力にも微動だにしない強靱なボディが印象的だった。今回はほとんど出る幕がなかったが、さらにシビアな悪路走行時には、エンジン、ギアボックス、サスペンション、ディファレンシャルギアなどを最適化するテレインレスポンス2オートや、オフロード走行用のクルーズコントロールとも言うべきオールテレイン・プログレス・コントロールがドライバーを最大限サポートしてくれるだろう。 試乗を終えエンジンを止めると車高が15mm下がり、ドアを開くとさらに25mm下がって乗降性を高めてくれた。そう、新型ディスカバリーは、最後の最後まで「そこまでやるか!」という驚きを提供してくれるクルマだった。プレミアムSUVとして眺めた場合、レンジローバーほどのブランドバリューはないかもしれないが、それをわかった上であえてディスカバリーを選びサラリと乗りこなすなんて相当カッコいいと思う。さすがにこれほどのボディサイズだと街中では手に余るが、スポーツやキャンプやセカンドハウスなど、週末のレジャー用途がメインなら大きさは逆にメリットになる。クルマ自体もさることながら、僕が心の底から憧れを抱いたのは、ディスカバリーの長所を余すことなく引き出せる、そんな豊かなライフスタイルだ。 スペック【 ディスカバリー ファーストエディション(ディーゼル) 】 |
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