意匠変更のハイライトはチェッカードフラッグ型LEDランプ現行ルノー・ルーテシア4の欧州デビューが2012年秋(日本発売は翌13年夏)であることを考えると、新しいルーテシア・ルノースポール(以下R.S.)は、いずれマニア間で「後期型」と呼ばれるモデルとなる可能性が高い。ルーテシア4そのものはフランス本国はもちろん、欧州全土でもベストセラー争いの一角を占めるヒット作となった。よって、ライフ最大の手直しであるはずの今回でも、その変更内容は、標準のルーテシア4同様に細部装備のアップデートにとどまる。 新しいルーテシアR.S.で公表されている変更点は、基本的には内外の意匠や装備のみ。なかでもハイライトは、R.S.最新ロゴが付いたフロントバンパーに内蔵のチェッカードフラッグを模したLEDランプで、それはデイタイムランプ、フォグランプ、コーナリングランプ、ハイビームランプ……などの機能が一体となったものだ。 今年秋のフランクフルトショーでデビュー予定の次期メガーヌR.S.も、先日のモナコGPにおいてデモ走行を実施した。そのときは全身カモフラージュ柄だったのだが、フロントバンパーには今回のルーテシアR.S.に酷似したチェッカードフラッグ型LEDランプユニットがあった。おそらく今後のR.S.各車はこのLEDバンパーランプを外観上のアピールポイントにしていくのだろう。 カタログ落ちしていたシャシーカップが復活公式発表上は、走行にかかわるメカニズムの変更点はなにもない。ただし、従来のシャシースポールとトロフィーに加えて、日本では一時的にカタログ落ちしていたシャシーカップが復活。これで同車は初めて、日本でも3つのモデルから選べるようになった。 同時にもっとも安価なシャシースポールの装備を見直すことで(エアコンのマニュアル化、オーディオのタッチスクリーン廃止、ボディカラーを3色に限定)、20万円以上の値下げを敢行。そのシャシースポールは、ミニ・クーパーSやVWポロGTI、プジョー208GTi(の標準モデル)などと真正面競合を期す。 今回の取材機会となった箱根のメディア試乗会に用意されたのは、復活したシャシーカップのみだった。そのシャシーカップにしても、フランス本国ではずっと継続販売されてきたもので、「3モデルがついに揃い踏み!」というのは、あくまで日本限定のニュースである。 今回のマイナーチェンジはフランス本国では定例的なテコ入れといえるものだが、日本ではあらためてルーテシアR.S.の販売規模を拡大する戦略的な意味がもたされている。前記のシャシースポールの大幅値下げもその一環だが、いっぽうでシャシースポールは受注輸入という形式に移された。ルノー・ジャポンの思惑は「主力はあくまでシャシーカップ」だそうである。 明らかにアシが滑らか知っている人も多いように、シャシーカップはルーテシアR.S.の中間モデルにあたり、シャシースポールより俊敏でキレのある走り(逆にシャシースポールは、初めて乗るとビックリするほどソフトで快適)を披露しつつも、最上級のトロフィーより20万円安い。ルノー・ジャポンいわく、シャシーカップは「もっともR.S.らしくバランスしたルーテシアR.S.」だそうである。 そんな新しいシャシーカップだが、公式発表をそのまま信じれば、その乗り味は4年前の日本上陸時とまったく同じはずである。しかし、あくまで今回の箱根の山坂道での試乗にかぎれば、当時の記憶より、明らかにアシが滑らかに動いていた。 ロール量そのものは、ビタッと水平姿勢をたもつトロフィーのそれより明確に大きいが、20世紀のフランス車を彷彿とさせるシャシースポールよりも抑制されている。ただ、操舵してからロールしはじめる瞬間が、以前よりリニアで滑らかになり、フルバンプ付近からさらに蹴り上げられたときの吸収力も増している気がしたのは事実。いずれにせよ、当時の記憶よりも乗り心地よく、路面からの衝撃も丸められており、ステアリングやシートから伝わる接地感も濃くなっている。 その理由としては“個体差”の可能性もあるが、シャシーカップ専用タイヤのダンロップ・スポーツマックスRTが、今回の試乗車では“RT2”へとアップデートされた恩恵かもしれない。また、ルノーはR.S.にかぎらず、クルマ全体の仕様変更やマイナーチェンジとは別メニューで、各部品単位で部品番号も変えずに密かに改良されるケースもめずらしくない。日本販売が途絶えていた間に改良が実施された可能性もある。いずれにしても、こうした“謎のランニングチェンジ”はルノー・ジャポンも把握できない場合が大半で、われわれ外部のクルマ好きが知る術はない。 スポーツ性と日常性の絶妙な妥協点それはともかく、ひさびさに乗ったルーテシアR.S.シャシーカップはやはりステキなホットハッチだった。前記の競合車のどれよりも硬質なハンドリングを示しながらも、乗り心地も必要最低限以上の快適性を担保している。 まあ、1980~90年代のフレンチホットハッチをリアルタイムで味わった世代(私も含む)には、シャシースポールの懐かしさすらおぼえる滋味も捨てがたい。また“手に吸いつくような回頭性”という意味ならトロフィーだ。現在の日本で手に入る同クラスホットハッチで“コーナリングのキレ味”だけで選ぶなら、個人的にはルーテシアR.S.トロフィーとプジョー208GTiバイプジョースポールが双璧……と思う。 そう考えると、サーキットまで含めたスポーツ性と日常性の妥協点としては、シャシーカップがもっとも絶妙である。ルノー・ジャポンがそれをイチオシにする理由も納得できる。 順調に台数を伸ばすルノー・ジャポンだが…しかし、新しいルーテシアR.S.が発売されて1ヵ月が経過した今の時点では、そのルノー・ジャポンの思惑がドンピシャ……とまではいえていないのが正直なところらしい。やはり、現在は最上級のトロフィーに人気が集中する傾向にあり、トロフィーのウェイティングリストが伸び続けているのに対して、シャシーカップは量販を見込んで輸入台数を多く設定したこともあり、ほぼ即納といっていい状態という。 私自身も先代ルーテシア3のR.S.を所有するR.S.信者のひとりだが、トロフィーに人気が集中する気持ちは痛いほどわかる。だいたい、こうした特殊なスポーツモデルを好む日本のエンスージァストは、R.S.ならずとも“いちばんすごいヤツ”がほしいものだ。それは理屈ではない。ただ、冷静客観的に考えれば、1台で生活のすべてをまかなう用途には、シャシーカップのほうが好適なのも事実である。 もっというと、ルノー・ジャポンのこうした傾向はR.S.にかぎらない。標準のルーテシアやトゥインゴでも最上級“インテンス”に人気が集中して、本来はもっとも買い得なはずの中間グレード“ゼン”が思ったほど伸びない……のが彼らの悩みなのだ。 ルノー・ジャポンの年間販売台数は2010年に前年比プラスに転じて以来、ずっと右肩上がりで成長しており、昨16年にはついに5000台突破の5082台を記録した。そして、今年6月までの半年間の新規登録台数はすでに4008台に達しており、今年も前年比プラスを達成する可能性が高い。 こうして着実に成長を続けるルノー・ジャポンだが、今のように高価な最上級グレードに人気が集中する市場構造は、カルト商品の典型ともいえる。ルノー・ジャポンが年間1万台レベルのメジャーな輸入車ブランドに脱皮するには、やはり、もっとも買い得感の高い中間グレードがきちんと売れる構造にしなければならない。シャシーカップを復活させたルーテシアR.S.の戦略も、ルノー・ジャポンがメジャー化に向けた次のステップに進むための伏線でもある。 スペック【 ルーテシア R.S. シャシーカップ 】 |
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