なにやら愉しそうな雰囲気7月の初めに東京でプレス発表会が開かれた新型シトロエンC3は、そのユニークなエクステリアデザインでクルマ好きの興味を惹きつける魅力を持つクルマだった。コイツを生活の一部に採り込んだらなにやら愉しそう、という気にさせるクルマだったのだ。 2段構えのグリルとライトをもつ分厚いボンネットに始まるそのスタイリングは、やや高めの全高や、ボディサイドの前後ドアに掛けて備わるエアバンプと呼ばれるプロテクションモールのためもあって、ひと足先に発売された同社のC4カクタスとも共通する、ハッチバックというよりもむしろSUV風な雰囲気を大きな特徴としている。 C3のポジションはシトロエンのBセグメントカーだから、フォルクスワーゲンでいえばポロに相当する。C3のボディサイズは、3995×1750×1495mm、ホイールベース2535mmというもので、現行ポロは2009年デビューのクルマゆえ今日の標準より小さいが、ポロと比べると全長は同じ、幅は65mm広く、背が35mmほど高いことになる。 パワートレーンも時代遅れではないかつてフランスの小型車というと、デザインは個性的でサスペンションも先進的だが、パワートレーンがやや時代遅れ、というイメージがあった。しかし新型C3は違う。エンジンは今風のダウンサイジング系で、1.2Lの3気筒ターボを搭載。 パワーは110ps/5500rpm、トルクは205Nm/1500rpmを発生。組み合わせられるトランスミッションはアイシンAW製6段ATの最新仕様と、これも充分に時流に乗っている。対する車重は1160kgというから、ボディサイズのわりに軽い方だといえよう。 サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームの半独立という一般的な形式だが、そこはそれフランス車、しかもそのなかでもシトロエン、独特のセッティングが施されているのではないかと、期待が膨らむ。 想像するより安い日本発売モデルは「C3 FEEL」と「C3 SHINE」の2車種で、ベーシックな前者が216万円、装備の豊富な後者が239万円という税込みプライスにも、ちょっと意外性がある。もちろん、想像するより安い、という意味で、である。 ただし、今回の試乗車はそれらとは異なり、発売直後に200台が限定販売される「C3 SHINE Debut Edition」というモデルだった。これは、装備的にはSHINEをベースにしながらも、アクティブセーフティブレーキなどのドライバーアシスタンスが装備されず、代わりに標準では16インチのタイヤが17インチ径になる。で、プライスは226万円。 落ち着きの中に洒落っ気もあるインテリア運転席に乗り込むと、普通のハッチバックよりやや高め、でもSUVよりはちょっと低めという、微妙なドライビングポジションに落ち着く。シート自体は昔のフランス車のようにソフトなものではなく、適度なコシとハリを感じさせる座り心地である。 インテリアのデザインは水平基調の落ち着いたもので、フランス車らしい洒落っ気も感じさせる。なかでもこのDebut Editionの場合、ダッシュやシート前端に配されたイミテーションレザーのトリムが、ちょっとした高級感を演出している。 リアシートをチェックすると、レッグルームは特に広いという印象はなく、まずまずというところだが、左右の幅とヘッドルームには充分な余裕がある。ラゲッジルーム容量は300Lで、全長4m以下のハッチバックとしては広い方だろうと思う。 “味”をともなう独特の軽快感走り出して最初に感じたのは“軽快感”だった。そこにはパワートレーンから生み出されるものとシャシーから生み出されるものの両方があるが、まずは前者について書いてみよう。 1.2Lの3気筒ターボとハイギアリングな6段AT、それにサイズのわりに軽い車重の組み合わせは、独特の加速感を生んでいる。エンジンは1500rpm前後からも有効なトルクを捻り出すから、軽く踏み込んでもグイグイッという感じで確実にスピードを上げていく。 低回転から加速する際には、独特のバイブレーションがスロットルペダルに伝わってくるが、それはある種の味を感じさせるもので、決して不快ではない。さらにいえば、アイドリング時の音や振動にも、不快感を覚えることは皆無だった。 3気筒であることを意識させない高速道路におけるメーターの100km/hは、Dレンジ6速で2000rpmプラスという低回転だから、静かで平和なクルージングが味わえる。一方、エンジンは中~高回転域に至ると回転感がスムーズになって、3気筒であることをほとんど意識させなくなる。 クルージング中も必要な場合にスロットルを深く踏み込めば、キックダウンを効かせた活発な追い越し加速が手に入る。高回転域を使った全開加速も特に強力なパンチを感じさせるものではないが、パフォーマンスは高速でもまったく充分という印象だった。 乗り心地の良さが際立つのは高速域ではシャシーのもたらす軽快感はというと、まず街中を流すような低速では、ステアリングの軽さがそれを強調する。とはいえこの電動パワーステアリング、常に軽いわけではなく、スピードを上げると適度に重くなるし、コーナリング中にも明らかに手応えを増す。 と同時に、脚の動きもその軽快感にひと役買っている。乗り心地は、少々意外なことに低速では常に軽い上下動をともなうが、しかしその感触は日本車ともドイツ車とも違うもので、まぎれもなくフランス車、それもシトロエンのそれだといっていい。 ただし、路面の状況によっては17インチタイヤのバネ下の重さを感じることがあるから、乗り心地の面からいえば標準の16インチタイヤが望ましいはずだ。 新型C3が乗り心地で最良の面を発揮するのは低速ではなく高速域で、高速道路のクルージングスピードに至ると、シトロエンらしいフラット感が味わえることになる。それも100km/hではまだ物足らず、フランスの自動車専用道、オートルートの法定最高速である130km/hに達するあたりが最も快適なのではないか、と想像できる。 と同時に、スピードが上がるにつれて直進性が明確になっていくところも、かつて「DS」や「CX」といった陸の巡洋艦のようなクルマを生み出していたシトロエンらしい。高速での安定感は、このサイズの小型車とは思えぬ素晴らしいレベルにある、と僕は感じた。 ワインディングの足さばきも侮れないでは、山道ではどうなのか。実はシトロエン、昔からそのイメージと違ってワインディングロードも得意としていたが、もちろん新型C3もその例外ではなく、攻め入った箱根山中でも好ましいフットワークを見せてくれた。 前記のように、切り込むと同時に手応えを増すステアリングを操ってコーナーに進入すると、サスペンションがソフトに感じられるわりにロールの少ない安定した姿勢を保ち、ほとんどニュートラルといえる軽いアンダーステアも維持したままコーナーを抜けていく。ここには、Debut Edition専用の17インチタイヤも効果を発揮しているはずだ。 つまりC3、ややSUV風のルックスにもかかわらずコーナーでのフットワークは軽快で、ワインディングを好むドライバーの手に掛かれば、侮れない実力を示してくれるのである。さらにブレーキが存外強力なことも、その特性を見事にバックアップしている。 見た目はアヴァンギャルドでも中身はしっかりさてこの新型シトロエンC3、まずは目にした途端にそのエクステリアやインテリアのデザインに惹きつけられる種類のクルマだが、ドライビングしてみても破綻のない、よくできた現代的な小型車であることが分かった。 では、どんなユーザーに向いているのかと考えてみると、まずはこのちょっとアヴァンギャルドなスタイリングに違和感を覚えず、魅力的だと感じられることが最初の条件ではないかと思う。もちろん内装に関しても同様だが、インテリアのデザインは意外なほどマトモなものだから、特に問題はないだろう。 もうひとつのファクターはそのドライビング感覚だが、とにかく身のこなしの軽快感が印象に残った。したがってC3には、クルマの挙動に重厚さよりも軽さを求めるドライバーが相応しいと思う。とはいえその挙動は、軽快でありながら決して不安定なものではなく、なかでも特に高速での直進性などはすこぶる落ち着いたものだ、といっていい。 つまりC3は、見た目の印象のとおり、これまでの同クラス車にはなかったユニークなキャラクターを持つクルマであり、そのことがこの新しい小型シトロエンの最大の魅力でもある、と思った。しかもそれが、216~239万円という予想外に低いプライスゾーンにあるという事実も、もちろん大きな魅力のひとつだといえる。 スペック例【 C3 SHINE 】 |
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