秘めた高性能を安全に楽しめるユーザーイベントが増加中音楽CDは売れなくてもライブは大盛況だったり、TVドラマの視聴率は低迷しても舞台には集客力があったりと、最近の日本のエンターテイメント界では消費者行動に変化がみられる。文化的に成熟してくると、“生の体験”に価値を見出すようになるのだろう。 実は自動車業界でも同じような現象がおきていて、一般ユーザーにクローズドコースで安全にパフォーマンスを体験してもらうイベントが増加中。とくにブランド力向上に余念のない、プレミアム系が力を入れている。その筆頭といえるアウディは、日本でも2001年から「アウディ・ドライビング・エクスペリエンス」を実施してきた。 その中でもとくに濃密なのが、8月8日に富士スピードウェイで開催された「アウディスポーツ・ドライビング・エクスペリエンス」だ。サブブランド「Audi Sport」の名を冠した同イベントは、R8やRSモデルにサーキットで試乗できるという特別な位置付け。その他にもジムカーナ場のような広場で急制動やパイロンスラロームなどのトレーニングも用意されている。通常は3万円ほどの費用がかかるところ、今回はキャンペーンとあって抽選で20名を無料招待。アウディジャパンのホームページ上での応募だが、もちろん瞬殺だったようだ。 イベント前日の富士スピードウェイではスーパーGT第5戦が開催され、そこに参戦している「R8 LMS」の走りを見て、その翌日に同じ場所を自分で走るというのが王道的な楽しみ方だ。また、このイベントでは多くのプロドライバーがインストラクターを務める。今回はR8 LMSのステアリングを握るリチャード・ライアンと柳田真孝の両選手も名を連ねていた。 ちなみにアウディはカスタマー向けにレースカーを供給しており、日本でもスーパーGTやスーパー耐久でサポート。ワークス的な扱いのチームはなく、公平に戦闘力の高いマシンが供給されるとあってカスタマーチームからの評価も高いようだ。 リニアかつ圧巻のパワーと類稀なる安定感…R8クーペ V10 plusイベントの目玉は、アウディのフラッグシップスポーツ「R8クーペ V10 Plus」のサーキット試乗だ。ピットロードには、このためにわざわざドイツから運ばれてきた13台のR8 V10 Plusが並ぶ。試乗は先導車付きで4周。フリーで走れないのは残念ではあるものの、こういったイベントでは当然だろう。610psものパワーを誇り、ストレートでは250km/hを軽く突破するスーパースポーツを放し飼いにされては、参加者のほうだって戸惑うからだ。それでも4周というのは、このテのイベントとしては多いほうで良心的かもしれない。3台の試乗車が1グループとされ、先導車のプロドライバーが安全を考慮しつつも後続を見ながらペースをコントロールするのだが、たまたまレース経験者が固まっていたことで思っていたよりも速いペースで周回できたのはラッキーだった。 R8の魅力の一つが、絶滅危惧種の大排気量NAエンジンだろう。5.2L V10はスタンダードで最高出力540ps/最大トルク540Nm、今回の「Plus」は610ps/560Nm。富士スピードウェイの長いストレートでは存分にアクセルを全開にさせてもらったが、8700rpmまでシャープに回るV10を、小気味いいデュアルクラッチ・トランスミッションを操りながらの加速は快感の極み! ターボ・エンジンのスーパースポーツは中間加速の強烈さなど魅力はあるが、やはりNAの、回転上昇とともにパワーがリニアに炸裂していくフィーリングやレスポンスの良さは格別だ。ストレートエンドではマージンをとって早めに減速に入ったが、260km/hを超えても加速にはまだ勢いがあった。 パワーからして圧倒されるR8 V8 Plusだが、シャシー性能はそれを上回るほどに頼もしい。今回はESC(車両安定装置)はオンのまま、よりハンドリングの自由度が増すパフォーマンスモードは使わない条件での走行だったが、その限りにおいては安定志向が強く、よほどの無茶をしなければ破綻はまずしないだろうと確信できる。プロドライバーではなくても、610psの加速を堪能できるのだ。高い操縦安定性によって絶大な安心感があるのがアウディの持ち味であり、このPlusでもそれは実現されている。 パフォーマンスモードやESCオフに挑めばまた違った一面を見せてくれるのだろうが、それはオーナーになってから。約3000万円のスーパースポーツを試乗できる機会だって貴重なのに、アクセル全開まで試せるなんて太っ腹もいいところだ。 独特のビート感と切れ味鋭いコーナリング…TT RSクーペお次はショートコースに舞台を移し、こちらも先導車付きで「TT RSクーペ」を走らせた。個人的には今回が初試乗。朝から雲行きが怪しかったが、試乗する頃には雨が降って完全なウェットになってしまった。だが結果的には興味深い試乗となった。滑りやすい路面を走ることで、シャシー性能の高さがより明確になったからだ。 R8 V10 Plusに比べれば気軽に乗れるとはいえ、TTシリーズ最強のTT RSクーペは400psの2.5L 直列5気筒ターボエンジンを搭載。ひと昔前のスーパースポーツ並のパフォーマンスを誇るとあって、ウェットのなかでは慎重なペースで走りだした。さほどスピードが高くなくても、ボディがガッチリとしていてサスペンションはスムーズにストローク、タイヤが路面にしっかりと押しつけられている確かな接地感が伝わってくる。アップダウンや路面のうねりが多いショートコースを走っていても接地性の変化が少なく、たとえタイヤが滑ったとしても安心して操れると直感したが、ペースを上げていけばそれは確信に変わるのだった。 スポーツモードにすると後輪への駆動力配分が増える専用設定のクワトロ・システムは安定性と俊敏性のバランスが絶妙。コーナー入り口ではノーズをスーッとイン側へ向けることが容易く、そこからアクセルオンに移ればどっしりと姿勢が安定する。まるでFRのよう、とまではいかないが曲げにくい感覚などまったくなく、しかも多少姿勢が不安定方向へいったとしてもアクセルワークで素早く安定させられるから安心だ。さらにフロントの駆動も上手く使えば、驚くほど早いタイミングでアクセルを踏みこんでいけることも痛快。加速しながら旋回力が増していく感覚を伴いながら、強烈なトラクションでコーナーを立ち上がっていく。 直列5気筒ターボのエンジンは独特のビート感があって心地良く、トップエンドのキレの良さが魅力。直列4気筒ターボのライバル達よりも断然興奮度は高く、過給器付きとしては異例に回して楽しめるユニットだ。公道で性能を引き出しきることは不可能ではあるが、R8に比べれば速すぎないゆえの楽しさがある。普段使いしながら、たまにサーキット走行を楽しむのなら、TT RSクーペは非常に満足度が高いモデルだろう。十分な速さと使い切れる楽しさのバランスが高いからだ。 雨脚が強くなったため、広場でのパイロンスラローム等は試さなかったが、初心者でも安心して走りを楽しめ、トレーニングにもなるプログラムなのでオススメだ。公道では試すことができないハイパフォーマンスカーの性能を存分に楽しむことができるのが「アウディスポーツ・ドライビング・エクスペリエンス」。限界の領域を体験できるので、安全運転への意識も高めてくれるはずだ。 【スペック】R8 クーペ V10 5.2 FSI クワトロ全長×全幅×全高=4425mm×1940mm×1240mm 【スペック】TT RSクーペ全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm |
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