軽自動車の勢力図を塗り替えた初代「似て非なるもの」「確実な進化と深化」。これが新しいN-BOX(プロトタイプ)に試乗した結論である。今回は8月31日(発売開始は9月1日)の発表と同時にこの試乗記事をお届けする。 初代N-BOXの登場(発表)は2011年11月30日。それまでも軽自動車ビジネスを積極的に行ってきたホンダではあるが、やはりダイハツとスズキの二強の壁は高く、一方でユーザーがホンダに抱くイメージや要望に応えることができていたかというと、なかなか難しい日々が続いていた。 当時の開発責任者であった浅木泰昭氏は第二期のF1に携わっていた良い意味での“豪腕”エンジニア。「日本ののりものを変える」というコンセプトは意気込みだけではなく、開発と製造を鈴鹿に集中させるなどビジネス面での改革も行った。 結果としてN-BOXは大ヒット、他のNシリーズもそれに続くわけだが、原点とも言える初代N-BOXがモデル末期である2017年7月の段階でも軽乗用車における販売トップ(全軽自協調べ)であったことは、そのコンセプトや使い勝手なども含め、色あせることがない商品力の高さを証明したわけだ。 音楽の世界では大ヒット後の次作はヒットが難しいというジンクスがあると聞いたことがあるが、果たして新型N-BOXはどのような仕上がりになっているのだろうか。 寸法以上に室内が広く感じるマジックとは?発売前にティザーキャンペーンを行い、事前予約を取ることは今や当たり前のこと。新型もデザインや内装、機能(特にホンダセンシング)なども小出しではあるが露出をしていた。この時、フロントからの写真を見た筆者は「え、キープコンセプトなの?」と少しガッカリしたのを覚えている。しかし実車を前にして、それは大きな勘違いであることを反省した。 寸法制限のある軽自動車には、効率よくパッケージを組み上げ、使い勝手や燃費など時代のニーズに合わせたクルマ作りが求められる。新型の開発責任者である白土清成氏によれば「エクステリアデザインはN-BOXらしさを変えずに洗練や上質という部分にリソースを振り分けた」という。もちろん「それ以外は全部変えました」とのこと。 前振りが長くなったが、クローズドコースに用意されたのは4台のN-BOX。ラインナップは初代同様、N-BOXとN-BOXカスタムの2種類。パワートレーンはNA(自然吸気)とターボ、これにCVTが組み合わされる。また駆動方式にFFと4WDが設定される点も初代と同じ構成となる。 試乗はカスタムのNAモデル(FF)→N-BOXのターボモデル(FF)の順となったが、両車ともクルマに乗り込んだ瞬間思わず「広い!」と素直に言葉を発してしまった。正確に言えば目に飛び込んでくる視界の広さに驚いたのである。もともと視認性の高いN-BOXではあるが、新型は前端部のピラーが極めて細い。ホンダによれば初代より約27mmも細くしたとのこと。「この細さで大丈夫なのか」と思ったが、1180Mpa級の超高張力鋼板を採用することで衝突安全にもしっかり対応しているとのことだ。 室内が広いと感じた理由はもうひとつある。それはインストルメントパネルの造型の巧みさだ。やや難しい話になるが、これは運転席と助手席それぞれの方向からパネルを異なる層として配置することで視覚的に広さを感じさせる工夫が施されている。実際、パネルの色の組み合わせも利いているのだろう。スッと手を伸ばせばエアコンやナビの操作パネルはそこにあるのに、確かに奥行き感が感じ取れるのはちょっとした視覚的なマジックのようにも感じた。 各種スイッチ類の節度感などパーツ類の品質は高い。登録車と同等と言っても差し支えないだろう。またメーター類は外の視界を妨げない一方でインパネの一番高い位置に配置されているので、視線移動は極めて少ない。メーターの一番左側には4.2インチのMID(マルチインフォメーションディスプレイ)が標準装備されているが、軽自動車としてはかなり高価な部類の装備になるだろう。後述するホンダセンシングをはじめ、時計表示やステアリングの舵角位置表示、さらに純正ナビと連携ができる点も大きくレベルアップした部分と言えるだろう。 進化の度合いはNAモデルが上NAモデルから試乗を始めてまず感じたのは、アクセル操作に対してスムーズな加速感が得られることだ。旧型に比べて約80kgの軽量化が走りに効いていることは間違いない。ただこれまではストップ&ゴーの多い市街地などで、出だしこそ元気なのにその後の加速が実際の感覚に追いつかないケースが多々あった。ホンダはこの部分にメスを入れたようで、言い換えれば従来とは逆の考えで加速フィーリングを変更した。つまり出だしはスムーズで追い越し時にはより強い加速を得られるという、実は当たり前のことが出来ていなかった現実を修正したということである。 一方、ターボモデルは当然のことながらパワーがあるので3名乗車でも余裕の走りだ。ここでポイントとなったのは前述した制御がこのターボエンジンにも十分活かされているという点だ。つまり低中速域から十分な動力性能を得ることができるのでアクセルの踏み込み量も少なくて済む。イメージとしては1リッタークラスのNA車に乗っているような感覚。もちろんアクセルを踏み込めば強い加速を得ることはできるが、踏み込み量が減れば必然的に燃費にダイレクトに影響してくる。また試乗車にはパドルシフトも装着されておりスポーティ走行というだけでなく、道路状況に合わせた適切な加速やエンジンブレーキなどが自分でセレクトできる点も魅力と言えるだろう。 接地感もステアリング操作に応じてグラッとくる領域は大分改善されている。今回は両車とも14インチタイヤを装着していたがカスタムのターボ車に設定されている15インチならば乗り心地が多少犠牲になっても接地感はもう少し上がるはずだ。 また同時に静粛性も高まっている。今回、前後席それぞれに乗ってみたが、前席であればエンジン周辺、後席であればタイヤ周辺からのノイズの侵入がかなり少なくなっている。NAの場合、アクセルの踏み込み量が増えると高いエンジン回転領域で唸るような音が発生しやすくなるが、遮音性の向上によって足元よりかなりフロント側で聞こえるようになった。これは赤ちゃんを乗せる機会もあるママには本当にありがたいはずだ。一方、カスタムの静粛性は数値的にもNAより少し優れている。できれば両車とも同レベルにまとめて欲しかったというのは贅沢だろうか。 NAモデルにもホンダセンシングを搭載すべてを紹介するのは難しいほど中身の充実度が高い新型N-BOXだが、やはり伝えたいのは先進安全装備である「ホンダセンシング」を全グレードに標準装備した点である。この手の装備はこれまで上級グレード、またはターボ車などに設定されていることが多かった。しかしNA車も含めて標準化した点には拍手を送りたい。 「他社の軽自動車にだって先進安全装備はあるだろう」。そんな声も聞こえてくるかもしれない。しかし登録車でも採用されているホンダセンシングには自動車専用道路などで有益なACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やLKAS(車線維持支援システム)が搭載されている。これまで同システムはこれらを含めて基本8つの機能を搭載していたが、今回N-BOXには新たに「後方誤発進制御機能(ホンダ初)」と「オートハイビーム(ホンダ軽初)」の2つの機能も追加された。 つまり従来システムの“簡易型”はおろか、“最新版”が装着されていることになる。「軽自動車だからこの程度でいいだろう」ではなく「軽自動車も安全という点は同じ」という考え方は大いに共感できるものだ。実際、クローズドコースで使ってみても効果は十分感じられる。ACCは全車速対応ではないが、それでも高速走行時のアクセル操作による疲労軽減はかなり期待できる。 新しい「N-BOX神話」が始まりそう最後に、新型にはグレード名の後ろに“EX”が付いているモデルがある。これは570mmもスライドする「助手席スーパースライドシート」装着車のことだが、今回我々は試乗車の関係で実際に試すことはできなかった。 ただ実装備を見た印象としては、機能としては面白いし、使い勝手は間違いなく良いだろう。子育てファミリーにはオススメするし、そうでなければ元のリアシートアレンジ(5:5分割で前後に190mmスライド&3段階リクライニング機構など)も優れており、さらに後席足元の広さも拡大されたのでこれでも十分過ぎるほどだ。ここはユーザーニーズに合わせて選ぶことをオススメする。 冒頭で「ヒット曲の次作はヒットしづらい」と書いたが、N-BOXに関してはそれは当てはまらないだろう。先進安全装備の標準装備化で最も低価格なグレードでも130万円(税込)を超えてしまったが、使い勝手や走り、何よりも車両そのものが大きくレベルアップしてコストパフォーマンスが高まったことで、新しい「N-BOX神話」が始まりそうだ。 プラスαの話だが、2018年春にはこの優れたプラットフォームを活用して介護だけでなく趣味にも使えるスロープ仕様も登場するとのこと。NシリーズにはすでにN-BOX+があるが、これよりも操作性が向上するとのことでこちらにも注目である。 スペック【 N-BOX G・Lターボ ホンダセンシング 】 【 N-BOX カスタム G・L ホンダセンシング 】 |
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