予想の遙かに上を行くスーパースポーツフェラーリ、ポルシェ、マクラーレン…。あまたのスーパースポーツたちが今、サーキットやニュルブルクリンクで最速の座を賭けてラップタイムを競い合い、覇権争いを繰り返している。しかしもっともアグレッシヴに“スピードの快楽”を追い求めているメーカーがあるとしたら、それはランボルギーニである、とボクは思う。 今回はそのランボルギーニの頂点に立つ「アヴェンタドール」と、もはや“赤ん坊”とは呼べない性能を持ったベイビー・ランボ「ウラカン」の最新モデルに乗ることができた。舞台はランボルギーニが主催する顧客向けのイベント「Esperienza & Accademia FSW」。国際サーキットである富士スピードウェイで、その実力の片鱗を試した。 最初に紹介したいのはウラカンの「ペルフォルマンテ」だ。“Performante”はイタリア語で「パフォーマンス」を意味する言葉。いきなり横文字が並ぶと身構えるのは筆者も同じだが、イタリア語の場合はローマ字読みするとわれわれ日本人には比較的発音しやすく、慣れてしまうと覚えやすいのがまた面白い。 ボクは初めてこのウラカンに試乗したとき、ある種の物足りなさを感じていた。自然吸気のV型10気筒エンジンを搭載するミドシップ4WDスポーツに不満を漏らすなんて罰当たりな話だが、たとえその電子制御システム「ANIMA」に「コルサ」(イタリア後でコース。サーキットの意味だろう)モードを備えていようとも、その極めてしなやかな足回りと、アウディ譲りの4WDシステムが鉄壁のグリップ性能を誇って、怒濤のV10パワーすらコンフォートに感じてしまっていたからだ。 逆にいうとそれは、サーキットのような舞台では「物足りなさ」と感じられてしまうのも事実。これだけのシャシー性能とパワーを持つスポーツカーを、俊敏な動きで操ってみたい…。そう思うのは、自然な成り行きだったのだと思う。そして登場したペルフォルマンテは、そんなボクの予想の遙かに上を行くスーパースポーツだった。 可変空力デバイス「ALA」の制御に感動ライバルたちが続々とターボ化するなか、アウディと共に自然吸気エンジンで孤軍奮闘するランボルギーニ。そのV10エンジンはもはやこれ以上のパワーアップなど望めないと高をくくっていたが、さらなる軽量化と排圧損失の見直しによってそのパワーは+30psの640ps/8000rpm、トルクは+40Nmの600Nmにまで高められていた。 これに対してシャシーは垂直方向で10%、ロール方向で15%剛性を高め、サスペンションアームのブッシュたちもしっかりと固められた。しかし何より興味をそそられたのは、可変空力デバイスがこのペルフォルマンテに与えられたことだった。ALA(エアロダイナミカ・ランボルギーニ・アッティーバ)と名付けられたそのシステムは、前後バンパーに内蔵されるフラップを適宜制御することで、ダウンフォースの増加をシチュエーションごとに変更してしまうのである。 特に感動的だったのはリアフラップの制御だ。ひとつはバンパー直後の制御で、これが開くことによってリアディフューザーで拡散された空気は遠くへと追いやられ、より多くの空気が床下から排出できるようになる(つまりダウンフォースが上がる)。またそのエキゾーストパイプも、バンパー直後の負圧を吹き飛ばせるようにと、適切な位置に配置されている。これはF1でかつて一世を風靡した「ブロウン・ディフューザー」と同じ効果を持っているはずだ。 アイデアものだな! と感心したのはリアウイングの作り込みだった。ウイング下面の表面積が増やせるスワンネックタイプのウイングは中空構造となっており、ここにも空気が通るのだ。そして走行中、高いダウンフォースが必要なときはフラップを閉じウイングの効果を上げる。かたやストレートではフラップを開けて空気を流し、ウイング下面の気流を剥離させることでストレートスピードを向上させるのである。これはかつてF1で使われた「Fダクト」の理論そのものだ。ちなみにペルフォルマンテの最高速は325km/hにもなるという。 さらにランボルギーニがすごかったのは、これをF1の猿まねで終わらせなかったこと。彼らはここからウイングのフラップを左右別々に制御。コーナーではイン側ウイングの通気孔を閉じ、内輪の接地性を上げることができたというのである。そして彼らはこれを“エアロベクタリング”と命名した。モータースポーツではF1をはじめとした多くのカテゴリーで、開発競争の激化を防ぐために可変空力デバイスが禁止されている。しかし市販車ではそのルールはない。これからのスーパースポーツは、こうした空力性能時代に突入するのだな…という未来をこのペルフォルマンテは予感させてくれた。 エンジンの刺激と対照的に洗練されたハンドリングそんなペルフォルマンテをサーキットで走らせるのは、この上ない喜びだった。5.2リッターの排気量を持つV10エンジンは、かつてのフェラーリ458イタリアほどのカン高いソプラノを奏でることはない。しかし低回転域でビブラートしていたマルチシリンダーの爆発サウンドが、回転が上昇するほどに揃い、野太く突き抜けて行く。そしてアクセルを踏めば踏んだだけパワーがわき上がり、その強大なトルクが4WDのトラクションによってあますところなく路面に叩きつけられる。その加速力は体中のドーパミンが一気に溢れてしまうほど気持ちよく刺激に満ちていて、これがレッドゾーンの8500rpmまで到達した途端にパドルを引けば、7速DCTが間髪入れずに“おかわり”をくれる。 意外だったのはそのハンドリングが、エンジンの刺激とは対照的に、極めて洗練されていたことだ。スプリング&スタビライザーを固めたという足回りは予想よりかなり柔らかく、そのボディ剛性の高さからすればもっと固められるのでは? と最初は感じた。それでもステアリングを切り込んでいくと、ペルフォルマンテは忠実にそのノーズをコーナーのイン側へと向けて行く。そしてこのしなやかな足回りに適切な荷重を与えれば、曲率の高いコーナーでもグイグイと回り込む。 さらに高い旋回速度を保ったままブレーキを離し、横方向へ荷重を移して行くと、適度にリアタイヤを滑らせながら向きを変えてくれる。スライド時の挙動もゆっくりとしていて扱いやすく、クイックな小径ステアリングで合わせて行くだけでこれをコントロールすることができてしまうのだ。そしてここからアクセルを合わせて行くと、4WDのトラクションが横方向のGを縦方向に変えて、しっかりと直線的に立ち上がってくれる。 ANIMAは「スポーツ」モードがオーバーステア気味で、「コルサ」モードがより実践的な弱アンダー傾向とされているが、ペルフォルマンテは全体的なグリップ性能が向上したこともあってか、コルサモードでより真剣味のある挙動コントロールを楽しめた。追い込めばブレーキング時にリアの接地性が失われる傾向があり、もっとノーズダイブを減らすべく足回りやエンジンマウントを固めてもよいのかな…とも思える部分も確かにあった。タイヤ(ピレリ P ZERO 2)への依存度が高く、このライフが尽きると動きがルーズになりすぎるのは、これだけの速さを持つスーパースポーツなのだから仕方のないところだと言えるだろう。 しかし、これほどに高次元かつ刺激的な走りを、まったくの趣味でロードカーとして楽しめてしまうということには、ただただ驚嘆するという他に言葉がみつからない。3400万円オーバーという価格はそれだけを聞けば一般的にはばかげた話だが、それだけの価値がこのペルフォルマンテには込められていると素直に感じる。ランボルギーニは先代のガヤルドから、常にまじめなクルマ作りをしてきた。だからこそこれを、心から賞賛できるのだとボクは思う。 リアホイール・ステアリングの効果が印象的話がウラカンに終始してしまったが、フラッグシップモデルであるアヴェンタドールも、「アヴェンタドールS」となり登場から7年を経過しながら、その進化に磨きをかけてきた。動的キャラクターにおける一番の特徴である6498ccのV12エンジンは、従来から+40psの740psとなり(最大トルク690Nmは変わらず)、7速トランスミッションは相変わらずのシングルクラッチながら、カーボンコーティングされたシンクロナイザーを採用するなど、その変速スピードや耐久性を向上させてきた。 アヴェンタドールを走らせて最も印象的だったのは、じつはその恐ろしいまでのパワーではない。それはあの巨漢が、セクター3のような曲がりくねったコーナーでも機敏にクイクイと向きを変えることだった。その秘密は今回追加された4輪操舵、特に後輪を操舵するリアホイール・ステアリングの効果だ。これは高速域では同位相、低速域では逆位相にリアタイヤをステアする機構で、ステア角と連動して-500mmから+700mmまでホイールベースを増減させたのと同じ効果が得られる。 またこの4WSに合わせて4WDのトルク配分も変更し、よりスポーティな走行を可能としてきた。よって100Rのような高速セクションでは、外観の変更によって130%も向上したというフロントのダウンフォースによってステアリングがビシッと決まり、その上でリアの接地性が非常に高く保たれていた。 “猛牛ならし”で得られるカタルシスがあるただ最新のウラカンと比べてしまうと、残酷な話だがその走りは古い。100馬力パワーがあり、193kg重たいボディは慣性重量が大きく、その動きは機敏性に欠ける。そしてサスペンションやブッシュ類の柔らかさが、ブレーキング時に重たいリアセクションをぐらぐらと動かしてしまう。なによりシングルクラッチのミートがストレートでも強烈なショックを作り出し、乗り手の不安を盛大に煽る。 だが、しかし…。そのシャシーとエンジンとトランスミッションが、それぞれバラバラに動こうとする状況をなだめすかしながら、可能な限り速く走らせようとしたとき、そこには不思議なカタルシスが生まれた。言ってみればそれは、じゃじゃ馬ならしならぬ“猛牛ならし”。 猛牛と呼吸が合うようになると、一緒に走っていることが楽しくてならないのだ。特にウラカン以上に依存度が高いタイヤを新品に換えてからの走りは見違えた。まるでちょっと荒削りな赤ワインをグイッと飲むような、スリルと興奮と、ある種の気品が味わえたのである。 動的質感を何より優先するなら、ウラカンを選んだ方がいい。しかし背中にV型12気筒エンジンを背負うランボルギーニの魅力は、速さだけでは決して語れないのだと、今回の試乗で心から理解することができた。つまりこのアヴェンタドールは、伝説のランボルギーニであるカウンタックの正統後継者なのだ。伝統のシザースドアがウラカンに与えられなかったのは、そういうことである。 スペック【 ウラカン・ペルフォルマンテ 】 【 アヴェンタドール S クーペ 】 |
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